書面による贈与契約が撤回できないのなら,書面による死因贈与契約も撤回できないの?

 いいえ,撤回できます。

 民法第550条は,「書面によらない贈与は,各当事者が撤回することができる。」と定めていますので,書面による贈与契約は撤回できないことは明らかです。
 そうしますと,書面による死因贈与も撤回できないのではないかという疑問がわきますが,遺言の場合は,書面でなされるのに,撤回ができます。
 すなわち,民法1022条は,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と定めております。

 死因贈与契約は遺言による遺贈と実質的には同じであるので,死因贈与契約にも,民法1022条が適用(これを準用といいます。)されるというのが判例の見解です。
 したがいまして,書面による死因贈与契約も撤回できます。

 ただ,事案によっては撤回できない場合もあります。
 最高裁昭和58.1.24判決は,土地の所有者が,土地の耕作者に対し,明渡を求める訴訟を起こし,一審で敗訴し,控訴審で,耕作者との間に,死因贈与を含む和解ができた事案では,その死因贈与を撤回することはできない,と判示しております。
 また,東京地裁平成7.1.25判決は,負担付死因贈与契約にも民法1022条の撤回規定は準用されるが,受贈者が約旨に従い負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には,右契約の全部又は一部を撤回することがやむを得ないと認められる特段の事情がない限り,民法1022条は準用されるべきでない,としています。