手附は,契約の最初の段階で授受される金額で,
①契約成立のしるしとして授受されるもの(これを「成約手附」といいます)
②買主が売主に手附を交付したときは,買主は手附を放棄することで,また売主は倍額を支払うことで,それぞれ,契約を解除することができるというもの(これを「解約手附」といいます。)
③買主に契約違反があれば没収され,売主に契約違反があれば倍返しをするというもの(これを「違約手附」といいます)
がありますが,民法では,別段の取り決めをしていない場合は,解約手附とされております(民法557条)。
内金というのは,代金の一部のことです。
売買契約の中で,手附に関する約束がある場合,売買契約は「主たる契約」と言われ,手附契約は「従たる契約」と言われ,手附事態が独立した契約になります。
一方,内金の約束があっても,その約束は売買契約の内容でしかなく,独立した契約にはなりません。
それというのも,売買契約が,「当事者ノ一方カ或財産権ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其代金ヲ払フコトヲ約スル」(民法555条)ことで成立する契約(このような約束あるいは合意のみで効力が生ずる契約を「諾成契約」といいます)であるのに対し,手附契約は,「手附ヲ交付シタルトキ」でないと契約は成立しない(民法557条。このような金銭その他の有価物を相手方に交付しないと効力が生じない契約を「要物契約」といいます。)という違った性格を持つからです。
この違いは,次のような効果で現れます。
売買契約で,買主は,手附として100万円を支払う約束をしますが,契約の日に50万円しか用意していなかったため,契約の時は,手附の半額としてこれを支払ったとします。その後,買主は手附放棄をして売買契約を解約する場合,50万円だけの放棄でよいのか,後50万円を支払って100万円を売主に与えないと契約の解約ができないのか,という問題が生じますが,この売買契約で手附とした交付された金額は50万円ですので,この50万円が手附となり,買主はこの50万円を放棄することで売買契約を解約できることになります。
手附の残金の50万円の支払約束は,手附契約の要物性から無効と言うことになるのです。
一方,内金の支払は売買契約の内容になり,一定期日までに内金を支払う約束があれば,これは有効になります。