7-2 固定資産税過大徴収事件―当事者訴訟でなければできない損害回復

 これは,ごく最近である平成22年6月3日の最高裁判所判決事案です。

1 固定資産税の過大徴収事件の多発
 冷凍倉庫を一般倉庫と誤り,固定資産税が過大に徴収される事件が,起こりました。多くの市町村は,長年にわたってこの違法な課税を続けていたのです。
2 問題点
 違法な課税処分とそれに基づく納税がなされた場合,法的には,固定資産税の法廷納期限の翌日から5年を経過したときは,課税庁はその課税処分を取消・変更が出来ず(地方税法17条の5第2項),また過納金の還付もできないのです。そして,納税者自身も,過納金の納付日から5年を経過した後は, 時効により還付請求ができなくなる(同法18条の3第2項)のです。
 つまり,違法な課税処分に対して,その取消し,あるいはその無効の確認という,伝統的な争い方(抗告訴訟)では,救済されるのは5年分だけというのが,法律の規定であり,従前の考えだったのです。この事件の納税者は,平成14年分から平成17年分までの過納した固定資産税の還付は受けることができましたが,それより古いものの還付は受けることは出来ませんでした。

3 もっと前の過大固定資産税分を取り戻せないか?
 この事件の納税者は,昭和62年から平成13年までの分の還付を受けることができなかったので,その争い方でなく,違法な課税処分を,国家賠償法による「不法行為」として捉え,課税処分の取消を経ないで,いきなり,市町村に損害賠償の請求をする方法を選んだのです。
 この方法だと,違法な課税処分を知ったときから3年間,違法な課税処分がなされたときから20年間の過納金の返還請求が出来ることになるのです。

4 公定力理論が邪魔をするか?
 ここで,問題になったのが,「行政処分の公定力」です。
 公定力とは,その行政処分が,重大かつ明白な瑕疵があって無効とされる場合以外は,有効なものと扱われ,執行力などの効力を有するという「力」あるいは「効果」ですので,この公定力を認める限り,
 課税処分を取消さないで,その「違法性」を根拠に損害賠償の請求はできない,という理論になるはずなのです。この事件の原判決は,行政処分の公定力を根拠に課税処分の取消をしないで,損害賠償の請求はできないと判示し,納税者を敗訴させました。

5 最高裁判所の判断
 これに対し,最高裁判所平成22年6月3日判決は,課税処分の取消をしないでも,損害賠償の請求はできると判示し,原判決を破棄しました。
 これは,抗告訴訟ではなく,当事者訴訟で,住民(納税者)を救済した事例です。
 この判決は,今後,当事者訴訟を活用することで,広く,国民の権利の回復につながると高く評価された判決です。