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欠陥住宅問題

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<欠陥住宅問題

1 最近、建築の欠陥問題が起こり、新たな法律も出来たと聞きましたが、何が原因で、建築問題が起こったのですか。
 平成7年の阪神大震災がきっかけの一つです。
 阪神大震災の時、比較的新しく建てられた建物でも、法律が最低限守るべきとしている、筋交い、火打ち土台、耐力壁、基礎などの構造を手抜きしたものがあり、倒壊の原因になりましたが、この時以後、にわかに住宅問題がクローズアップされてきました。
 その後、秋田県等が出資した秋田県木造住宅(株)が多数の欠陥住宅問題を起こしながら破産宣告を受けた事件が起こり、平成10年には建築基準法が改正され、平成11年には住宅品質確保促進法が公布(平成12年4月1日から施行)されて各地の弁護士会が指定紛争処理機関に指定されるなどに発展し、社会的な関心の大きな問題になりました。


2 欠陥建物は何故生産されるのですか。

 欠陥問題を扱う弁護士の中には、重畳的下請システムに原因があるという人がいます。
 その見解は以下のようなものです。
 すなわち、建物の注文者が、3000万円の建物を注文しても、請け負った会社は、それを一括して下請けに出し、下請けは一括して次々と孫請けに出し、最終的には請負代金の半値八掛けつまり4割の1200万円程度の建物しか建たないことになる。
 そのために、施工業者は、注文者が関心を持ちよく勉強している建物の設備、スタイリング、内外装、インテリア等は手抜きしないで、注文者の知識や関心の乏しい、しかし、建物にとって最も重要な骨組み、すなわち構造駆体や基礎、地盤の補強等を手抜きし、下請けや元請けにピンハネされた利益を捻り出し、工事を手抜きする、その結果、欠陥住宅が生み出されることになる、というものです。
 しかしながら、欠陥住宅の原因をこのように単純に図式化することは、ことの本質を見失う危険があると思います。
 平成11年5月25日に岡山地方裁判所で言い渡された判決(平成8年(ワ)369号)は、重畳的下請システムによる建築ではない事案で、極めて大きな欠陥問題が起こっています。
 その事案は、施主と零細な個人経営の工務店との間の木造二階建ての住宅の建築請負契約に関するものですが、注文者から直接請負った建築業者のした工事により、建物が倒壊の危機に瀕するような不等沈下が生じたっものです。
 裁判所は、請負業者と、コンクリートパイルの打設のみをした業者に対し、建て替え費用に相当する損害賠償を命じましたが、この事案に見られた欠陥の発生原因というのは、施工業者の無知そのものと言ってよいでした。
 すなわち、請負業者は、建物の敷地が軟弱地盤であったため、他社に、建物の通し柱が建つ箇所のみにコンクリートパイルを打設させ、それ以外はベタ基礎にしたため、建物が完成する頃から、コンクリートパイルを打設したところは沈まず、ベタ基礎部分が沈むという不等沈下が始まり、家が傾いていったというお粗末な仕事しか出来ていないのです。
 欠陥住宅発生のメカニズムは重畳的下請システムにある、と言うのは、そのような事実もあるでしょうが、本質的なものではないと思います。
 では、何が原因で、欠陥住宅が生産されるのか、が疑問になります。
 欠陥住宅は、建築基準法や同施行令や条例で定める技術的基準を満たしておれば、生じないことになっています。
 したがって、建物が建築基準関係の法令に適合するように建築されておれば欠陥住宅の問題は生じないはずです。
 ところが、現実には多数の欠陥住宅がこの世に提供され続けています。
 そうなりますと、これらの建物は、建築基準関係の法令に違反したままで、建築が許されているのかが当然問われることになりますが、そのとおりであると言う外はありません。

3 建築基準法等の法規は、欠陥住宅の発生を事前に阻止できないのですか。

 建築基準法第1条では、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めていることを明らかにし、20条は、建築物は、政令で定める技術的基準に適合した、自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものでなければならないとし、同法施行令で、基礎などの技術的基準の詳細を定めています。
  したがって、建築業者は、建築基準法等で定める最低の技術的基準はクリヤしなければなりませんが、行政がこれを事前にチェックすることはありません。
 同法6条では、施主は、建築を計画している建物について、建築基準法、同法施行令、条例の規定等に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならない、とはしていますが、現実には、行政はこれらをチェックしていないのです。
 建築確認では、建ぺい率や容積率、斜線制限などいわば違反事実が目に見えやすいところしかチェックしていないのです。
 事実上できないという説明が正しいのかも分かりません。
 建築主事は、建築士の技術的基準に適合しているとの設計に関する報告をたんに書面審査するのみで、建築物が法の要求する技術的基準に適合していることの書面すら提出させていないのです。
 また、同法7条は、建築工事を完了したときは、建築主事の完了検査を受けることを命じていますが、実際は建築確認を受けたものの3分の1しか完了検査をしていないと言われる状況である上、完了検査では、安全性に関する検査はなく、また、完成後の建物の基礎や、内外装に隠れた部分の筋かいの緊結状況等は調べようがない有様で、建築基準法は、欠陥住宅の発生を事前に抑制するシステムになっていないのです。
 欠陥住宅の発生を阻止するためには、建築行政を抜本的に見直す必要があると思います。
 なお、建築基準法は、平成10年6月に50年ぶりに改正され一部は平成11年5月から施行されていますが、建築確認と完了検査が欠陥住宅の発生を事前に抑制するシステムになっていない点に変わりはありません。


4 それでは、欠陥住宅の被害にあった注文者は、法的に十分な保護がなされているのですか。

 現在の法律は、欠陥住宅の被害者に十分な保護を与えているとは言えない実状にあります。
 理由は以下の通りです。
 現行法の解釈として、建物の欠陥問題は、民法の請負契約における「瑕疵」及び「瑕疵担保責任」の問題としてとらえらるのがこれまでの傾向でした。
 瑕疵とは何か、と言いますと、簡単に「欠陥」の意味だと述べる学者、実務かが多いのですが、しかしながら、瑕疵という文字の出典は何かと言いますと、中国の古典、韓愈の進学解の中の「己量の存するところを忘れ、先人の瑕疵を謂う」という言葉から出てきたものであります。
 この言葉の意味は、誰にでもある欠点という程度の意味です。
 玉にキズという意味、瑕瑾の意味です。
 このような言葉の意味とこれが民法に定められた時期の時代背景から、民法の請負契約における「瑕疵」もそのような玉にキズ的な欠点でしかない、と説く人たちがいます。
 曰く、「現在の民法典が制定公布されたのは明治32年で今から約100年前のことである。この時代、建物を建てる者の代表格は大家であり、建築を請負う者は大工や棟梁であった。彼らは同じ共同社会の成員として強い連帯の絆で結ばれていた上、請負は大工や棟梁に対する材料支給でされることが多く、労務提供的な色彩が強かった。その中で、大工や棟梁が一生懸命に仕事をしたのもかかわらず玉にキズ的な欠点があったからといって、あまり強い非難はすべきではない。それがその時代の常識であった。民法は、このような常識から出たものである。大工や棟梁が一生懸命に建築工事に励んでも、少しの不注意から、柱や壁に傷を付けるような小さな瑕疵が生ずることもあったであろう。そのような瑕疵は、補修をさせ、あるいは損害賠償をさせうるが、瑕疵の発生を契約違反であるとして、契約解除をすることは認めるべきではない(民法635条但し書き)し、また、瑕疵が重要でないのに過分な費用がかかる場合まで補修をさせることはない(同634条但し書き)。このような発想から瑕疵担保責任の規定が生じたのである。」と言うものです。
この人たちの説は説得力があり、民法の請負の章の内容とも一致します。
 さらに、この人たちは、このような同じ共同社会の仲間である大工や棟梁と、重畳的請負システムのもとで意図的に手抜き工事をする建築会社とを同列に論ずるべきではなく、手抜き工事は、「瑕疵」論でなく、不法行為としてとらえ論ずべきであるというのです。
 欠陥住宅を、重畳的請負システムのもとで意図的に手抜き工事をすることから生ずる問題だというとらえ方は、木を見て森を見ざるの感がします、一面の真理であろうと思います。
 しかし、欠陥住宅を、手抜き工事に見られる現象と捉えると、先ほどの岡山地方裁判所の判決は欠陥住宅とは言えないことになります。
 この判決の事例は、重畳的請負システムのもとで結ばれた請負契約から生じたものではありません。
 また、意図的に手抜き工事をしたものとも思えません。
 しかし、この事案に見られる住宅は、取り壊す外に方法のない欠陥住宅であることは明かです。
 このような技術や知識の不足から来る欠陥住宅も、意図的な手抜きから生ずる欠陥住宅と同じに扱わなければ被害者は浮かばれません。
 重畳的請負システム云々をいう論者も、技術の不足による欠陥住宅の被害者も同じように救済の必要のあることは否定されないであろうと思います。
 現行法の下で、欠陥住宅の被害者である注文者が、建築業者に対する責任を追及するのに、瑕疵担保責任の規定によってしかできないとすると、限界があり十分な救済にはならないという論者の指摘は今まではそのとおりだと思います。
 阪神大震災の後起こった欠陥住宅問題は、従前の瑕疵担保責任論に強く反省をうながすことになり、論者の報告では、最近になって裁判所も、一部ではありますが、従前の瑕疵担保論ではなく、欠陥住宅不法行為論を採用し、建築費以上の損害賠償を命ずる判決が出るようになった、ということですが、これらの点は、後ほど論ずることとして、今までの司法は、つまり、弁護士や裁判所は、欠陥住宅の被害者に十分な救済の手をさしのべていたか、論者の言を借りて、振り返ってみたいと思います。

5 これまでの欠陥住宅問題について、弁護士はどのように真剣に取り組んできましたか。また、取り組まなかったのですか。

 欠陥住宅の専門弁護士は、「これまで多くの弁護士は、欠陥住宅問題を専門性の高いものであるとの認識を持たず、勉強をしなかった。
 訴訟を提起することになっても、雨漏りやひび割れ、傾斜や隙間等の消費者が述べる欠陥現象を並べ立てるのみの訴状を書くだけでしかなかった。
 法廷での仕事も、専門家に、瑕疵があれば判断するように言うのみで、自ら、これが瑕疵の原因であり、瑕疵であると指摘して、専門的知識に基づいた立証をする努力を怠った。」等と批判しております。

6 それでは、裁判所は、どのような裁判をしてきたのですか。
 これも論者は、「裁判所も弁護士のする訴訟活動に合わせた訴訟指揮をしてきただけでなく、欠陥住宅の欠陥の意味や安全の意味を全く理解していなかった。
 ある裁判官は、鑑定人に、建物が建っているのに何故安全でないと言えるのかと尋ねた。
 この裁判官には安全の意味が理解されていなかった。
 別の裁判官は、消費者の代理人の弁護士が、建築工事は設計図書に違反して建てられているので欠陥住宅であると主張したことに対し、何故設計図書に違反して建てられたら欠陥住宅になるのか、それだけでは欠陥住宅にはならないと述べた。」等と批判しています。
 後者については説明を要すると思われますが、論者は、「建築業者が設計図書に違反する建築をしたということは、当然に契約で約束した安全基準より低い工事をしたと推定するべきである、そうでないというのなら、建築業者が、設計図書には反する工事をしたが契約で定めた以上の安全性を備えていることを立証するべきである。
 裁判官もそう考え、契約違反をした業者に、実際に施工した工事は契約で定めた以上の安全性があることを立証させるべきであるのに、逆に、裁判官は注文者に、業者のした工事が契約以下の安全性しかないとの立証をさせようとしている。
 また、瑕疵の有無、内容については、法律家である裁判官の判断事項であるのに、裁判官は、自信のなさからか、鑑定人に判断を委ね、矛盾する鑑定意見が出ると、足して2で割る式の答しか出さない。」と言うのです。
 しかし、一部の裁判官の態度を一般化するのは間違いであると思います。このことは後の判例などの紹介の箇所で自ずと明らかになります。

7 それでは、欠陥住宅問題は、どのような問題であり、どのような視点を持つべきなのですか。
 欠陥住宅問題は、消費者問題であると、論者は説きます。
 消費者とは何かと問うと、素人であるとの答えが返ってきます。
 現在の住宅問題は、建材、工法、様式が複雑化し高度な専門知識がないと素人には理解し得ない分野であり、住宅を供給する側も、大工や棟梁のような同じ共同社会の成員として強い連帯の絆で結ばれている者ではなく、ある程度以上の規模を持つ建設会社であるか住宅メーカーであるので、住宅の注文者イコール弱者、請負業者イコール強者と言うことができるのではないか。
 そうであれば、かつては、住宅の供給者としての大工や棟梁を、社会的には弱者に属する者として、債務不履行責任や不法行為責任より弱い「瑕疵担保責任」で保護していたが、現在はむしろ、注文者を社会的に弱い立場の消費者として保護すべきである。
 「瑕疵担保責任」の解釈としても、瑕疵の大きな欠陥住宅については契約の解除を認める等して、従前の解釈を修正すべきである、と論ずるのです。
  この見解は平成13年4月1日から施行されることになっている消費者契約法の思想と同じで、新しい時代の感覚ということが出来ると思います。
 たしかに、民法635条但し書きの規定は、瑕疵担保責任として建物建築請負契約を解除することは認めていません。
 平成3年10月21日東京高等裁判所判決判例時報1412号109頁は、民法635条但し書きの趣旨を、「仕事の目的物が建物等である場合に、目的物が完成した後に請負契約を解除することを認めると、請負人にとって過酷な結果が生じるばかりか、社会的経済的にも損失が大きいことから、注文者は、修補が不能であっても損害の賠償によって満足すべきであるとの趣旨によるものである」、と説き、「瑕疵担保責任」が、論者の説く、請負人保護の規定であることを認めています。
 ただ、この判決は、目的物である建物等が社会的経済的な見地から判断して契約の目的に従った建物等として未完成である場合には、注文者が債務不履行の一般原則によって契約を解除すること許されると判示し、解除を認めましたが、しかしながら、この理論では、完成引渡後に瑕疵のあることを発見した場合は、瑕疵の内容がどのように大きい欠陥であっても解除できないことになります。
 それとも、この判決は、大きな瑕疵のある状態では未完成であるとしてなお請負契約の解除を認めるのでしょうか。
 このように、瑕疵担保責任では、注文者を救済することには困難を伴います。
 そこで、大工、棟梁などではない建設会社や住宅メーカーが請負業者である場合は、瑕疵担保責任ではなく、債務不履行または不法行為による請求を認める道を開くべきであるとの論が出たのですが、このような解釈が現行法の解釈として許されるかどうかが問題となります。
 これについては後ほど触れることにします。

8 欠陥住宅の「欠陥」の意味をどのように考えるのですか。その判断基準は何ですか。
 我々が、欠陥住宅の「欠陥」の意味を考えるとき、「雨が漏る」とか「家が傾いた」ということを思い浮かべます。
 しかし、これは現象として現れたもので、欠陥のすべてはありません。そのような現象を引き起こした原因たる事実を含めたものが欠陥であります。例えば、雨が降るという現象ひとつとっても、瓦が割れたためそこから雨水が漏れる場合もあれば、瓦は割れていないが、勾配を十分にとらなければならない屋根材を使いながら勾配を十分にとらなかった場合もあります。このように、現象面では、同じ雨が降るという状態であっても、その原因は全く違うということがあり得るのです。
  欠陥に対しては補修の問題が生じますが、原因が違うことによって補修の方法が全く違ってくるのは当然であります。損害賠償の金額も違ってきます。
  これまで欠陥住宅を巡る訴訟で、欠陥または瑕疵として、現象面のみを問題にすることが多かったのですが、欠陥原因を特定しなければ、欠陥あるいは瑕疵が特定したとは言えません。欠陥現象の羅列だけの訴状や裁判所の審理での欠陥原因の特定の遅れは、いたずらに訴訟を遅延させることとなります。訴状を提出する段階で、欠陥現象のみならず欠陥原因を特定し、後述の修補の内容、そのための費用を明確にしておけば、訴訟の進行はずいぶん早くなります。そのためには、事前に、信頼のおける建築士に依頼して私的な鑑定を受けておく必要があります。
  次に「欠陥」は、誰が、何のために、判断するのか、ということが問題になりますが、これは裁判所が、欠陥を引き起こした者に対し、補修を命じたり損害賠償等を命ずるためにする判断であることは言うまでもありません。従来の訴訟では、欠陥の判断は専門家である建築士がするものと考え、鑑定人に欠陥を判断してもらおうとする姿勢が見られた、との批判がありますが、欠陥であるかどうかは、補修を命じたり損害賠償を命ずる根拠になることですから、裁判所がすべき法律判断であることは明かです。
  それでは「欠陥」を判断する基準は何か、が次に問われることとなります。
  これには種々の考えがあると思われますが、欠陥住宅問題に取り組む論者は、欠陥判断の基準の第一は、契約で定めた設計図書である、と言います。設計図書とは、設計図及びや仕様書のことです(建築基準法2条12号)。設計図書に違反した建物はそれだけで欠陥があるというものです。
  第二の基準は、建築基準関係法令であると言います。設計図書だけでは建築物のすべての内容を表し尽くしているとは言えないので、構造等に関する最低の基準を定めた建築基準法(同法1条)、同法施行令、条例等が基準になり、これら建築基準関係法令に違反する建築物は、それだけで欠陥があるというものです。
  第三は、その時代の標準的な技術基準である、と言います。設計図書や建築基準関係法令でも、建築の具体的な選材や工法は書かれていないので、これを補うものとしてその時代の標準的な技術基準を欠陥判断の基準にすべきだというのです。その時代の標準的な技術基準とは何かというと、具体的には、現在一般に取り入れられている、例えば、(社)日本建築学会の種々の設計規準(ここでは基準の用語でなく規準の用語が使われている。)や標準仕様書(これは施工の基準を書いたもの)等です。平成11年6月23日に公布された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」70条に基づく、住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準(告示)もこれに含めてよいと思います。
  論者は、請負業者がこれらの基準の一つにでも違反する住宅を建築ないし提供した場合は、それだけで欠陥があるというものです。
  訴訟では、請負業者側が、これらの基準に違反していても、完成した建物には瑕疵はない、と主張することがしばしばあります。日本建築学会の木造についての代表的な「木工事仕様書」(JASS11とも言う。)やこれを簡略化して庶民住宅版にしている住宅金融公庫のいわゆる公庫仕様書は法律ではないから守らなくてもいいと言うなどです。
  例えば、木造建物の建築工事では、柱や梁や土台等の水平材で囲まれた最低限の構造の単位である軸組みを補強するため、柱と水平材との隅角の直角を保持する補強材である筋かいを取り付ける工事をしますが、その方法として、公庫仕様書では、筋かいは、隅角の切り欠き差し入れたところにくぎで3本打てばよい、と書いてあります。
  これは、建築基準法施行令45条3項で、筋かいは、その端部を柱とはりその他の横架材との仕口に接近して、ボルト、かすがい、くぎその他の金物で緊結しなければならない、と定められ、また4項で、筋かいには、筋かいをたすき掛けにするためにやむを得ない場合において、必要な補強を行なつたとき以外は、欠込みをしてはならない、と抽象的にしか定めてられていない規定を具体的に定めたものと理解されていますが、業者の中には、実際の木工事では、筋かいを取り付けるのに、突きつけで欠きこみ仕口はなく、くぎをただ斜めに打っただけというものがあります。
  この業者は、公庫仕様書は建築基準関係法令ではないから守る必要はないと言いますが、この業者の施工は、建築基準法施行令45条3項でいう「緊結」にならないことは言うまでもありません。阪神大震災で倒壊した木造住宅は、このような筋交いの手抜き等法定の構造基準が手抜きされた住宅でした。建築基準関係法令には、具体的な選材や工法は書かれていません。それを補充するのが、一般の技術界のそのときにおける標準的な技術基準です。
  したがって、これら標準的な技術基準が法律ではないとして、無視することは許されないのです。これまでの訴訟ではこのことが十分に理解されず、裁判所までが、公庫仕様書を守らないことが何故欠陥になるのかと尋ねることがある等と批判する論者の見解は正鵠を得ています。このように見てきますと、欠陥判断の基準の明確化は絶対に必要なものと考えられます。論者の言うように、上記のように基準を明確にすると、訴訟の促進がずいぶん図れることになると思われます。

9 欠陥住宅の被害者には、どのような権利が認められるのですか。
 欠陥住宅の欠陥を「瑕疵」ととらえる民法の規定では、欠陥住宅の被害者が加害者に対し請求しうるものは、民法が定める瑕疵担保責任の追及すなわち、民法634条で定める、「瑕疵の修補の請求」と、「瑕疵の修補に代わる損害賠償の請求」または「瑕疵の修補と共にする損害賠償の請求」です。
 なお、同条には、瑕疵が重要ではなく、かつ修補が過分の費用を要するときは、瑕疵の修補は請求できないと定められ、また、民法635条では、瑕疵があるため契約を結んだ目的が達成できない場合でも契約の解除はできない、と定められ、これが請負人の保護の規定であるとされていることは前述のとおりです。
 なお、欠陥住宅を債務不履行または不法行為ととらえる見解もありますが、債務不履行ととらえる立場では、欠陥住宅については債務不履行を理由に契約の解除が出来ることになり、問題はシンプル化します。
 欠陥住宅を不法行為ととらえる見解も、瑕疵担保におけるよりも解決がシンプルになります。
 ただ、欠陥住宅を債務不履行または不法行為ととらえる見解も欠陥住宅の欠陥の程度によらず、瑕疵担保責任は問題にならないと言うものではありません。
 欠陥住宅の問題の多くは瑕疵担保責任の問題であることを認めているのです。

9−@ 瑕疵の修補の請求とは何か。
 「修補」とは、補修あるいは修理の意味ですが、修補の請求としては、どの程度の修理を要求しうるのか。新築の住宅の場合つぎはぎだらけの修理でも修理なのか。建て替えを請求することは出来るのか。等の問題があります。
 平成6年9月8日東京地方裁判所判決・判例時報1540号54頁は、「請負契約の仕事の目的物に瑕疵があるとは、完成された仕事が契約で定められた内容通りではなく、使用価値若しくは交換価値を減少させる欠点があるか、あるいは、当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点を有することである。」と判示していますが、瑕疵の修補は、瑕疵のない状態に戻すことになるので、結局のところ、「使用価値若しくは交換価値あるいは当事者があらかじめ定めた性質」を回復させることでなければなりません。
 つぎはぎだらけの補修は、法が要求した補修とは言えないのです。
 しかしながら、瑕疵ないし欠陥を修補しても、契約上あるべき姿には戻らない場合も当然にあり得ます。
 そのときは、当然、修補をしても、使用価値若しくは交換価値の減少は避けられないこととなり、損害賠償の対象となります。
 これが修補と共にする損害賠償の請求であることは言うまでもありません。
 例えば、前述の筋かいが足りない場合に家の中に控えの壁をとるとか柱を足すとかすると、なるほど建物の補強はできたといえますが、契約で定めたあるべき姿に戻ったとは言えません。
 家に中に控えの壁をとったり柱を足すことで、家の平面の利用価値が減り、交換価値も減ずることになるからです。
 この場合、建物の利用価値や交換価値が減少しないほどの修補を請求することはできないか、が問われることとなります。
 つまり、修補はどこまでしなければならないか、が問題になりますが、これは前述の欠陥の判断基準の三の技術業界の標準的な技術基準によってなし得る社会常識上の最高限度の補修と言うべきであると考えます。
 無論基礎工事の脆弱さを修補するのに建物を倒して初めから立て直すなどと言う修補の方法はよほどのことがない限り、ないであろうと思います。
 増し基礎を従来基礎の横に打つ程度の場合もあるでしょうし、それ以外の場合もあるでしょうが、修補の方法も一般的に技術業界が採用するであろう方法によるべきであると考えます。

9−A 瑕疵の修補に代わる損害賠償の請求、瑕疵の修補と共にする損害賠償の請求とは何か。
 瑕疵ないし欠陥を修補しても、契約上あるべき姿には戻らない場合も当然にあり得、その場合は、修補をしても、使用価値若しくは交換価値の減少は避けられないこととなり、その分が、修補と共にする損害賠償の請求であることは前述のとおりですが、次に、欠陥住宅の被害者である建築の注文者が、補修に変えて損害賠償を請求する場合は、補修費をどう考えるか、が問題になります。
 修補をしないで修補費用を請求するのですから、その費用の計算は、主観的なものではなく客観的な基準が要求されます。
 従来の訴訟では、補修費を明らかにするため、建築業者の見積書を証拠として提出する場合がしばしばでした。
 しかしながら、見積金額は、補修費を明らかにしたものでは決してありません。
 見積書はそれを作成した業者が工事をする場合にその金額でしましょうというものでしかないのです。
 今までの訴訟では注文者側は高い見積書を証拠として提出し、請負業者側は安い見積書を証拠に出し、裁判所をして判断を迷わせることがしばしばでした。
 これは、補修費というものを正しく理解しないために起こる現象であります。
 訴訟で瑕疵が特定し、補修の内容も明らかにされたら、補修費も自ずと計算されるものでなければならないのです。
 注文者が高い見積金額を出し、請負業者が安い見積金額を出すこと自体、当事者の訴訟におけるまじめさが疑われます。
 では、どういう資料で補修費を評価するかと言えば、通常建築家が使っている建設省の外郭団体の建設物価調査会が毎月つくっている「積算資料」という雑誌等、客観性のあるしかも時期遅れにならない資料が望まれます。
 また、例えば屋根工事をする場合、必要とする瓦は、屋根工事をする面積分の外、「分掛かり」といってある程度余分な量を加えておく必要がありますが、この分掛かりについても、建設省が出している公刊物で明らかにしておく必要があります。
 工期については、客観的な工程表を作成する必要があります。
 このようにして計算された修補の費用が、修補に代わる損害賠償ということになります。

9−B 修補の内容として、取り壊し建て替え費用相当額の損害賠償の請求が認められますか。
 建物に重大な瑕疵があっても、それを取り壊して建て替えをする費用の損害賠償の請求は認められないというのが、従来の裁判所の支配的な見解であったとされています。
 その代表的な見解が、元大阪高裁総括判事の後藤勇氏で、同氏は、民法635条を根拠に、損害賠償は新築代金を上限とし、今まで居住した期間に従って損害賠償を減価償却しなければならないと説き、取り壊しと再築の費用は、新築代金の額を超えるものになるので認められない、と言います。
 しかし、判例でも、平成10年7月29日大阪地方裁判所判決平成8年(ワ)第2267号は、損害額として、取壊しと再築費用の外に、造園費用、建具補修費用、雨樋補修費用、建築士の調査鑑定費用、地盤調査費用、引越し費用、代替建物の賃料、再築した建物の登記費用、慰謝料、弁護士費用まで認めたものがあり、古い判例でも、昭和58年10月27日大阪高等裁判所判決は、建物の建て替え費用相当額の損害の外、営業損害、アパートを賃借したことによる損害を認める外、鑑定、検査等の費用、慰謝料その他の瑕疵との間に相当因果関係のある損害を認めています。
 裁判所が、建て替え費用を認めないというものでは決してありません。
 請負契約における、瑕疵による損害賠償が、一般に履行利益の損害賠償であるとされているのですから、瑕疵と相当因果関係にある損害は認められるべきであり、これら判例の見解は理論上も是認しうるものと考えます。
 後藤氏の見解が裁判実務上の支配的な見解というのなら今後その傾向は変わってくるものと思われます。

9−C 慰謝料の請求もできるか。
 欠陥住宅であるとの理由で、常に慰謝料の請求が認められる訳ではありませんが、瑕疵の補修をし、またはそれに代わる損害賠償をしてもなお償われない損害があるときは、債務不履行(不完全履行)に基づく損害として慰謝料の請求が認められます(昭和61.9.3神戸地裁判)。
 金額は、最近の判例では、50万円ないし150万円と幅があります。
 判例の中に、瑕疵に悩まされ、両親を引き取ることもできず、建物倒壊の不安をかかえてきた購入者の精神的損害として100万円が認められた例(平成10年7月29日大阪地方裁判所判決)、構造上及び耐火上の安全性を欠くことで受けた精神的打撃として慰謝料として100万円が認められた例(平成7年1月30日神戸地方裁判所姫路支部判決)、地下室に虫やかびや異臭が発生したことに対する不快感による精神的苦痛として慰謝料10万円が認められた例(平成5年3月24日/東京地方裁判所判決)があります。
 また、木造建築物で、重大かつ基礎的なところに多数の瑕疵があり、建築途中から紛争が起こり、建築後の多数の瑕疵の存在があることによる精神的な打撃、瑕疵の内容、程度、その判定の困難性等から、昭和59年という時点で、80万円の慰謝料が認められた事例(昭和59年12月26日大阪地方裁判所判決)もあります。

9−D その他の損害
     その他にどのような損害が認められますか。

 補修費用相当損害金、工事期間中の代替建物賃料、引越費用、鑑定調査費用、慰謝料および弁護士費用等が考えられます。

10 まとめ
 欠陥住宅は、ほとんどの判例が瑕疵の問題であると考えています。
 最近、住宅問題が大きくクローズアップされ、欠陥住宅の被害者救済のため、瑕疵担保の問題でなく、不法行為や債務不履行の問題として解決を図るべきだとする少数の意見が出てきましたが、この意見は、欠陥住宅の被害者に契約解除を認め、建て替え費用を請求する道を開こうとする意見です。
 しかし最近の判例は、瑕疵担保責任説に立った上で欠陥住宅の被害者に建て替え費用の損害賠償の請求を認めるなどしてきており、解除を認めないことによる注文者の不利益が解消される傾向にあると言えます。
 平成12年4月1日には住宅品質確保促進法も施行され、欠陥住宅による被害者救済の具体的な道筋ができかけてきています。
 同法では、瑕疵担保責任の除斥期間について民法の規定の特則を定めましたが、建築請負契約の解除に関する規定は設けていません。
 欠陥住宅をめぐる請負契約の解除については今後も議論になるかもしれません。
 判例は、これまでの批判に応えて、以前に比べ大きく変わってきているように思われます。

11 追加
 建築関係事件が専門事件であることが強く認識され、平成13年6月14日に、最高裁判所規則として、建築関係訴訟委員会規則が制定交付され、中間答申を経て、平成17年6月15日、同委員会は、最高裁判所に対し「建築関係訴訟委員会答申」を出しました。
 詳細は、判例タイムズ1180号45頁以下に掲載されていますが、
  • @ 建築関係訴訟が、医事紛争事件と並んで、専門的知見が必要とされる事件であること、
  • A 建築関係訴訟は、通常の事件に比べて、審理期間が長期に及んでいることから、合理的期間内に適切に処理する必要性があること、
  • B そのためには、当該事案にふさわしい建築専門家から、専門的知見の提供を適時適切に受けることが重要になるが、鑑定もその一つと考えられること、
  • C 鑑定の前には、争点整理を適切にし、鑑定事項を十分に整理すること、
  • D 実務では、当事者の主張を対比し、一覧できるような主張整理表、瑕疵一覧表が作成されていること、
等が書かれています。
 なお、鑑定人等の候補者の選定については、社団法人日本建築学会と意見交換をして、次の、仕組みが発表され、その仕組みに沿って運営されることになったことも書かれています。

鑑定人及び調停委員候補者選任の仕組み

1 推薦依頼については、基本的には、
  • @ 地方・高等・簡易裁判所から、建築関係訴訟委員会事務局(最高裁民事局)への推薦依頼
  • A 建築関係訴訟委員会事務局(最高裁民事局)から、日本建築学会(司法支援建築会議)等への推薦依頼
 上記の経路をたどり、推薦は、この逆の経路をたどることとする。

2 問題のある事案(日本建築学会以外の学会等関係団体に推薦依頼をすることがふさわしいと思われるような事案も含む。)については、分科会で審議(緊急を要する場合は、持ち回りによる書面での審議)をすることとする。

鑑定結果等還元の仕組み

 建築関係訴訟委員会を通じて推薦を行い、鑑定人が関与した事案について鑑定人から鑑定書が提出されたり、事件が終局した場合は、基本的には次の経路をたどり鑑定結果等を還元していくものとする。
1 事件が終局したときは、推薦を受けた裁判所は建築関係訴訟委員会事務局(最高裁民事局)に対し、終局結果を報告するとともに、提出された鑑定書と判決書等の各写しを送付する。
2 建築関係訴訟委員会事務局が前記1の報告又は送付を受けたときは、日本建築学会(司法支援建築会議)等に対し、
  • @ 終局結果を通知する(和解で終局した場合は、特段の支障がない限りその概要を含む。)。
  • A 特段の支障がない限り、鑑定書写し(判決によって終局した場合は、判決書写しも)から事務局用控えを作成した上、写しを送付する(ただし、書類が膨大であるなど控えの作成に困難を生ずる場合には、協議の上、鑑定書写し等を貸与するなどの取扱いをするものとする。)。
 なお、この答申の中で、次の最高裁判所の判決が紹介されています。
1,最高裁判所平成15年10月10日判決
  この最高裁判所判決は、原審が、施工業者が、約定のものとは異なった断面の寸法250mm×250mmの鉄骨を使用したという契約の違反を認めながら、この寸法の場合、構造計算上,居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから工事に瑕疵があるということはできないとしたことを批判し、建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが特に約定され、これが契約の重要な内容になっていたのであるから、この約定に違反して、同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された工事には、瑕疵があるものというべきである、と判示しました。
  この最高裁判所判決は、契約違反が瑕疵になるという判断を下したものです。

2,最高裁判所平成15年11月14日判決
  この事件は、新築建物を購入したのに、車両通行時の振動が大きいこと,外壁に多数の亀裂が生じたことなどから,買主が、この建物の建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨記載した一級建築士に対し、不法行為を理由に損害賠償の請求をしな事案ですが、最高裁判所は、一級建築士が、建築確認申請書に、自己が工事監理を行う旨の実体の伴わない記載をした場合、自己が工事監理を行わないことが明確になった段階で、建築主に、工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執るべき法的義務があるのに、これを放置したときは、建築主から瑕疵ある建物を購入した者に対し、不法行為による損害賠償義務を負う旨判示したものです。
  建築士が、専門家としての特別な地位にあることから、責任を認めたものです。

3,最高裁判所平成14年9月24日判決
  この判決は、建替え費用相当額を損害と認めた事例です。
  判決は、「請負契約の目的物が建物その他土地の工作物である場合に,目的物の瑕疵により契約の目的を達成することができないからといって契約の解除を認めるときは,何らかの利用価値があっても請負人は土地からその工作物を除去しなければならず,請負人にとって過酷で,かつ,社会経済的な損失も大きいことから,民法635条は,そのただし書において,建物その他土地の工作物を目的とする請負契約については目的物の瑕疵によって契約を解除することができないとした。しかし,請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合に,当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく,また,そのような建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは,契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって,請負人にとって過酷であるともいえないのであるから,建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても,同条ただし書の規定の趣旨に反するものとはいえない。したがって,建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができるというべきである。」と判示しています。



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