本文へスキップ

岡山で弁護士をおさがしなら菊池綜合法律事務所へ

TEL.086−231−3535
(受付時間 平日9:00〜17:00、土曜9:00〜12:00)

企業のための民事再生法

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<企業のための民事再生法



序章  経営危機・債務整理


  • 一 はじめに
      ここ岡山県では、2008年に入って大型倒産が数件発生しました。2007年は2006年に比べ倒産件数が大幅に増えたようですが、2008年は2007年以上に倒産件数が増えると見られています。いわゆる姉歯問題と言われる建築物の耐震偽装問題が起こり、建築基準法が改正され、建築物の構造計算書の審査に時間がかかる事になって受注が減り、建築業界が冷え込んできた、建築不況になった、などとも言われています。このような景況の中で、法律事務所への、倒産、再生がらみの相談は増えてきております。
      そこで、当事務所では、企業を清算してしまうのではなく、再生させるため中小企業向けにできている民事再生法の解説や利用の仕方を、ここに掲載したいと思います。

    1,経営危機
     企業が、清算にせよ、再生にせよ、なんらかのアクションを起こす契機になるのは、経営危機を感じたときです。
     通常、経営危機を感じた経営者は、次のような過程を経て、民事再生法の適用申請に至ると思われます。
    経営危機・・・一時的または構造的業績の悪化、連鎖倒産、自然災害など

    債務整理の必要性

    銀行債務だけのリスケジュールの要請

    私的整理の試み

    民事再生法の適用の検討

    2,債権
     企業が負担している債務は、相手方から見れば債権になります。一般には債権者から見た債権という言い方をしていますので、ここでも債権という言い方をしますが、企業が経営危機に陥るのは、要は、この債権、企業から言うところの債務の支払いが困難になるからです。
     債権には、法律によって優遇されるもの、普通に扱われるもの、劣後に置かれるもの、があります。
     民事再生法では、共益債権と一般優先債権が優遇され、再生債権が普通の扱いを受けます。劣後に置かれる劣後債権、約定劣後債権もありますが、中小企業の場合は、ほとんど劣後的な債権は問題になりませんので、この法律実務レポートでは、共益債権、一般優先債権、再生債権だけについて書き進めます。

    3,債務整理
    • (一)金融機関へのリスケジュールの要請
       ここでは企業から見た債務という言い方になりますが、経営危機に陥った企業はなんらかの債務整理の必要が生じますが、経営危機が低い段階であったり、債務の内容が、銀行を初めとする金融機関からに借入が大きな割合になっているという場合もあるでしょう。
       そのような場合は、金融機関へのリスケジュールの要請だけで、危機を乗り越えることができる場合もあるでしょう。
       リスケジュールというのは、既存の債務の返済計画の見直し、つまり一回当たりの返済額の減額をしてもらう(支払期間は長くなるが)ことを言います。
       金融機関はリスケに応じないと考えている経営者がいますが、そんなことはありません。各都道府県に「中小企業再生支援協議会」が設置され、政府系金融機関を含む金融機関へのリスケの要請や弁済計画の調整をしていますが、企業が直接金融機関と交渉しても金融機関は応じています。企業は、早めに、相談すべきであると思います。
       なお、サービサーがらみで整理する場合もあるでしょう。
       金融機関が、担保つきで、債権をサービサーへ譲渡し、企業は、サービサーとの間で2割弁済・8割放棄で示談し、破綻しないで済んだケースもありますが、金融機関の場合、担保付きでサービサーに債権を譲渡するケースよりも、担保物件は債務者企業の手で処分させ、その後にサービサーに債権を譲渡するケースの方が多いように思われます。
       企業の金融機関に対する債務が連帯保証債務である場合は、その企業の資産に担保がついていないことが多く、担保に取られた財産がある場合に比べると、金融機関との交渉やサービサーとの交渉は楽であるように思われます。
    • (二)私的整理(任意整理)
       私的整理とは、一般には、破綻したあるいは破綻に瀕した企業と債権者との話し合いで債務整理をすることを言いますが、事業を継続していく目的のもの(「再建型任意整理」という)よりも、企業を解体して資産の売却金を債権者へ配当する目的(「清算型任意整理」という)のものが多いと思われます。それだけ、再建型の私的整理は難しいのが現状です。
       再建型で私的整理が成功する例は、支援してくれる企業(スポンサー会社)がいること、債権者数が少数であること、債権者の多くが同意してくれていること、金融機関も協力的であること、などの条件がいるでしょう。以下に参考例を書いておきます。
      〔参考例〕
      • @新会社を作る。
      • A担保不動産をスポンサー会社又は新会社に時価で譲渡する。
      • B売買代金は担保権者へ支払い担保を抹消してもらう。
      • Cその他の資産(動産・債権その他)は、新会社に時価で譲渡する。
      • D譲渡代金は、長期分割弁済とし、これを債務者会社の債権者への弁済原資とする。
      • E債務者会社の債権者集会を開く。この債権者集会で、Dを承認してもらい、配当表を作り、債権者と個別に契約をする。
      • F同意しない債権者には、配当表記載の弁済の提供をするが、受領してくれない場合は、企業かその代理人が時効にかかるまで保管する。
      • G債務者会社を解散または特別清算、場合によっては何もしないままで完了。
       しかし、この私的整理でも、問題がないわけではありません。問題点を指摘してみます。

      〔問題点〕
      • ア 企業が不動産を時価でスポンサー会社または新会社に売り、代金を全額担保権者へ弁済することは詐害行為にならないので、問題はありません。
      • イ その他の資産を時価で新会社に売り、代金は全額債権者への弁済原資に充てるのであるから、本来なら、詐害行為になりません。
      • ウ ただ、Aの弁済原資がすぐに支払われるのではなく、長期間分割でしか支払われない点で、債権者の権利を害すると判断されると、詐害行為と見られる可能性があります。(ただ、この場合、分割ではなく、スポンサー会社からの借入金で一括弁済をすれば問題はありません。)分割払いにし、詐害行為取消訴訟が提起されると、新会社での事業継続に支障が生ずる恐れが出てきます(法的整理では、詐害行為は問題になりません)。
      • エ 営業をしている中での事業譲渡型ですから、取引先から売掛金の支払いのため銀行振込がなされたときに、その預金が銀行債権と相殺されるなどの問題が生ずる可能性があります(法的整理に入りますと、金融機関からの相殺は許されません。)。
      • オ 債務者会社は債務超過の状態で残るので何らかの清算手続を要します。
      • カ 任意整理でも、事業譲渡型では、免除益課税問題が生じないから良いのですが、自力による収益弁済型で再建をはかるスキームの場合だと、大企業がする私的整理ガイドラインやRCC(整理回収機構)スキームによるものは別として、中小企業がする私的整理では、債権者が債権の一部を放棄してくれたときに生ずる免除益に対し、資産の評価損をたてることが認められず、また、繰越欠損金の特例が認められない問題が生じます(法的整理では、免除益対策が立てやすくなります。)。
      • キ さらに、債権者が債権の一部を放棄した場合に、損金として処理できるか、という問題も生じます(法的整理では、損金処理ができます。)。

    4,法的整理
     私的整理には以上に述べたような問題が発生する危険性がありますが、法的整理には、そのような心配は全くありません。
     法的整理には、その他に、次のようなメリットがあります。
     〔法的整理のメリットの例〕
    • 同意しない債権者の債権も減額や分割払いになる。
    • 不利益な契約を、一方的に、解除できる。
     例えば、実際にあった例ですが、ある企業が経営の多角化を考え、本来の事業に加えて、FC契約によるあるサービス業を始めたのですが、このサービス部門がたいへんな赤字になって、企業の業績を悪化させ、そのため企業は倒産の危機に陥ったのです。通常、このようなFC契約では、フランチャイジーである企業から解除はできません。解除すると保証金は没収され、高額の違約金を賠償しなければなりません。ところが、法的な整理をすると、企業は違約金を支払わずに契約の解除ができ、保証金の返還も受けることができるのです。
    • 否認権制度を活用する。
    例えば、再生手続の申立て前にした債権者への弁済で、他の債権者を害するような偏波的な弁済は、監督委員に頼んで否認してもらい、弁済したお金を取り戻すことができます。

    1,債権の種類
    • (一)再生債権
      再生債権は、民事再生法の適用を受ける債権です。
      「再生債権」の法律上の定義は、「再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、しかし、共益債権や一般優先債権でないもの」(民再法84)ですが、企業が民事再生法の利用を検討する時点では、従業員の給与・賞与・退職金などの雇用契約から生ずる債権、税金、社会保険料などの公的義務として生ずる債権以外はすべて再生債権です。商取引上の債権、金融機関の債権、リース会社の債権すべて再生債権なのです。
    • (二)一般優先債権
       従業員の給与・賞与・退職金などの雇用契約から生ずる債権、税金、社会保険料などの公的義務として生ずる債権など、法律で特に優先的に支払うべきであると定めている債権は、一般優先債権と呼ばれています。具体的に言いますと、従業員の給与・賞与・退職金などの雇用契約から生ずる債権は、民法により「一般の先取特権」(民法308)が認められ、優先的に支払ってもらえる債権になっています。税金、社会保険料などの公的義務として生ずる債権は、いろいろな法律で優先権が認められています。
       それ以外は、民事再生法の利用を検討している段階では、すべて再生債権です。
       ですから、企業は、一般優先債権とは、従業員への給与・賞与・退職金・税金・社会保険料だけが一般優先債権であると認識しておいて大丈夫です。
    • (三)共益債権
        共益債権というのは、民事再生法で共益債権であると定められている債権です。
       これについては以後、発生したときに説明していきますが、共益債権は、原則として、再生手続が開始された後に生ずる債権ですので、企業が民事再生法の利用を検討している段階では、まだ何の共益債権も発生していません。

    2,別除権付き再生債権
     ここで、別除権付き再生債権について説明しておきます。
     別除権付き債権とは、文字通り、別除権が付いた再生債権です。別除権とは再生債務者の財産の上の担保権のことを言いますので、再生債務者の財産上の担保権付き再生債権のことです。
     企業に対する債権者には必ずと言って良いと思いますが、銀行を初めとする金融機関があると思います。金融機関は企業に融資をしたり、手形割引をしているのが通常ですが、これも必ずと言って良いほど担保を取っていると思われます。抵当権や根抵当権などの担保です。この担保が誰の財産の上に設定されているか、ですが、企業が財産、特に不動産を所有しておれば、当然のように金融機関はその上に担保を取っているはずです。代表者が所有する不動産上に担保を取っている場合もあるでしょう。これらの担保のうち、企業が所有する財産の上にある担保権は「別除権」と呼ばれます(民再法53@)。この別除権は、再生手続によらないで、行使することができる(53A)、と定められています。つまり、別除権付き再生債権は、再生手続によらないで、権利の行使ができるのです。ここに、民事再生法の一つの特徴があるのです。会社更生法では、企業が所有する財産の上にある担保権は「更生担保権」と呼ばれます。これは、会社更生手続の中でしか権利行使が認められません。つまり更生手続内の担保権という意味で更生担保権と呼ばれるのですが、民事再生法では、企業が所有する財産の上にある担保権は再生手続とは無関係に権利の行使ができるのです。再生手続から別に除かれた担保という意味で、「別除権」と呼ばれるのです。
     企業が相手にする、別除権付き再生債権は、通常、次の再生債権です。
    • 金融機関が持つ債権
    • リース会社が持つリース料債権
    • 原材料の仕入れ先が持つ動産の売買代金債権
     これらの再生債権は、担保権(別除権)の性格や権利行使の違いによって、ずいぶん違った扱いがなされます。
     ここでは、こういう違いがあるということだけに留めておきます。
     また、その箇所に来たときに、説明します。

    3,再生債権で優遇される債権
    • (一)中小企業者の債権に対する弁済ー時期だけが優先する債権
       一般的には、債権者間での弁済は平等でなければならないと言われます。これを「債権者平等の原則」と言うのですが、民事再生法では、差を設けても良い再生債権を三種類設けています。
       その一が「中小企業者の債権に対する弁済」と言われるものです。
       この弁済は、弁済額では、他の再生債権者と差をつけることはできませんが、弁済時期で差をつけ、早期に弁済をすることが可能になっています。
       民再法85Aは、「再生債務者を主要な取引先とする中小企業者が、その有する再生債権の弁済を受けなければ、事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるときは、裁判所は、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者等の申立てにより又は職権で、その全部又は一部の弁済をすることを許可することができる。」と規定していますが、これが、「中小企業者の債権に対する弁済」の制度です。
       この規定は、昭和39年の山陽特殊製鋼の更生事件が契機となって設けられました。当時、山陽特殊製鋼の倒産により、下請企業の連鎖倒産が発生しましたが、当時の会社更生法では、その下請企業の更生債権を早期に弁済をすることはできませんでしたので、山陽特殊鋼の下請企業が倒産し、山陽特殊鋼も下請企業を失うという痛手を受けても、山陽特殊鋼は何の手も打てないという状態だったのです。そこで、会社更生法が改正され、中小企業者の債権につき、裁判所の許可により部分的に弁済を認めることにしたのですが、その後、この規定は民事再生法にも導入されました。したがいまして、この制度は、連鎖倒産の防止という公益的な要請によるものでもありますので、裁判所の職権でもなされ得ることになっています。しかしこの制度は、同時に、民事再生法の適用を受ける再生債権者が、下請企業や納入業者の連鎖倒産により、工事が停止したり、部品の納入等が停止してしまう結果、事業の継続が困難となり、その継続企業価値が損なわれるのを避ける、という、再生債権者の利益のためでもあるのです。したがって、弁済の対象となる中小企業者は、再生債務者を主要な取引先とするものでなければならず、依存度は20%を超えることが必要とも言われています。そして、この制度による弁済は連鎖倒産防止のための弁済といっても、中小企業者の債権を共益債権とするものではありませんので、弁済額の面では将来作成されるべき再生計画において中小企業者が受ける弁済額の範囲内に止めるべきであるとされています。ただ、弁済の時点では将来作成される再生計画による弁済率を正確に予測することは困難ですので、およその見込で弁済率を決めればよく、弁済率を高めに見て支払ったが、後日再生計画での弁済率がそれより低かった場合でも、この例外規定の適用を受けて弁済を受けた中小企業者は、その差額を返還する義務はなく、逆に、再生計画での弁済率が高かった場合は、差額の支払を受けうることになる、とされています。
       なお、蛇足ながら、説明を続けますと、この制度は、公益的な面があり、そのため裁判所が職権でなし得ることでもありますので、再生債務者が中小企業者からの早期弁済の要求を握りつぶすこよができないように、再生債務者は、「再生債権者から・・・(この制度の適用を)求められたときは、直ちにその旨を裁判所に報告しなければならない。・・・」(85C)という規定が置かれています。
    • (二)例外2ー手続の円滑な進行のための少額債権(85D前段)ー全額弁済
       債権者平等原則の例外の二番目は、少額債権の弁済です。まず、民再法85D前段にある「手続の円滑な進行のための少額債権の弁済」について説明します。 民再法85D前段は、「少額の再生債権を早期に弁済することにより再生手続を円滑に進行することができるとき・・・、裁判所は、・・・再生債務者等の申立てにより、その弁済をすることを許可することができる。」と規定しています。
       これは、債権者集会等における議決権者の議決要件の中に債権者の頭数要件が入っているところから、債権者の数を減らす目的で少額債権を全額弁済してしまうという制度です。この制度を利用するかどうかは、再生債務者が決めればよいことになっています。一定額以下の債権を有する債権者の数を減らせば、債権者集会での再生計画案の審議や議決がスムースに行くと思える場合はずいぶん便利に使うことができます。ここでの少額の再生債権については決まりはありません。再生債務者の方で考えて決めることができます。また、これは通常、再生手続開始の申立てと同時に申立てる、保全処分の申立ての際に、弁済禁止の除外債権として申立てるのが通例です。通常10万円以下の債権を少額の債権としているケースが多いようですが、再生債務者の規模や資力、取引先の一般的な取引額や再生債権額を考え、もっと高い金額を決めることもできます。
       なお、この弁済は、少額の再生債権を持つ債権者への全額の弁済です。少額債権が10万円以下とされたときに、20万円の再生債権を有する債権者にその再生債権の一部として10万円を支払うことは許されません。「手続の円滑な進行」の役にはたたないからです。ただ、この場合、その再生債権者が10万円を超える金額の債権額を放棄しますと、その再生債権者の再生債権は10万円になりますから、その全額である10万円を支払ってもらえます。
       実務では、10万円以下を少額の債権とした場合、通常、再生債権額が50ないし100万円くらいまでの再生債権者は、10万円超部分を放棄しているようです。
    • (三)事業の継続に著しい支障を来す場合の少額債権ー全額弁済
        債権者平等原則の例外の三番目は、民再法85D後段の「事業の継続に著しい支障を来す場合の少額債権の弁済」です。この規定は、「少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すときは、・・・再生債務者等の申立てにより、その弁済をすることを許可することができる。」というものですが、これも再生債務者からの申立てでできる制度です。
       この制度における少額債権とはどの程度の債権をいうかは、弁済の対象となる債権の額、再生債務者の資産、業績の規模、弁済の必要性の程度などから判断されるます。また、ここでいう弁済は、予想配当率に応じた一部弁済ではなく、債権全額の弁済が許容されているものと解されています。
       この規定は平成14年改正法によって追加されたものですが、事業の継続に著しい支障を来す場合の解釈は、「債権者平等の原則」に違反しないように、厳格になされなければならない、とされています。
       重要な取引先から再生債権を支払わなければ取引を継続しないといわれたからと言って、安易に弁済を許可するとなると、そのような不合理な申し出を助長することになるので、このような場合は、決議に付するに足りる再生計画案の作成の見込がないとして、再生手続の廃止事由に当たるものと解するほかない、という厳しい見解が多い(「条解民事再生法」363ページ等)ようです。
       「条解民事再生法」363ページでは、これまでの弁済許可事例として、
      • イ.外国の租税債権を弁済しなければ在外財産が差し押さえられ、当該国における事業の継続に著しい支障が生じる場合、
      • ロ.外国における債務を支払わなければ、当該国におけるその後の日本企業の活動が極めて困難になる国情にあり、これにより当該企業の評価が低下して事業の継続に著しい支障が生じると認められる場合、
      • ハ.日常的に生じる病院の廃棄物の処理業者がいて、これとの取引が止まると事業の継続が不可能となり、代替措置をとることが困難である場合
      • ニ.一定の地域に入ることが許される運送業者が限定されており、その業者との取引が中止されると事業の継続に著しい困難が生じる場合などがあると、されています。
       しかしながら、実際の実務では、こんなに厳格に適用されているのか、疑問に思うこともあります。これは、次の4で触れることにします。

    4,商取引債権の保護
     民事再生の申立をしても、一般的な商取引上の債権、または特定の商取引上の債権を保護しないと、再生ができない、あるいは、困難になる、ことが予想される場合、どういう方法で、一般的な、あるいは、特定の、商取引上の債権を保護するかは、再生債務者にとっては、再生を果たせるかどうか、極めて重要な問題です。つまり、一般的な商取引上の債権、または特定の商取引上の債権、については、早期に、通常の少額債権の金額を超えた、ある程度の大きな金額の弁済をしたいという場合に、できるのか、という問題です。
     このような、ある程度まとまった金額の弁済をしたいと思う場合でも、民事再生法を利用する以上、私的整理とは違い、債権者平等の原則に違反することは許されませんので、法が認める三つの弁済の制度を活用する他に方法はないのですが、これらを検討してみますと、まず一番目の、中小企業者に対する弁済ですが、これは要件が厳しくまた全額弁済を受けうるものではないのであまり利用されていない、と言われています。そうしますと、全額の弁済が可能になる「少額の債権の弁済」の二つの制度の利用ということになりますが、そのうち民再法85D前段の「手続の円滑な進行のための少額の債権」は、制度の趣旨から言って、自ずと金額に制限があるように思われますし、少額の債権の額を100万円であるとか、500万円であるとかした場合、どの程度までなら許されるか、という問題があると思われます。また、この制度を利用する場合は、再生債権者は皆平等に扱われますので、一般的に商取引上の債権を保護したい場合は、少額の債権の額を100万円、あるいは、500万円としても有効でしょうが、一般的な取引先への弁済ではなく、特定の商取引上の債権の保護という点では、この制度は使えません。その場合は、民再法85D後段の「事業の継続に著しい支障を来す場合の少額債権」の利用しか方法はない、ことになります。
     しかし、この制度の運用は、前述のように、厳しいとなると、これにも自ずと制限があると言わざるを得ないものがあります。

     実は、私自身の経験なのですが、ある事業協同組合の代理人として、関西地方から九州までを営業基盤とするある再生債務者企業の代理人と交渉した際、再生債務者代理人より、少額債権は500万円と言われ、しかも、表面的な債権者はその事業協同組合であったのに、実質的な債権者は、協同組合を通して販売していた20近い協同組合員であると認めてもらい、総額1億2000万円を超えていた組合の債権のうち、各組合員毎に、500万円を上限に、再生債権であることを認めてもらい、合計1億円近い金額を弁済してもらった(それを超えた金額は当然放棄して)経験がありますが、その際再生債務者代理人が語っていた500万円の少額債権が、民再法85D前段のものか、後段のものかは確認していません。こんな例もあったという事例の紹介をしておきます。
  • 二 債権
     法的整理であれ、私的な整理であれ、整理の対象は、企業が負担する債務です。債務が支払えないから危機を迎えるわけですから、その債務を整理する必要がある、ということになるのです。この債務は、債権者から見れば債権ですが、民事再生法に限らず、会社更生法でも破産法でも、法的な債務整理をする場合、債権の性格や違いを十分認識しておかなければなりません。実務上、銀行の債権、リース料債権、仕入れ先の売買代金債権が気をつけなければならない債権になります。
     そこで、民事再生法を解説する最初に、民事再生法における債権の種類、性格、位置づけについて、解説します。
三 民事再生法のフローチャート
  •  (一) 民事再生法を利用して、企業を再生させる場合の、大まかなフローチャートを示しますと、次のよう
       になります。右の数字は、申立時からのおよその期間です。
       (1) 再生手続開始の申立て・・0
           ↓
       (2) 再生手続開始決定・・・・・1〜2ヶ月
           ↓
       (3) 再生計画案の作成・提出・・・4〜6ヶ月
           ↓
       (4)  再生計画案の審議と可決・・・6〜8ヶ月(再生計画案の可決で再生計画になる。)
           ↓
       (5) 再生計画の認可・・・(4)+1〜7日
           ↓
          弁済開始   ・・・・通常(5) + 1年
           ↓
       (6) 再生手続終結決定・・・・(5)+3年後(再生計画認可確定から3年経過)
  • (二) 以上の大まかなフローチャートの上に、再生債務者がすること、裁判所がすること、監督委員がす
        ることを書き加えます。

       (1) 再生手続開始の申立て・・0
           ↓
          ・裁判所での「債務者審尋」・・・0〜2
          ・裁判所がする保全処分・・・0〜3
          ・裁判所がする監督命令(監督委員の選任)・・・0〜3
          ・再生債務者が開く債権者説明会 ・・・5〜10
          ・監督委員の裁判所への報告書 ・・・開始決定の1週間程度前
           (監督委員による共益債権化の承認)
           ↓
       (2) 再生手続開始決定・・・・・1〜2ヶ月
           ↓
          ・裁判所がする再生債権の届出期間の指定・・・3〜4ヶ月
          ・再生債権者の再生債権の届出と、再生債務者の認否書の提出・再生債権確定手続・・・4〜
          5ヶ月
          ・再生債務者がする財産評定 ・・・2〜3ヶ月
          ・再生債務者から裁判所への報告書提出 ・・・3〜4ヶ月
           (法人の役員の責任の追及) 
           ↓
       (3) 再生計画案の作成・提出・・・4〜6ヶ月
           ↓
          ・監督委員から裁判所にする意見書提出
           ↓
       (4) 再生計画案の審議と可決・・・6〜8ヶ月(再生計画案の可決で再生計画になる。)
           ↓
       (5) 再生計画の認可・・・(4)+1〜7日
           ↓
       (6) 弁済開始   ・・・・通常 (5)+ 1年
           ↓
       (7) 再生手続終結決定・・・・(5)+3年後(再生計画認可確定から3年経過)

第一章  再生手続開始の申立て


 債務者が、再生手続開始の申立てをしますと、以後、「再生債務者」と呼ばれます(民再法2)。
 なお、民再法の条文によく出てくる「再生債務者等」という言葉は、管財人が選任されている場合は管財人を意味し、管財人が選任されていない場合は再生債務者を意味する言葉です。中小企業の再生事件で、管財人が選任されることはまずありませんので、今後、条文を引用する場合、「再生債務者等」を、「再生債務者」と書く場合があります。
第一節 申立ての要件
1,申立権者

 申立権者は、債務者と債権者です。
 「・・・債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる。・・・」(21@)また、「・・・債権者も、再生手続開始の申立てをすることができる。」(21A)ことになっています。実は、この他、外国管財人にも申立権を認められています(209@)が、中小企業が再生債務者になる事案では、ほとんどが債務者ですから、この実務レポートは、債務者申立てを前提に書いていきます。
 なお、余談ですが、ここでいう「債権者」とは、再生手続に服する債権者すなわち再生債権者となる債権者を意味すると解されています。共益債権者や一般優先債権者は再生手続外で権利行使が認められていますので、再生手続開始の申立ての資格はありません。

2,民事再生能力
 再生債務者になりうる能力・資格を民事再生能力と言いますが、これは、会社更生法の場合(この場合は株式会社のみです。特定有限会社も会社法上の株式会社ですから資格はあります。)と違って、法律上は何の制限もありません。会社でも個人でも申立てが可能です。株式会社でない医療法人や学校法人が再建型の倒産法の利用を考えると、会社更生法は使えません。使える法律は、民事再生法しかありません。

3,開始原因
 再生手続開始の申立をするには、その原因となる事実が必要となりますが、それは、「支払不能になるおそれ」、「債務超過になるおそれ」、「在庫商品の大量廉価販売などにより無理な資金繰りをしないと弁済期に債務の弁済ができない場合」です。
 少し詳しく解説しますと、民再法21は、「@ 債務者に破産手続開始となる事実の生ずるおそれがあるとき」または「A 債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」(21)に、債務者から再生手続開始の申立てができると定めています。ここで破産手続開始の原因となる事実とは、「債務者が支払不能にあるとき」ですが、債務者が法人である場合(無限責任社員を有する合名会社、合資会社は別)は、「債務超過」の場合も破産手続の開始の原因になります。
 そこで、民事再生法による、再生手続開始の申立をするには、支払不能になるおそれ、債務超過になるおそれ、無理な資金繰りをしないと弁済期に債務の弁済ができない場合、という原因が必要になるのです。
 なお、 ここで、「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいい(破2)。支払能力は、債務者の財産・信用力・稼働力の総合判断によって客観的に決せられるもの、とされています。
 再生手続開始の申立ては、破産に比べ、破綻の程度が低い段階での再建を可能にしていますので、早い申立てが可能です。
 また、開始原因の「A 債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」は、債務者のみが申立てうる(21@)ことになっています。支払不能ではないが、商品の大量廉価販売によらないと資金繰りがつかないような場合が想定されます。商工ローンからの資金調達をせざるを得ないような場合も、これに該当すると考えられます。

【財務分析】
  実務上、再生手続開始の申立ての開始原因を疎明するために、財務分析をします。
  まず、自分の会社の財務分析をし、次の資料を作成します。
  • (一)貸借対照表 
     貸借対照表は、毎決算期末の財産状況を表わしますが、この資産の部に書かれた資産を処分価格で評価し直します。処分価格とな何か、については、財産評定のところで解説します。
     この処分価格で資産を評価し直して作った貸借対照表は、通常の貸借対照表ではないという意味で「非常貸借対照表」とか「清算貸借対照表」と呼ばれます。
     なお、粉飾されたり、適正な減価償却をしていないために、間違った内容になっている貸借対照表を修正した貸借対照表は、「修正貸借対照表」と呼ばれます。
     この非常貸借対照表を作成すれば、経営危機を感ずる企業の場合、ほとんどが債務超過に陥っているはずです。ですから、再生手続開始の申立てようとする企業が、この要件を充たしていないので申立てができないということは現実にはない、と考えて良いでしょう。
  • (二)損益計算書
      粉飾はないか、減価償却はできているかを検討し、粉飾があれば粉飾部分を訂正し、減価償却ができていない場合は減価償却をして、「修正損益計算書」を作成します。これにより、真の利益を算定できます。
  • (三)キャッシュフロー表(過去半年、今後半年間の資金繰り表)
     これにより、事業経営の可能性を判断するのです。
     金融機関からの借入金の元金返済分が、損益計算書には出ないので、損益計算書では利益が出ていても、キャッシュが不足して経営が困難であることが分かったりします。

4,疎明
 再生手続開始の申立をするときは、再生手続開始の原因となる事実を疎明しなければならず、債権者がその申立をするときは、その有する債権の存在をも疎明しなければならないのです(23)が、実務上、さほど困難なことではありません。非常貸借対照表だけで、疎明は十分です。実務で疎明が不十分だと指摘されることもありません。それほど、実務では、債務者の経営状態は悪化している、とも言えます。なお、破産法では、債務者が破産手続の開始を申立てる場合、疎明は不要(破18@)とされています。民事再生法の場合、疎明を求めたのは、その場しのぎで再生手続を申立る濫用的な申立を防ぐことにある、からだと言われていますが、実務ではそのような濫用的な申立ては聞くことはありません。


5,費用の予納
 再生手続開始の申立をするとき、申立人は再生手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければなりません(民再法24)。これは、監督委員や監督委員の補助者である公認会計士の報酬などを確保する必要があるからです。
 実務上、予納金は、最低でも200万円は必要ですから、民事再生法を利用する者はある程度限られる(個人再生は別)とも言えます。
 なお、債権者申立の場合も当然債権者が予納しなければなりませんが、民再規16@後段で「再生債権者が再生手続開始の申立てをしたときは、再生手続開始後の費用については、再生債務者財産から支払うことができる金額をも考慮して定めなければならない。」とあるように、最終的には債務者が負担することになります(119条1号4号・これは「共益債権」になります。なお、この書き物では、ここで初めて共益債権が出てきました。)。

6,書面
 再生手続に関する申立は、特別の定めがある場合を除き、書面でしなければならなりません(規2)。再生手続開始決定の申立についても、書面でしなければならなりませんが、この書面は通常「再生手続開始申立書」と呼ばれます。
 再生手続開始申立書には、必要的記載事項として、規則12条1項に定める事項、またその他にも規則13条1項に定める事項を記載しなければならないことになっています。これら記載される事項の中で、実務上重要なのは、「再生計画案の作成方針についての申立人の意見」です。資料として重要なのは資金繰り実績表や資金繰り予定表です。先程述べたキャッシュフロー表です。
 過去3期分の決算書や、直近の貸借対照表の修正貸借対照表や非常貸借対照表の作成も必要です。

7,管轄裁判所
 再生手続開始の申立をする裁判所のことです。「主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄」します(民再法5)。

8,破産手続との優劣
 民再法は、再生債務者について破産手続や特別清算手続がなされていても、裁判所は、必要があると認めるときは、それらの手続を中止して、再生手続を進めることができる(26@)ことになっています。いわゆる倒産四法では、会社更生法、民事再生法、会社法の特別清算手続、破産法の順で、つまり、再建型が清算型に優先し、同じ型の中では、特別法が一般法に優先する形で、優先順位が決められています。

第二節 再生手続開始の申立ての準備
1,再生計画案の作成方針についての再生債務者の意見

これは、再生手続開始の申立てをする場合、裁判所が強い関心を持っているところです。どのようにして企業を再生させたいのか、の基本的な考えをまとめておく必要があります。
(一)収益弁済型再生計画案
まず、企業は、今後も事業を継続していき、将来得られる利益の中から、債務の弁済をしていく、という再生計画案です。この案を立てる場合、次の順で整理するとよいでしょう。
  • ア 弁済額の予想を立てます。
    @ 別除権の対象になっている財産を残しておきたいのかどうかを検討して、その財産を残しておきたいのなら、別除権者が別除権の行使によって回収できる債権額を見積もり、それは全額支払う予定にします。
    A 従業員の給与・賞与・退職金の未払分も全額支払う予定にします。
    B 税金、社会保険料の未払額を全額支払う予定にします。
    C その他の再生債権については、元金を10年間で均等に分割して弁済する、という前提で、いくら支払えるかを予想します。
  • イ 弁済額を生み出す収益、利益予想を立てます。読者の皆様は、アとイは逆じゃないかと思われるのではないでしょうか。
    理論的には、先に収益予想を立て、アのCの弁済額を算出するのが正しいのですが、実務上は、まず結論ありき、で始める場合の方が多いように思います。
     それは、再生計画が認可された後、10年にも及ぶ期間の収益予測が簡単にはできないからです。
  • ウ そして、債務免除による免除益課税問題の検討になるのですが、再生手続開始の申立ての段階では、あまり問題になることは少ないと思います。この問題は、詳しくは再生計画案の策定のところで説明します。
(二) 事業譲渡型再生計画案
 スポンサー会社がついている場合(「プレパッケージ型」と言われます。)、事業を譲渡して対価をもらい、それを債権者への支払い原資としてアの@からCまでと同じ予想を立てます。この場合は、アのCは、一時金になる場合と、長期分割になる場合の二つがあります。
 このプレパッケージ型と言われる再生方法の問題点は、再生計画案の策定のところで説明します。

2,銀行預金対策を検討
 再生手続開始の申立てをしようとする企業は、銀行からの相殺を阻止することを考える必要があります。どういうことかと言いますと、金融機関から融資を受けている会社は、金融機関との間に銀行取引約定書や信用金庫取引約定書といった金融機関との取引に全面的に適用になる契約書を差し入れていますが、この契約書の中に、期限の利益喪失約款という条項があり、借主が民事再生法による再生手続開始の申立てをした場合、借入れた債務はその時点で全額返済しなければならないという条文があるのです。ですから、借主が再生手続開始の申立てをしてこの期限の利益を喪失しますと、金融機関は貸金と預金債務(借主から言えば預金は払戻し請求ができるので預金債権ですが、金融機関からいうと預金債務になります)との相殺ができることになります。また、企業が再生手続開始の申立て前であっても、先程の取引約定の中に通常「前各項のほかに債権の保全を必要とする事由が生じたとき」も期限の利益が喪失するという条項がありますので、再生手続開始の申立てをしようとしていることが金融機関に分かると、預金は事実上凍結され払戻しには応じてもらえなくなるのです。
 そこで、企業は、再生手続開始の申立てをする場合は、金融機関に内緒で、預金の払戻しをしておかなければならないのです。
 さらにです。
 企業が再生手続開始の申立ての前に預金を全部引き出したとしても、その後も、取引先から、金融機関の預金口座に振込があることが多いのですが、金融機関がこれを相殺の対象とすることも考えられます。その場合、金融機関は、預金者である企業につき、「再生手続開始の申立てがあった後に」預金口座への振込があり、その当時、企業がにつき「再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。」は相殺はできない、という民再法93@Cの規定がありますので、企業は再生手続開始の申立てをしたときは、すみやかに金融機関に再生手続開始の申立ての事実を知らせる必要があります。
 なお、この場合、金融機関としては、再生手続開始の申立てを知った後の預金と貸金又は割引手形の買い戻し請求権とを相殺できる場合もあることを知っておいた方が良いでしょう。それは、「強い振込指定」がある場合ですが、これについては、債権者の権利のところで、再度説明します。
 念のために書いておきますが、金融機関は、積極的に債務者の申立てる民事再生手続を支援する場合がありますので、このような預金引き出しや相殺予防が常に妥当する、というものではありません。

第三節 申立て直前の裁判所との事前協議
  企業が再生手続開始の申立てをする場合は、事前に裁判所に連絡して、事前協議をすることになっています。ここで、裁判所と、再生手続を進める方法、再生手続開始の申立て直後の保全処分の内容(具体的には、弁済禁止の保全処分の除外債権としてリース料債権を含めるかどうか)、監督委員の要同意事項を何にするか、再生債権の届出期間、認否書の提出期限等を詰めておく必要があります。
  • (一)再生手続を進める方法ー再生手続の三つの型
     再生手続を進める方法には三つあります。その一は監督委員も管財人も選任されないDIP型と言われる方法ですが、実務上これは採用されていません。その二は監督委員が選任される監督型あるいは後見型と呼ばれる方法ですが、実務上、中小企業の民事再生申立事件のほとんどすべてがこの監督型です。監督型は債務者に財産の管理処分権および会社経営権を持たせたまま、監督委員が「同意」と「承認」を中心に再生債務者を監督または後見しながら、再生手続を進める方法です。その三は管財人が選任される管理型と呼ばれる方法ですが、この方法は債務者から財産管理処分権や経営権を奪ってしまって管財人にこれを与える方法で、大企業のしかもその一部でしか見られない方法ですので、中小企業が申立てる再生事件はすべて、監督委員が選任される監督型(後見型)と言っても過言ではありません。
  • (二)弁済禁止等の保全処分
    (1) 保全処分
     再生手続開始の申立て直後に、裁判所がする保全処分は、弁済禁止、借財禁止、処分禁止の三点セットですが、弁済禁止の保全処分の対象から除外する「除外債権」としてリース料債権を含ませるかどうかは裁判所によって取扱が異なります。
      東京地裁の保全処分の一般的主文例では、リース料債権(保全処分では債務者から見た「リース料債務」という表現になります。)については、事務所の備品に関するものについては、弁済禁止の対象から除かれるのが一般的だと書いてありますが、大阪地裁の保全処分の一般的主文例では、リース料債権(リース料債務)、弁済禁止の対象から除外されていません。リース料債権については、判例で、ほぼ再生債権として扱われることに確定していますので、リース料債権が弁済禁止の除外債権にならないのは不自然ではないのですが、後で説明しますように、リース料債権を支払わないときは、リース会社はリース契約を解除し、リース物件の返還を請求できるというのが判例の見解ですので、再生手続開始の申立てをした企業としては、保全処分でリース会社へは弁済できないが、弁済しないとリース契約が解除され、リース物件を持って帰られるというジレンマに陥るのです。ですから、裁判所との事前協議では、リース料債権を支払っても良いという保全処分にしてもらいたい、というのが申立代理人になる弁護士の率直な考えです。
     私自身の経験ですが、事前協議の際、保全処分の内容についての細かな協議はなかったので、弁済禁止の保全処分の申立書を出した際、弁済禁止の対象からリース料債務を除外する内容のものにしたのですが、後で裁判所から電話があり、リース料債務も弁済禁止にする、ただ、必要に応じて共益債権化にすることを考えてほしい、と言われたことがありました。これも事例紹介です。共益債権化については、この後で説明します。
    (2) 他の手続の中止命令等
      なお、企業の中には、すでに、破産手続や特別清算手続あるいは債権者から個別にされている強制執行、仮差押え、仮処分、財産関係の訴訟手続、財産に関する行政手続あるいは、担保権の実行手続、が係属している場合もあると思いますが、それらがあれば、裁判所に中止を命じてもらう必要がありますので、このことも裁判所に報告し、中止命令を出してもらうようにしておべきです。
  • (三)監督委員の要同意事項
     裁判所は、再生手続開始の申立てをした企業に対し、いろいろ制約を課します。
     財産の購入や売却、借金、契約の解除などの法律行為や、訴えの提起等の事実行為で、日常の業務以外の行為はすべて、制約を受けていると考えて間違いありません。その制約とは、それらの行為をする場合は監督委員の同意ももらってする、ということです。同意をもらわないでですると、その行為は無効になります。ただ、相手方を保護する必要上、相手方が善意であれば、つまり相手方が監督委員の同意を得なければならない行為であることや監督委員の同意がないことを知らなかったときは、有効になりますが、しかし、それよりも、再生債務者が監督委員の同意を得ないで取引をしたことで、監督委員や裁判所の心証を悪くし、再生手続がうまくいかなくなる危険があります。
     少し、法的な根拠の説明をします。
     民再法54Aは、裁判所は、監督委員を選任した場合は、その同意を得なければ再生債務者がすることができない行為を指定しなければならない、と定めています。裁判所が監督委員に指定する内容については、法律で定めているわけではありませんが、民再法41が、裁判所は、再生手続開始後において、必要があると認めるときは、再生債務者等が財産の処分・財産の譲受け・借財・双方未履行の双務契約の解除・訴えの提起・和解又は仲裁合意・権利の放棄・共益債権、一般優先債権又は取戻権の承認・別除権の目的である財産の受戻し・その他裁判所の指定する行為をするには裁判所の許可を得なければならないものとすることができる、と定めていますので、裁判所は、監督委員に、これらの行為の全部又は一部についての許可権限(民間人である監督委員に許可権限というわけにはいきませんので、民再法上では、監督委員の「同意権」になります。)を与えて、再生債務者がこれらの行為をする場合、その全部または一部について監督委員の同意を要する定めることになります。
     再生債務者の取引を監督委員にチェックさせるためです。
     裁判所の事前協議では、これらの制約の範囲についても意見があれば、言った方が良いでしょう。

第二章 申立て直後から再生手続開始決定の直前まで


 この間は、前に書いたように、次のようなことが予定されています。
  (1) 再生手続開始の申立て・・0
      ↓
   ・裁判所での「債務者審尋」・・・0〜2
   ・裁判所がする保全処分・・・0〜3
   ・裁判所がする監督命令(監督委員の選任)・・・0〜3
   ・再生債務者が開く債権者説明会 ・・・5〜10
   ・監督委員の裁判所への報告書 ・・・開始決定の1週間程度前
    (監督委員による共益債権化の承認)
      ↓
  (2) 再生手続開始決定・・・・・1〜2ヶ月

第一節 債務者審尋
  裁判所は、再生手続開始申立書が提出された後は、すみやかに、再生手続開始の申立てに関し、口頭弁論期日若しくは再生債務者を呼び出す審尋の期日の指定をすることになります(民再法16)が、通常は、審尋期日が開かれ、再生手続開始の申立て要件について、主張が十分であるか、疎明ができているか。について審理されます。裁判所は、事前協議で、十分に事情を聴き取っていますので、この審尋期日での審理は、形式的なものになっています。


第二節 保全処分(保全命令とも言います。)
  保全命令については一部解説しましたが、裁判所が、何故、保全処分をするかと言いますと、次のような事情があるからです。すなわち、このときまでに生じている債権のほとんどは、再生手続開始決定後は再生債権になるものですが、再生債権は、民再法85@で、「・・・再生手続開始後は、・・・再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け・・ることができない。」(85@)。と定めていますので、再生手続開始決定の時点ではなく、申立ての時点では、全額支払の義務があるのですが、再生手続開始の申立てをするような企業には、債務を全額支払う能力はありません。そこで、債権者に不公平にならないように偏波弁済になることを阻止するとともに、再生債務者に事業の継続のための現金を確保させるために、裁判所は、保全処分の中で弁済を禁じるのです。

  なお、保全処分では、裁判所は、再生債権の弁済を一律に禁止するのではなく、一定の範囲の債権を弁済禁止の対象から除外しています。これを除外債権と言いますが、東京地裁では、通常、
 ア 保全処分命令日以降の原因に基づいて生じた債務全般。
 イ 保全処分命令日の前日までの原因に基づいて生じた債務のうち、
   @租税その他国税徴収法の例により徴収される債務
   A再生債務者とその従業員との雇用関係により生じた債務
   B再生債務者の事業所の賃料、水道光熱費、通信に係る債務
   C再生債務者の事業所の備品のリース料
   D一定額(10万円が多い。)
  が、除外債権とされています。
  この除外債権について、少し説明しますと、民再法では、再生手続開始決定時までに生じた原因に基づいて生じた債権は再生債権として扱われますので、申立てから再生手続開始決定までの間に発生する債権も再生債権になり、再生計画によらないと弁済を受けることはできません。しかし、それでは、再生手続開始の申立てをした再生債務者とは、申立て時から開始決定時までは、安心して取引してくれる者はいません。そこで、
アの「保全処分命令日以降の原因に基づいて生じた債務全般」については、再生債務者から、弁済しても良いと定めてくれるのです。
  イの@とAは一般優先債権になりますので、弁済禁止からはずすのは、いわば当然のことです。Bのうち水道光熱費、通信に係る債務は、民再法50Aが「(再生債務者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方)が再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権は、共益債権とする。」と定めており共益債権になりますので、これも弁済ができるようにしたのは当然のことです。再生債務者の事業所の賃料は、再生手続開始決定後は再法49Cの共益債権ですが、その前の段階では、貸主の義務が反復的な給付にはあたらないので、民再法50Aの継続的給付ではないという理由で、再生債権とされています。しかしながら、事務所を使う必要がある場合は、その前の段階で共益債権並みの扱いをして弁済を認めているのです。
  Eの再生債務者の事業所の備品のリース料は、本来、再生債権ですが、後述の「リース料債権」問題があり、裁判所によって、除外債権とするところ、しないところがあるのです。東京地裁の一般のひな形は除外債権にしています。大阪地裁では、除外債権にはしていません。再生債務者代理人泣かせの問題です。
  Fの一定額(10万円が多い。)というのが、すでに説明しました「手続の円滑な進行のための少額債権」として全額弁済を受けうる債権になります。

  このように、弁済禁止の対象から除外された債権は、それぞれ理由があるのですが、再生手続開始の申立てをした企業としては、これらの外に、弁済したい再生債権があると思えば、保全処分の対象除外としておくことが重要です。例えば、運送費・倉庫料・人材派遣会社への派遣料などです。
  なお、注意しなければならないことですが、この保全処分によって弁済禁止の除外債権とされているからと言って、再生債権が共益債権になるものではありませんので、再生手続開始の申立てから再生手続開始決定時までに弁済をしていない債権は、別途、後述の共益債権にする監督委員の承認をとっておく必要があります。

  なお、保全処分によって再生債務者は債務の弁済ができなくなります。この結果、手形を不渡りにする場合も出てきますが、この場合、銀行取引停止処分は受けません。通常、各都道府県に設置された手形交換所の規則では、手形を不渡りにすると、制裁として、2年間銀行取引を停止すると定めているのですが、保全処分による不渡りは、法の命令による不渡りになりますので、制裁としての銀行取引処分は受けないのです。


第三節 他の手続や担保権の実行手続の中止命令等
  これについては、すでに説明しました。
  破産手続、特別清算手続、強制執行、仮差押え、仮処分、訴訟、行政手続、担保権の実行手続が先行しているときに、裁判所に中止命令を出してもらうのです。
  実は、中止命令の対象に、会社更生手続は含まれていません。これは民事再生法と破産法の優先順位のところで説明しました優先順位があるからです。つまり民事再生手続よりも、会社更生手続が優先されるからです。
  なお、これらの中止命令も、無条件で出してもらえるわけではありません。再生債権に基づく強制執行等は、「申立人である再生債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限る。」(民再法26@A)とされており、債権者がそれをしないと倒産してしまう場合や、再生債務者が個人の場合で債権者が扶養料債権者である場合などの場合は、「不当な損害」を蒙るものとして中止命令が出せない場合もあります。

  以上は、再生債権による個別の手続の中止命令ですが、包括的禁止命令という制度もあります。これは、以上に述べた中止命令によっては再生手続の目的を十分に達成することができないおそれがある特別の事情があるときは、・・・すべての再生債権者に対し、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等の禁止を命ずることができる、という制度です。ここで言う「包括的」とは、再生債務者のすべての財産を一律に対象とする目的財産の包括性・すべての再生債権者を一律に対象とする債権者の包括性・強制執行等に該当する手続を一律に対象とする手続の包括性・すでに係属している手続と将来の手続を一律に対象とする手続の時期の包括性の四つの包括性を意味する、とされています。この命令は、効力は強く、かつ、広範囲に及ぶため、保全処分や監督命令が出されたとき限られます(民再法27)。
  ただ、この包括的禁止命令は、再生手続開始の申立てから開始決定までの時間が短いこともあって、あまり利用されていません。

  なお、担保権実行手続の中止命令は、改めて解説しますが、これは再生手続開始決定後も必要に応じて、発令してもらえます。


第四節 監督命令(監督委員の選任)
  裁判所は監督委員の選任をして再生債務者のすることを監督します。
  監督の方法ですが、再生債務者のする一定の行為に、監督委員の同意を得ることにして監督することについては、すでに説明しましたが、もう一つの監督方法が「共益債権化の承認」です。これは第七節で解説します。


第五節 債権者説明会
  これは重要なイベントです。民再規61は、再生債務者は、「再生債務者の業務及び財産に関する状況又は再生手続の進行に関する事項について説明するため」、債権者説明会を開くことができる、と規定していますが、実務上は、再生債権者への早期の情報開示と、再生手続への債権者の協力を得るため、申立直後に第1回の債権者説明会が開催されているのが実情です。
  ここでは、通常、再生手続開始の申立書の抜粋・保全処分のコピー、比較貸借対照表・損益計算書(過去3期分程度)、非常貸借対照表、財産目録、再生手続進行のフローチャート等、時にキャッシュフロー表が配布され、再生申立に至った経緯、業績、資産・負債の状況、今後の取引条件の案内(締め日と請求書の送付方法、支払時期、方法)、少額弁済の基準や弁済時期、将来の再生計画案の素案等、の説明がなされます。この席では、監督委員がオブザーバーとして出席することも多く、監督委員が債権者の意向を聴取する場合もあります。
  なお、裁判所は、再生手続開始決定後、財産状況報告のための債権者集会(民再法126)を開くことができるのですが、再生手続開始の申立て直後の債権者説明会で早期に説明できていますので、これはほとんで開かれていません。それだけ、この債権者説明会が重要視されているということができます。


第六節 監督委員の裁判所への報告書
  監督委員は、再生債務者の業務及び財産の管理の監督をし(民再法57)、一定範囲の対象者に対し再生債務者の業務及び財産の状況につき報告を求め、再生債務者の帳簿、書類その他の物件を検査することができ(民再法59)ます。
  そして、監督委員は、裁判所の定めるところにより、再生債務者の業務及び財産の管理状況その他裁判所の命ずる事項を裁判所に報告しなければなりません(民再法125B)。裁判所は、通常、監督委員を選任しますと、再生手続開始決定を棄却すべき理由の有無を調査して裁判所に報告することを命じますので、監督委員は、その調査をして裁判所に報告します。裁判所は、その報告を受けて、再生手続開始決定を出すか棄却するかを決定します。

第七節 監督委員の共益債権化の承認
  これは、しなければならないイベントではありません。
  しかし、必要がある再生債務者には重要な問題です。

  今まで何度も説明しましたが、再生債権というのは「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(民再法84)です。したがって、再生手続開始の申立て後に発生した債権も、再生手続開始決定までのものは、再生債権になります。再生債権は、再生手続開始決定により弁済が禁止されます(民再法85@)。そのため、そのままでは、再生手続開始の申立をした再生債務者と取引をする取引先は、安心して取引ができません。そこで、「再生債務者・・・が、再生手続開始の申立て後再生手続開始前に、資金の借入れ、原材料の購入その他再生債務者の事業の継続に欠くことができない行為をする場合には、裁判所は、その行為によって生ずべき相手方の請求権を共益債権とする旨の許可をすることができる。」ことにしたのです(民再法120@)が、裁判所は、監督委員に対し、前項の許可に代わる承認をする権限を付与するのです(民再法120A)。
  ですから、再生手続開始の申立てをした企業は、取引先や融資をしてくれる人からの借入(再生債務者企業や更生会社が、申立直後から計画認可までの間に、運転資金を調達するために受ける融資を「DIPファイナンス」と言います。)については、その必要性を説明し疎明して、監督委員から、借財の同意と共に、相手方の債権の共益債権化の承認を得ておかなければなりません。

第三章 再生手続開始決定


第一節 開始か棄却か
  裁判所は、監督委員の報告を待って再生手続開始するか、申立てを棄却するかを決定します。
  民再法25は、裁判所が再生手続開始の申立てを棄却しなければならない理由を四つ定めていますが、民再法33で、それに該当する場合以外は、再生手続開始決定がなされます。

  • (一)棄却理由の一は、「再生手続の費用の予納がないとき」です。
     再生手続の費用として予納するお金のことを「予納金」と言います。予納金の金額は、「再生債務者の事業の内容、資産及び負債その他の財産の状況、再生債権者の数、監督委員・・・の選任の要否その他の事情を考慮して定める」(民再規16)ことになっていますが、一般的には、債務額を基準に定めています。予納金は通常再生手続開始の申立て前の、裁判所との事前協議のときに、裁判所から金額の提示があり、再生手続開始の申立て直後に納付していますので、予納をしないため再生手続開始の申立てが棄却になる例は少ないと思われます。
  • (二)棄却理由の二ーすでに破産手続又は特別清算手続が係属している場合
     再生債務者について、破産手続や特別清算手続が先行していても、再生手続開始の申立ては可能です。清算手続法である破産法や特別清算手続よりも、再建法である民事再生法が優先されるからです。しかしながら、破産手続や特別清算手続がある程度進行している場合は、その手続を進めた方が債権者には有利になる場合もありますので、先行している破産手続や特別清算手続が係属している場合で「その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき」は、再生手続開始の申立ては棄却されることになるのです。
  • (三)棄却理由に三ー再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。
     実は、この理由は、再生計画の内容が実現可能かどうかという、実質的な審査による判断ではなく、手続的な側面を審査の対象にして判断されるものです。
     この理由も三つに分けることができます。
    • (1) 再生計画案の作成の見込みがない場合
       再生債務者の資金残高、資金調達力、事業の収益力、再生債務者の再生計画案立案の意思の有無、別除権対策の有無、を見て、はたして弁済計画が立てられるのかどうか、という観点から判断されます。
    • (2) 再生計画案の可決の見込みがない場合
       再生債務者は、再生手続が開始されますと、やがては、再生計画案を裁判所に提出しますが、それを債権者集会で可決してもらうには、民再法172の3@で、出席議決権者の過半数の同 意と、出席議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意」が必要ですから、再生手続開始決定の前の段階で、多数の債権者または大口の債権者が再生手続に協力しない旨を明確にしているため、再生計画案の可決の見込みがないと判断されると、再生手 続開始の申立ては棄却されることになります。
       実務上は、金融機関が再生手続に協力的ではない場合が多いので、金融機関の持つ債権額が全債権額の2分の1を超えている場合は、金融機関の同意を確認した上でなければ、事実上、再生手続開始の申立てはできません。
    • (3) 再生計画の認可の見込みがない場合
       再生手続の申立てが法律に違反し、その不備が補正されない場合や再生計画の遂行可能性がない場合、と教科書には書いてありますが、再生手続開始決定の前の段階で、この理由で棄却になるというのはよほどひどい場合でしょう。現実には、この規定による棄却例は少ないのではないか、と考えます。
  • (四)不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
     詐欺的な取引をした企業が、民事再生法を悪用して、被害者からの追求を避けようとする場合や、財産の隠匿のために時間稼ぎをする場合、などが想定されます。
     私が、棄却意見を書いて再生手続開始の申立てが棄却になった事例は、種々の理由で、破産の場合だと確実に配当に回せる資産が、再生手続を進める間に劣化していく危険性を感じた事案です。
     その事案については、再生手続開始の申立てが棄却され、その後破産手続が開始され、1年以内に5%の配当ができました。再生手続開始の申立て段階の予想配当率が10年間で5%というものでしたから、この事案では、棄却が正解だったと言えます。なお、だったら、再生計画案では5割、7割と高率の配当案を書けば良かったのかと言いますと、再生計画案はあくまで予想であり、確実性がない上、再生債務者が信用できない場合は、いわば絵に描いた餅でしかないわけですから、破産手続で1〜2%の配当が予想される場合は、破産の方を選択する、というケースもあります。要は、信用のできない再生債務者は破産以外にはないということになります。

第二節 再生手続開始決定の効力発生時期
一 効果発生時期
 再生手続開始決定の効果は、決定時から生じます(民再法33A)。再生手続開始決定が確定してからではありません。再生手続開始決定が確定するのは、高等裁判所への即時抗告期間が経過した後になりますが、即時抗告期間は、「その公告が効力を生じた日から起算して二週間」(民再法9)ですので、再生手続開始決定が確定するまで、公告までの期間+二週間という長い期間が必要
になりますので、早めに再生手続開始決定の効果を生じさせたものです。

二 再生債務者の行為の効果
 なお、地方裁判所で、再生手続開始決定が出され、直ちに効力が生じますと、再生債務者は、再生債務者がいろいろな法律行為をすることになりますが、当然有効です。再生手続開始決定が不幸にして抗告審で取り消され、取消決定が確定したとき(抗告審での取消決定、原裁判所の再度の考案)は、再生債務者のした法律行為の効果はどうなるのかという問題があります。抗告審で再生手続開始決定が取消されると、開始決定の効果は遡及的に消滅することになりますが、それが有効であることを前提に、開始決定から取消決定確定までの間に再生債務者等がした行為の効力は有効であると解されています。

三 再生計画認可の効力発生時期との違い
 なお、再生計画の認可の効力は、再生手続開始決定のように効力の発生を急ぐ必要はないので、認可決定が確定してから生ずることになっています(民再法176)。


第三節 再生手続開始の申立てが棄却された場合の措置
  一 即時抗告
 再生手続開始の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができます(民再法36@)が、再生手続開始の申立てに対する棄却決定については、開始決定とは違って、公告が要求されていませんので、即時抗告期間は、棄却決定の告知を受けた日から一週間です(民再法18,民訴法119)。告知の方法は裁判所が相当と認める方法で足りますが、実務上は、即時抗告期間を明確にするため、送達の方法をとるべきだとされています。しかし、申立人代理人に棄却決定書を交付し、その場で受領印をもらうという方法もあります。このように、即時抗告は、棄却決定の送達を受けて一週間ということになりますが、再生手続開始の申立て棄却決定を受けるような再生債務者が、即時抗告で棄却決定を争う時間が与えられるかどうかは分かりません。次のようなケースもあるからです。

  二 破産手続開始の必要性
 再生手続開始の申立てに対して棄却決定をする再生債務者に対しては、裁判所は、職権で、破産手続を開始するケースもあります。民再法250で、「破産手続開始前の再生債務者について再生手続開始の申立ての棄却・・・の決定が確定した場合において、裁判所は、・・・職権で、破産法に従い、破産手続開始の決定をすることができる」ことになっているからです。ただ、この場合、裁判所は、再生手続開始の申立ての棄却決定が確定しないと破産手続開始決定が出せませんので、その間、民再法251で、監督委員を破産法の保全管理人にする保全管理命令を出して、再生債務者の財産の管理を監督委員に委ねることになるものと思われます。
 それも、再生債務者に分からないような方法で迅速にしなければならない場合があります。
 実務であった一例を紹介しますと、まず裁判所が保全管理命令書を事前に準備し、監督委員に渡しておく。そして裁判所は、再生債務者(申立人)代理人事務所から事務員を呼び出し、再生手続開始の申立ての棄却決定書を渡す。直後に、裁判所は書記官を通じて、携帯電話で、保全管理人に選任された監督委員にその旨を伝える。再生債務者の事業所の近くで待機していた保全管理人は、ただちに、再生債務者の財産を管理下に置く。というケースです。このケースで、保全管理人は、再生債務者の保管していた金庫の中にあった多額の現金を管理下に置くことができましたが、このようなケースもあるという事例紹介です。

  三 再生手続開始の申立ての取下げ制限
 申立人である再生債務者は、再生手続開始の申立てが棄却されそうだと思えば、破産を避けるため、申立てを取下げることが考えられますが、申立ての取下げは、再生手続開始決定前ならできるのですが、保全処分や監督命令が発令された後は、裁判所の許可がないと、許されません。実は、平成12年4月1日に民事再生法が施行されるのと同時に廃止された旧和議法時代には、和議の申立ての取下げについては、このような制限がなかったため、和議申立人が和議を申立て、弁済禁止の保全処分を得て、その後で和議を取下げ、和議を取下げたことを秘密にしたままで、保全処分を理由にして、債権者への弁済を拒否するという弊害が生じていました。そのような過去の弊害を考慮し、民事再生法では、簡単に取下げさせない、扱いにしたものです。
 ですから、予納金が納付されないため、棄却される、というあまり現実的でないケースを除いて、保全処分と監督命令が発令された後は、まず再生手続開始の申立ての取下げは認められず、破産手続に移行することになるものと思われます。


第四節 再生手続開始決定の効力
  一 再生手続開始決定によって、次のような効果が生じます。
  • 1,再生債権に対する弁済禁止(85)
  • 2,債権者からの権利行使が制限される(39)
  • 3,不利な契約を、一方的に解除することができる(49)
  • 4,債権者からも、債務者からも、相殺が制限される
  • 5,再生債務者が再生手続開始決定前にした弁済(否認の要件を充たしたもの)などが、監督委員より、否認してもらえる
  • 6,簡易な方法で再生債務者会社の役員の責任追及ができる
  • 7,事業の譲渡が、裁判所の許可だけでできる(債務超過が要件ですが、現実にはほとんどの再生債務者企業は債務超過と思われます)
    これらは、章を別にして解説します。

  二 再生債務者の第三者的性格(第三者性)
 一に書いた効果は、再生債務者が再生手続によって再生を図る上で、有利に使うことのできるものですが、一方で、再生債務者には、公平誠実義務が課せられます。
 このような、再生債務者に有利な権限の行使と、公平誠実義務を、統一的に説明する理論として、再生債務者の第三者性という考えがあります。
 「再生債務者の第三者性」について説明します。
 監督委員が選任される通常の再生手続では、「再生債務者は、再生手続が開始された後も、その業務を遂行し、又はその財産を管理し、若しくは処分する権利を有する。」(民再法38@)のですが、「再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負」います(民再法38A)。この公平誠実義務と下記の法的な扱いを根拠に、再生債務者は破産手続における破産管財人や更正手続における管財人と同じような、第三者的地位に立つというのが多数説の考えです。
 すなわち、
  • ア 再生債権者は、再生手続開始により、個別的な権利行使が禁止されること(85@)
  • イ 再生債務者は、双方未履行の双務契約の履行と解除の選択権が認められていること(49 これは破産管財人や更生管財人と同じ権限)
  • ウ 相殺制限がなされていること、
  • エ 否認対象行為の中に、対抗要件取得行為が含まれていること(129)、
  • オ 再生手続開始前の債権譲渡につき対抗要件を備えていないときは、債権譲受人は、右譲渡の効力を再生手続で主張できないものと解されていること、
  • カ 管理命令が発令された場合は、再生債務者の業務遂行権・財産の管理処分権は管財人に専属し、管財人は破産管財人や更生管財人と同様の第三者に立つので、管理命令の有無によって、第三者性の有無を分けるべきではないこと
ですが、これに反対する少数説の根拠は、
  • ア 否認権については再生債務者自身による行使を認めず、監督委員により行使しなければならないとしていること(135@)
  • イ 再生手続上の機関に対する裁判所の一般的監督権を定める規定(57.63.78.83)が、再生債務者に対する関係では存在しないこと
  • ウ 実質的に見た場合、再生債務者が第三者的地位にあるとすれば、通謀虚偽表示の場合、民法94は、「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。2前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」 とあるので、債権者の中に1名でも善意の者がいれば、相手方は再生債務者に対して無効を主張できなことになり、不当であること。また、詐欺の場合も同じ問題があり、詐欺の被害者は、債権者の中に1名でも善意の者がいれば、詐欺した当の相手方である再生債務者に対し、取消の意思表示ができないことになり、不当であること、
等があげられています。

第五節 再生債権に対する弁済禁止・債権者からの権利の行使の制限
  一 弁済禁止
 再生手続開始決定により、「再生債権については、再生手続開始後は、この法律に特別の定めがある場合を除き、再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。」(85@)ことになります。
 実は、再生手続開始決定前の段階で、通常は、すでに、弁済禁止の保全処分により、債権の弁済は禁じられているのですが、保全処分による弁済禁止の効果は、「再生債権者が、その行為の当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限」られています(39E)。つまり、債権者が、弁済禁止の保全処分が出ていることを知らないで、債務者から弁済を受けた場合は、その弁済を有効なのです。これに対し、再生手続開始決定による弁済禁止の効果は、債権者の善意悪意(善意とは知らなかったこと、悪意とは知っていたことの意味です)を問わず、無効になるのです。
 なお、弁済禁止には三つの例外があることはすでに述べたとおりです。すなわち、「再生債務者を主要な取引先とする中小企業者」への弁済、「再生手続を円滑に進行する」ための少額の弁済、「再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すとき」の少額の弁済の制度です。これらはすべて裁判所の許可を得て弁済することになります。許可のない弁済は無効です。

  二 債権者からの権利行使の制限
 債権者は、再生手続開始決定があったときは、破産手続開始、再生手続開始、特別清算開始の申立て、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等、再生債権に基づく財産開示手の申立てはすることができなくなります。また、債権者がすでにしている、破産手続、再生債務者の財産に対しる再生債権に基づく強制執行等の手続、再生債権に基づく財産開示手続は中止させられます。特別清算手続はその効力を失うことになります(39)。
 これらは、債権者間の平等と、再生債務者の事業の継続のためです。

第六節 共益債権
  ここで、共益債権について説明します。
  前節に出た、債権の弁済禁止や、権利行使の制限というものは、すべて再生債権のことなのです。再生債権とは、これまでに何度も出ていますが、「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」ですから、再生手続開始決定後に生ずる債権は、原則として再生債権ではなく、それは共益債権になるものです。共益債権は、再生手続によらないで、随時弁済され、再生債権に先立って、弁済されるものですから(121)、債権が再生債権か共益債権かは天と地ほどの開きがあるのです。
  再生債務者が、再生手続開始決定後、事業を続けていく限り、新たな債務(債権者から見て債権)が日々生じていきますが、これらは全部共益債権なのです。
  民事再生手続で、ここまでに生じている共益債権というのは、債権者が再生手続を申立てた場合の予納金その他の裁判上の費用の請求権(119の1号)と、監督委員の承認をしてもらって共益債権になった「資金の借入れ、原材料の購入その他・・・によって生じた相手方の請求権」(120)だけです。しかし、再生手続開始決定後は、再生債務者の業務や財産の管理、処分に関して、債権が頻繁に発生しますが、「再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」は共益債権です(119の2号)。企業が再生手続開始決定により新たな思いで始める事業から生ずる債権は、全額弁済できなければ、債権者から取引してもらえません。当たり前と言えば当たり前ですが、再生手続開始決定を境に、再生債権と共益債権の違いが出るのです。



第七節 不利な契約を解除できる効果ー双方未履行の双務契約の解除権
  ここで、再生債務者から、不利な契約を解除できる制度のことを解説します。
  これは、「双方未履行の双務契約の解除権」と言われる制度です。
  民再法49は「双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは」再生債務者から契約の解除をすることと、再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することが選択できる、という制度を設けています。解除、履行の選択権とも言われます。
この制度により、再生債務者が契約を解除しますと、相手方は、債務不履行がないにもかかわらず、契約を解除される結果になりますが、このような相手方の一方的に不利になる解除権を認めた理由は、「再生債務者の第三者的性格」によるものとされています。そのため、再生債務者がこの権利を行使するのは、個人の利害にとらわれず総債権者の利益のためになすべきだと言われています。
  実務上あったことですが、ある企業が、経営が苦しくて、それを打開するため、FC契約におけるフランチャイザーの市場調査が相当な売上や利益が期待できるということだったので、それを真に受け、あるFC契約によるサービス業を始めたところ、大赤字を出しました。しかしながら、そのFC契約では、フランチャイジーからは解除ができない内容になっていましたので、その企業は、たちまち経営危機に陥り、債務整理をせざるを得なくなりましたが、民事再生法での再建を選択しますと、このような不利な契約は、再生債務者となった企業が一方的に解除できるのです。
  この解除権の制度は、再生債務者にとっては、民事再生法が与えてくれる恩典とも言えます。


  以上のような、再生手続開始決定によって生ずる法的効果に関する詳しい解説は、後の章に譲ることにして、次の章では、再生手続開始決定直後、再生債務者がなすべきことを解説します。

第四章 再生債務者が再生手続開始決定後にすべきこと


第一節 財産評定
 一 財産評定の目的

 再生債務者は、再生手続開始後、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならない(124)ことになっています。これが財産評定です。
 財産評定の目的は、俗っぽく言えば、破産による配当と比較して、民事再生法による配当の方が特になるかどうかを判断するため、です。教科書的に言えば、財産状況を正確に把握することを通して、再生債務者の清算価値を把握することです。裁判所は、再生計画案が債権者集会で可決されても、その内容が「再生債権者の一般の利益に反するとき」は、再生計画不認可の決定をする(174A4 号)ことになっていますが、「再生債権者の一般の利益に反するとき」とは、破産の方が特だという場合のことです。教科書的に言いますと、清算価値が保障されていないときを言う、のです。破産の場合よりも有利だという原則を、清算価値保障原則と言います。要は、債権者集会で、事業の継続を希 望する多数派の債権者が、破産による配当(清算価値の実現)よりも悪い条件の再生計画案に同意 し、再生計画案が可決されても、裁判所は、その再生計画は、少数派の権利(清算価値保障原則)を害するので、認可しないということになるのです。なお、再生計画が清算価値保障原則を充たしているかどうかの裁判所の判断は、たんに金額だけの比較ではなく、弁済時期、将来の収益力、再生計画どおりに支払ってもらえるかどうかのリスクなどを考慮してなされることになります。

二 財産評定の評価基準
1,原則
 財産評定の評価基準は、「財産を処分するものとしてしなければならない。ただし、必要がある場合には、併せて、全部又は一部の財産について、再生債務者の事業を継続するものとして評定することができる。」と定めた民再規56@によって、通常の場合は、処分価格で、また事業譲渡と減資等をする場合は、企業継続価値(ゴーイング・コンサーンバリュー)で評価するべきであるとされています。

2,処分価格の意味
 処分価額は、強制競売の場合とは異なり、特別の減価を行わない通常の処分価額ですべきであるという見解(新版民事再生の実務230ページ)と、強制競売の方法による場合の価額であるとする見解(条解民事再生法558ページ)があります。強制競売による場合の価額とは、「近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生ずべき収益、不動産の原価その他の不動産の価格形成上の事情を適切に勘案し、・・・強制競売の手続において不動産の売却を実施するための評価であることを考慮し」(民執法58A)た価額(競売減価した価額)と言うことになります。
 実務的には、より安い価格である競売価格によっているように思われます。

3,例外ー継続企業価値の評定
 財産評定は、財産を処分するものとして行うことが原則ですが、例外として、「ただし、必要がある場合には、併せて、全部又は一部の財産について、再生債務者の事業を継続するものとして評定することができる。」(規56@但書き)ことになっていますが、「事業を継続するものとして」の価値を、企業継続価値(ゴーイング・コンサーンバリュー)と言います。継続企業価値とは、将来の予想収益を収益還元率で除することによって算定される(収益還元法、ディスカウンテッド・キャシュフロー=DCF法)ものとされております。
 企業継続価値で評価する場合の一が、事業譲渡のときとされています。すなわち、事業の譲渡の 対価については、たんなる処分価格ではなく継続企業価値を基準にしなければならないということです。
 また、事業譲渡は、会社が債務超過であるときは、株主総会の特別決議は不要で、裁判所の許可(代替許可)だけでなしうることになっています(民再法43@)が、この場合の債務超過の判断も、この企業継続価値に基づいて行わなければならないと解されています。処分価格でよいとする見解もあります。

 このように、財産評定の基準として、企業継続価値によるべきだという見解があり、理論的には、その通りでしょうが、現実の実務では、理論通りしているのかと言えば、はなはだ疑問です。わたし自身の経験ですが、旧会社更生法時代に更生管財人を務めたとき、その時の会社更生法では、財産 評定は企業継続価値ですべきとする規定があり、公認会計士とも相談して、表面的には、収益還元法による継続企業価値を出しました。しかしながら、一般に、更生会社や再生債務者企業が、将来10年間にわたりどのくらいの収益が予想されるか、どのくらいの利回りが期待できるかというと、明確 に予測することは不可能ではないかと思われます。そうしますと、将来の予想収益も、収益還元率も、主観で出して良いということになり、結局計算による客観的な企業継続価値は出し得ないのでは ないか、と考えます。結局その事案でも、このくらいの配当はしたいという、結論を先に出し、その結 論を出すために、将来の予想収益と収益還元率を出しております。ただ、企業継続価値を算出するのは困難だと言いましたが、企業継続価値で出せと言われると、処分価格よりは高くしなければならな い気持ちで、金額を出さざるるを得ない、という心理的な効果はありますが。

三 財産評定の効果
 ここで言う効果というのは、法律上当然に発生する法律効果ではなく、事実上の効果ですが、
1,効果の一として、帳簿上の財産の価額と実際の価値との差を、評定損(法人税法でいう評価損)として損金処理することをあげることが出来ます。評価損を計上することは、再生計画によって再生債権の一部につき免除を受けたときに生ずる免除益による課税問題を発生させない重要な意味を持ちます。これについては、再生計画のところで再度説明します。

2,効果の二は、財産評定の結果、債務超過になった場合の効果です。
 再生債務者が債務超過であるときは、再生債務者の営業の全部または重要な一部の譲渡を、株主総会の決議による承認に代わる裁判所の許可によって実行でき(43@。ただし、当該事業の全部の譲渡又は事業の重要な一部の譲渡が事業の継続のために必要である場合に限りますが。)ます。また、裁判所の許可を得て、再生計画において資本減少に関する条項を定めることができます(154A、166@A)。さらに、裁判所の許可を得て再生計画において募集株式を引き受ける者の募集に関する条項を定めることができます(162.166の2AB)。このように再生債務者が債務超過に陥った場合は、裁判所の許可だけでこれらのことができますが、債務超過に陥っているか否かは、財産評定の結果に基づいて判断されることになっているのです。なお、その財産評定の評価基準は継続企業価値とすべきであるとの見解と、処分価格でよいとする見解があることは、前述のとおりです。
3,予定不足額
 効果の三は、別除権者の予定不足額を計算する資料にしうることです。
 別除権者は、別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分について(予定不足額)のみ、再生債権者としてその権利を行うことができます(88)が、その額は、財産評定の結果に従って認否することになります。別除権については、さらに後の章で解説します。

4,その他
 別除権者と合意して別除権の目的の受け戻しができます(この合意を別除権協定といいます。)が、財産評定の結果が受け戻しの基準となります。ただし、不足額が確定していない再生債権については、配当が留保され、再生計画において、その権利の行使に関する的確な措置を定めることが必要となりますが、この場合、財産評定の結果は再生債務者、再生債権者ともに拘束するものではありません。再生債務者の行う担保権消滅の許可の申立における、担保権の目的の価額についても財産評定による価額が目安となるだけで、当事者を拘束する効果はありません。
 なお、細かい話しですが、事業譲渡を行う場合には、その譲渡価額については、前述のように、事業を継続するものとして評定した金額が基準となりますが、事業譲渡財産の一部に担保目的物が含まれているときは、担保目的物の価格は処分価格を基準に算定します。通常、企業継続価値と処分価格とを比較しますと、前者の方が高くなりますので、その差額は、別除権者に帰属しないで、再生債務者に帰属することになります。会計上は、その差額は、暖簾として、再生債務者の一般の財産に含まれることになる、とされています。
 このように、財産評定の結果が債務超過の判断、別除権の目的の価額の判断、ひいては別除権の受け戻し、別除権の不足額、担保権消滅請求における担保目的物の価額などの判断において機能することになるのです。これらは、事実上の効果になります。

四 評定の時期
  評定の時期は、再生手続開始後遅滞なく、行うことになっています。裁判所は、必要があると認めるときは、評価人を選任して再生債務者の財産の評価を命ずることができる(124の3B)ことになっていますが、これは、再生債務者による適正な財産評定を間接的に担保することを目的としています。
  評価人による評価は、財産目録及び貸借対照表の閲覧が、再生計画認可または不認可の決定が確定するまで許されていること(規64@)に照らし、同時期まで可能と解するべきである、とされています。


第二節 財産目録と貸借対照表の作成と裁判所への提出及び報告書の提出
一 財産目録と貸借対照表の作成と裁判所への提出

 (1) 作成と提出義務
 再生債務者等は、財産評定を完了したときは、直ちに再生手続開始の時における財産目録及び
 貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出しなければならない(124A)ことになっています。財産目録及び貸借対照表には、その作成に関して用いた財産の評価の方法その他の会計方針を注記するものとされています(規52A)が、これは正確性を担保する趣旨です。財産目録と貸借対照表は、財産評定を完了したときに直ちに提出するものとされていますが、二で説明する民再法125@の報告書と同時に提出することが多いようです。
 ここでいう財産目録、貸借対照表とも、財産評定の結果が反映された「清算財産目録」「清算貸借対照表」になります。貸借対照表は、会社法により作成が要求される計算書類としての通常の貸借対照表とは連続性がないものとなりますが、これらの書類は、あくまでも再生手続開始時における再生債務者の清算配当率を知るために臨時に作成されるものですから、そうなるのですが、ここでの貸借対照表は、その目的のために作りますので、リース債務、保証債務や物上保証の責任限度額などの簿外債務も計上すべきであるし、担保権付き債権や相殺が見込まれる債権とそれ以外との区分、優先権のある債権とそれ以外の区分を行いつつ、貸借対照表を作成するべきであると言われていま[す(新注釈民事再生法上603ページ)。

(2) 税金の還付金
 なお、教科書には書かれていませんが、実務的には、法人税や消費税の還付金も財産目録に記載しないと正確を期し得ないと考えます。
 財産目録作成の目的が、財産評定の結果を反映させるためであり、財産評定は、清算価値を算出 するためですから、要は、債権者にとって、破産になれば、いくら配当がなされるのか、それと比べて、民事再生法の方が得と言えるのかが関心事である以上、破産になった場合の破産財団に入る金額が、財産目録に書かれないと意味はありません。
 そこで、破産になった場合の破産財団組成の現実を言いますと、その中には、結構税金の還付金があるのです。
 私が破産管財人をしたある事件では、破産会社の財産を処分し、破産財団に集まった現金が約1億5000万円、その中で法人税、消費税の還付金が4500万円もあった事例があります。
 そのような現実がありますので、民事再生法で、再生債務者が財産目録を作る場合、この税金の還付金を資産の中に加えるべきですが、現実には、財産目録の中に税金の還付金が書かれる例はないと思われます。と言いますのは、税金の還付金があるということは、粉飾決算がなされていたことが前提になるか、予定納税の還付金の場合は、事業を廃止することが前提になりますが、破産管財人の立場では、粉飾決済を見つけたり、事業を廃止して、税金の還付を受けることが出来ても、粉飾をした再生債務者が、自ら粉飾をしたと言って税金の還付を求めることや、事業を廃止して予定納税として納めた税金の還付を求めることは期待できないからです。
 この問題を財産目録にどう反映させるかは難しいと思われますが、破産になれば、このようなものも債権者への配当原資になるということだけ、注意的に書いておきます。

二 民再法125条1項に基づく報告
  再生債務者は、再生手続開始後、遅滞なく、次の事項を記載した報告書を、裁判所に提出しなければならないことになっています(125@)。

  • ア 再生手続開始に至った事情
  • イ 再生債務者の業務及び財産に関する経過及び現状
  • ウ 法人の役員の財産に対する保全処分又は役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判を必要とする事情の有無
  • エ その他再生手続に関し必要な事項
  • オ 裁判所の命ずる、再生債務者の業務及び財産の管理状況(2項)
 2項の報告書は、実務上は、毎月1回提出する「月次報告書」と言われるものです。
 なお、この報告書には、裁判所から、財産の評価の方法その他の会計方針を注記した、過去3期分の貸借対照表、損益計算書と、最終の事業年度等の終了した日の翌日から再生手続開始の日までの期間の損益計算書の添付が要求されることもあります(民再規58)。なお、この書面は、再生手続開始の申立ての際の添付書類と同じものですが、再生手続開始の申立て時のそれらが不正確である場合もあり、不正確なものは修正する必要があるので、ここでも提出が命ぜられるのだと説明されています。

 三 情報開示
 再生債務者は、裁判所が財産状況報告集会を招集しない場合(実務ではほとんど招集されていません。)は、再生債権者への情報開示として、上記報告書の要旨を記載した書面の送付、債権者説明会の開催その他の適当な措置を執らなければならない(民再規63@)ことに、また、再生計画認可等一定の時期まで、主たる営業所又は事務所において債権者が閲覧することができる状態に置く措置を執らなければならない(民再規64@)ことになっています。

 四 監督委員の報告書
 なお、監督委員も、裁判所の定めるところにより、再生債務者の業務及び財産の管理状況その他裁判所の命ずる事項を裁判所に報告しなければならない(3項)ことになっております(これを3項報告書といいます。)が、実務では少ないようです。

第五章 再生債権の確定手続


 再生債務者は、やがては、裁判所に再生計画案を提出し、債権者集会で可決してもらい、裁判所に再生計画を認可してもらって、配当をしていくことになりますが、配当の対象となる再生債権について争いがある場合は、配当額が決まりません。
 そのために、民事再生法では、再生債権は確定しないと配当を受領することができないことにし、再生債権の確定のために手続規定を用意しております。


第一節 再生債権の届出
一 届出期間の指定

 再生債権者が、権利を行使するのは、まず、裁判所への届出が必要です。
 「裁判所は、再生手続開始の決定と同時に、再生債権の届出をすべき期間及び再生債権の調査をするための期間を定めなければならない」(34@)ことになっており(これを「同時処分」と言います)、開始決定と同時処分の事実は、公告され、また、各再生債権者に通知されますので、再生債権者は、再生債権の届出は可能になります。

二 再生債権者の届出
 そして、「再生手続に参加しようとする再生債権者は、債権届出期間内に、各債権について、その内容及び原因、・・・議決権の額・・・を裁判所に届け出なければならない」(94@)ことになっていますが、記載内容は、裁判所からの通知書に書かれていますので、その指示通りに書いて裁判所へ提出することになります。

三 別除権者の届出
 「別除権者は、前項に規定する事項のほか、別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない。」(94A)ことになっています。これについては、金融機関の債権のところで詳しく解説します。
 
四 届出の効果
 届出の効果は、再生手続に参加することができる(86@)ことです。具体的には、他の再生債権についての異義権(102@)・財産状況報告集会での意見陳述権(126A)・再生計画案決議における議決権の行使(170A)・再生計画に従った弁済受領権(179)が生じ、再生債権について消滅時効が中断する効果(18民訴147)が生じます。その他にも、再生計画案の提出権(163A、)や簡易再生申立への同意権(211@)等もありますが、その他の部分については、実務上行使されることはありません。

五 届出をしない場合の効果
 逆に再生債権の届出をしない場合はどうなるかのですが、再生手続への参加ができない。また、再生債権は、原則として失権する(178)という効果が生じます。
 この失権効は、再生債権者にとってはたいへんな痛手になりますので、民事再生法では、失権の例外も認めています。

六 自認債権
 再生債権の届出期間内に届出をしなくても失権しない例外は、自認債権と言われるものです。
 再生債務者は、債権届出期間内に届出があった再生債権について、その内容及び議決権についての認否を記載した認否書を作成しなければならない(103@)のですが、再生債務者は、届出がされていない再生債権があることを知っている場合には、当該再生債権について、自認する内容その他をこの認否書に記載しなければならない。」(103B、)ことになっております。再生債務者が自認する内容を記載しなければならない債権が「自認債権」です。
 自認債権は届出がされなくとも、その「債権が確定している場合に限り」「再生計画認可の決定が確定したときは、・・・再生計画の定めに従い、変更され」「再生計画の定めによって認められた権利を行使することができる。」(179)ことになっており、届出された再生債権と同じ扱いを受けます。ただし、届出をしないと債権者集会での議決権はありませんし、他の再生債権よりは時間的に遅れて配当がなされるという不利益を受けます。失権はしないが時間的に劣後することになるのです。
 なお、再生債務者が「知っていた」意味ですが、「知っていた」とは、帳簿に記載があるなど客観的な資料で再生債務者が認識しうる状態にある再生債権をいい、失念という主観的事情で変わるものではないとされています。


第二節 認否書の作成と提出
  再生債務者は、「債権届出期間内に届出があった再生債権について、その内容及び議決権についての認否を記載した認否書を作成しなければな」(101@)りません。そのため「認否書の作成のため必要があるときは、届出再生債権者に対し、当該届出再生債権に関する証拠書類の送付を求めることができる」(規37)し、「認めない旨を認否書に記載するときは、その理由の要旨を付記することができ」ます(規38@)。認めない理由の記載は、迅速な証拠書類の提出を促し不必要な査定手続や確定訴訟を回避するためです。
  再生債務者は、一般調査期間前の裁判所の定める期限までに、認否書を裁判所に提出しなければならず(101D)、再生債務者がこれをしなかったときは、「裁判所は、監督委員・・・の申立てにより又は職権で、再生手続廃止の決定をすることができる。」(193@3号)ことになっていますので、この認否書の提出は非常に重要なことです。


第三節 債権調査
  債権調査は、再生債務者等が作成した債権認否書を対象になされます。
  届出再生債権者は、裁判所が指定した一般調査期間内に、裁判所に対し、認否書に記載された再生債権の内容若しくは議決権又は自認債権の内容について、書面で、異議を述べることができます(102@)。
 

第四節 再生債権の確定
  再生債権は、どのようにして確定するかですが、
1,異義のない再生債権
 再生債権の調査において、再生債務者からも、届出再生債権者からも異議がなかった再生債権は、そのままで、つまり、再生債権の内容と議決権の額は、確定します。
 自認債権にあっても、その内容が確定しますが、前述のとおり、自認債権は届出をしないので議決権は認められません。
 そこで、再生債務者としては、債権者集会で再生計画案に賛成してくれそうな再生債権者には再生債権の届出をしてもらう必要がある、と言えます。
 なお、あまり例はないと思いますが、届出再生債権の内容又は議決権の額のいずれかのみについて異義申述があったときは、異義申述のない一方のみが確定します。

2,異義等のある再生債権ー査定・訴訟の受継・外
 再生債権の調査において、再生債権の内容について再生債務者が認めなかったり又は届出再生債権者が異議を述べた場合には、異議等のある再生を有する再生債権者は、異議者等の全員を相手方として、裁判所に査定の申立てをすることができる(105@)ことになっております。訴訟中の再生債権の場合は、査定の申立てではなく、訴訟手続の受継の申立てによります。(107@)。

3,査定の裁判に不服のある場合ー異義の訴え
 査定の申立てについての裁判に不服がある者は、その送達を受けた日から1月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる(106@)ことになっています。最終的には、訴訟で決着する、ということになります。

4,債権者表
 裁判所書記官は、届出があった再生債権及び自認債権について、再生債権者表を作成しなければなりません(99@)。これにより、再生債権の調査・確定届出の対象を明らかにするのです。規36では「一般調査期間の開始後遅滞なく」作成するものとされ、再生債権者表には、各債権について、その内容及び原因、議決権の額並びに届出債権の額等を記載しなければならないことになっています。
 債権者表には、「再生計画認可の決定が確定したときは、・・・再生計画の条項を・・記載」され、「再生債権者表の記載は、・・・確定判決と同一の効力を有」し、「表の記載により強制執行をすることができる。」(180)ことになります。


第六章 相殺制限


第一節 相殺制度の趣旨
  相殺というのは、AがBに対し100万円の債権を有し、BがAに対し70万円の債権を有しているような、債権者と債務者がともに相手方に対して債権を有している場合で、双方の債権が弁済期にあれば、その債権がいつ発生したのかを問題にすることなく、Aからでも、Bからでも、一方的な意思表示のみで、その対当額について(同額という意味)、債務を消滅させてしまえるという制度です。上記の例では、Aからでも、Bからでも、70万円までなら、相殺によって、お互いの債権を消滅させることができるのです。相殺の意思表示をする側から見て、自己の債権は「自動債権」、相手方の債権は「受動債権」と言いますが、相殺は、自動債権が消滅時効にかかっていても出来るものです。
  また、相殺の意思表示をすると、お互いの債権は、相殺が出来るようになったとき(これを「相殺適状」になったとき、と言います)に遡って、お互いの債権、債務が消滅しますので、その後に利息が発生するものであったとしても、その利息は生じなかったことになるのです。一方は有利息、一方が無利息の場合は、無利息の方が有利になります。
  このように、相殺は、相殺適状になった時点で、お互いの債権と債務が、同額の範囲で、消滅している、という扱いが認められますので、相殺は、債権者から見れば、自分の債務分は弁済が保証されている、と言うことが出来、これを「相殺の担保的機能」と読んでいるのですが、民事再生法では、再生債務者に有利な、したがって、再生債権者に不利な、種々の相殺制限を設けております。


第二節 民事再生法上の相殺制限
 一 民事再生法での相殺の取扱
 民再法92@は、相殺できる場合を規定しています。相殺は、本来、自由になし得るのですが、民事再生法は、92@で、相殺が出来るためには、3つの要件が必要である、としております。その要件が充たされないと、相殺はできません。要は、相殺は、原則禁止ということです。しかも、です。民再法93及び民再法93の2では、さらに、民再法92@の3つの要件を充たしている場合でも、相殺が出来ない場合を定めています。二重、三重に、相殺をできなくしているのです。

 二 相殺が許される3つの要件
  民再法92@は、「再生債権者が、再生手続開始当時、再生債務者に対して債務を負担する場合において、債権及び債務の双方が・・・債権届出期間の満了前に相殺に適するようになったときは、再生債権者は、当該債権届出期間内に限り、・・・相殺をすることができる。債務が期限付であるときも、同様とする。」と定めています。  この中に、再生債権者が、相殺をするには、3つの要件が必要であると定めているのです。以下、少し細かな法律論を展開します。  1の要件は、「再生債権者が、再生手続開始当時、再生債務者に対して債務を負担する場合」です。  この要件は、自動債権(再生債権者の債権)も、受動債権(再生債権者の債務)も、再生手続開始決定時に、現実に、発生していなければならないと言うものです。そのため、次のような場合は、相殺が出来ないとされています。すなわち、3月1日に、再生債務者の車両による交通事故に遭った被害者がいたとし、被害者に後遺症が出たのが8月1日であるとします。そして、再生債務者について5月1日に再生手続開始決定がなされ、債権の届出期間の満了の日が8月31日に決まったとします。これを前提に考えますと、被害者には、再生手続開始決定時(5月1日)には、まだ後遺症が出ていないので、後遺症に基づく損害賠償請求権は生じていないことになります。ですから、その被害者が再生債務者に対し債務を負担していたとしても、相殺は出来ない、ということになるのです。このような一般の理解に対し、近時、民再法92@は、受動債権(再生債務者の債権、右の例でいえば、交通事故の被害者の再生債務者に対する債務)が存在することは要件とされているが、自動債権(右の例で言えば、再生債権者となる被害者の後遺症による損害賠償請求権)については現実化まで要求されていないので、自動債権たる再生債権は、例えば後遺症が生じたときに発生するという停止条件付債権や、弁済期未到来の債権の場合であっても良い、とする見解が説かれています(「Q&A民事再生法第2版」228pその他)。  この見解によりますと、右の例の、交通事故の被害者は、次の2と3の要件を充たせば、後遺症による損害賠償請求権をもって、再生債務者に対する債務と相殺できる、ということになります。  2の要件は、自動債権、受動債権とも、債権届出期間の満了前に相殺に適するようになっていることです。自動債権、受動債権とも、この時点では、弁済期が到来していなければなりませんので、いずれかが条件付債権であっては相殺が出来ません。先ほどの例で言えば、交通事故の被害者の後遺症発生時期が8月1日で、債権の届出期間の満了の日が8月31日ですから、自動債権(損害賠償請求権)、受動債権とも存在し、弁済期が到来していますので(交通事故による損害賠償請求権は損害発生時が履行期)、相殺ができることになります。  なお、受動債権が期限未到来であれば、つまり相殺によって消滅させたい自分の債務の弁済期が、債権届出期間満了後、例えば、1ヶ月後、というような場合は、再生債権者は、期限の利益を放棄し、早めに支払うことにすれば、相殺ができますので、受動債権は期限つきのままで相殺ができる、ことになっています(92@後段)。  一方、自動債権については、期限未到来であれば、相殺はできません。しかし、再生債務者との契約書に、再生債務者の再生手続開始の申立てを、期限の利益喪失事由とする約款等があれば、自動債権の弁済期が到来したものと扱われるますので、相殺は可能になります。企業の契約実務の中で、このような期限の喪失約款を書いておくことは重要です。
 3の要件は、相殺の意思表示は、「当該債権届出期間内に限」られます。
 再生債権者は、再生債務者に対し債務を負っていても、以上のような要件を充たさないと相殺が出来ません。民事再生法は、再建型倒産処理法であるため、相殺を広く認めると事業の維持再生が困難になるから、破産法より、再生債権者からの相殺の制限は大きいものがあります。この点でも、民事再生法は、再生債務者の保護に厚い、と言うことが出来ます。

 三 更に加えられた相殺制限ー再生債権者からの相殺制限
1, 民再法93@は、1号から4号まで、再生債権者から相殺が出来ない場合を定めています。  1号は「再生手続開始後に再生債務者に対して債務を負担したとき。」です。
  再生債権者が、再生手続開始決定後、再生債務者から商品を購入して代金支払い債務を負担した場合を想定すると分かり易いのですが、価値の劣化した再生債権をもって、その後に負担した債務と相殺できることになると、再生債権者は、皆、再生債務者から、物品を購入したり、サービスを受け、その債務を支払わず、自らの再生債権と相殺するようになるでしょうから、そうなりますと、結局の所、再生債権が全額支払われるのと同じ経済効果を生じます。これでは、民事再生法の趣旨が生かされません。このような相殺は禁止されなければならないことは言うまでもないでしょう。実は、この1号は、第二節一の、相殺の時間的な制限の箇所で説明しました、「再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して債務を負担する場合」(民再法92@)にも該当しますので、相殺ができないのですが、民再法93@は、それ以外の場合(つまり2ないし4号の場合)にまで、相殺禁止の範囲を広げているのです。
 2ないし4号は、再生手続開始決定時には、債務があった場合、したがって、民再法92@の「再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して債務を負担する場合」に該当するので、民再法92@の原則に従えば相殺できる場合であっても、再生債務者が「支払不能」(2号)であったり、「支払停止」(3号)をした後であったり、「再生手続開始の申立て」(4号)をした後である場合、つまり、再生債務者が危機的状況に陥ったときで、しかも、再生債権者がそのことを知っている場合に、再生債務者からその財産を買受けるなどして債務を負担したり、他人の再生債務者に対する債務を引受けて、債務者となり、その債務と再生債権とを相殺する、ということを禁止しているのです。
 再生手続開始決定は出ていなくとも、自己の持つ再生債権は価値が落ちていること、場合によっては、いずれ再生計画によって大幅な減額を余儀なくされること、が予測できる時点で、故意に債務を負担し、その債務と再生債権とを相殺する、ということを許せば、再生債権者の意思で、再生債権の弁済を受けるに等しく、民事再生法の趣旨に反しますので、相殺が禁じられているのです。
 
2,支払不能概念について
 ただ、民再法92@の2号再生債務者が「支払不能」(2号)であるとき、とはどういう場合か、については、ここで、説明しておきます。それは、支払不能という用語が評価概念であるため、何をもって支払不能と言えるのか、また、再生債権者が、再生債務者の何を知ったことが、支払不能を知ったことになるのか、がはっきりしないと、相殺禁止の意味がなくなってしまうからです。
 法律上の定義は、支払不能とは、「再生債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。」のですが、客観的に見て、支払能力を欠いたと評価できるときということになります。したがいまして、再生債務者がなんとか債務の弁済を続けていても、返済の見込みの立たない借入れ、商品の投げ売り等を行って資金繰りをしている場合は、支払不能である、と解されています。

 四 更に加えられた相殺制限ー再生債務者の債務者からの相殺制限
 三で説明しましたことは、再生債権者が、再生債務者との取引によって債務を負担したり、再生債務者の債務者から、その債務を引き継いで、再生債務者の債務者となって、それと自分で持っている再生債権とを相殺する場合の制限について、ですが、再生債務者の債務者が、価値の低くなった再生債権を譲受けて、再生債権者となり、自分のもつ再生債務者に対する債務と、相殺する、という場面も予想されますので、民再法93の2は、この場合も、民再法93と同じ規定を置いています。すなわち、「再生債務者に対して債務を負担する者は」「再生手続開始後に他人の再生債権を取得したとき」、再生債務者が「支払不能」「支払停止」「再生手続開始の申立て等」をし、そのことを知って、再生債権を取得したときは、相殺が出来ないと定めているのです。

 五 三や四の相殺禁止の例外
 ただ、上記の、再生手続開始決定以後の債務の負担や再生債権の取得の場合(1号の場合)ではなく、再生債務者が危機的状況になった後の債務の負担や再生債権の取得の場合(2ないし4号の場合)でも、相殺が常に禁止されると、不都合な結果が生ずる場合もありますので、民再法93A、93の2Aは、危機的状況後に債務を負担したり、再生債権を取得した場合の、相殺禁止に、一定の例外、つまり、相殺が許される場合も、認めています。  それは、再生債権者の債務の負担(但し、93@の2号から4号まで)や、再生債務者の債務者が再生債権を取得すること(93の2@の場合2号から4号まで)が、次の原因による場合は、相殺を認める、というものです。
  • ア 法定の原因による場合です。
     再生債務者が危機的状況に陥っていることを、再生債権者が知った後で債務を負担したとしても、その債務負担の原因が、相続や合併、事務管理や不当利得の場合のように、一定の事実から債務の負担が生ずるものであれば、再生債権と相殺することを目的に債務を負担するものではないから、その債務と再生債権とを相殺することを認めても問題はない、という趣旨で、この規定が設けられていますが、しかしながら、再生債権者が自己の持つ再生債権と相殺する目的で、再生債務者に対し債務を負担する会社と合併することはありうることなのだから、この規定を設けたのは、立法論として不適切であるとの、批判(条解民事再生法421ページ)がなされています。
  • イ 「支払不能」「支払の停止」「再生手続開始の申立て等」があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因
     債務の負担が、再生債務者の危機時期であったとしても、その債務の負担が、それ以前の原因で生じたものなら、再生債権と相殺することを目的に、債務を負担したものではないから、そのような場合は、相殺を認めようと言うものです。実務上、しばしば問題になるのは、銀行の預金についてです。これについては、第四節で説明します。
  • ウ 再生手続開始の申立て等があった時より1年以上前に生じた原因再生債務者が危機時期にあったとして、またそのことを知って、債務を負担した場合であっても、その債務負担が、再生手続開始の申立て等があった時より1年以上前に原因があった、というのなら、そんな昔のことまで問題にしないで、その場合は、相殺を認めようと言うものです。
   

第三節 賃料との相殺についての特則
 再生債務者が貸主、再生債権者が借主である場合の、賃貸借契約については、特別の規定があります。

  1,民再法92Aは、借主(再生債権者)が再生手続開始当時、貸主(再生債務者)に対し、敷金とは別に再生債権を有しているときは、再生手続開始後に支払い義務が生ずる賃料債務の6月分に相当する額まで、前項の債権届出期間内に限り、相殺をすることができる、と定めています。この賃料債務は、債権届出期間満了後に生ずるものでもかまいません。
  この規定を設けた趣旨は、もし、これまで説明してきた相殺についての法の扱いを、賃貸借契約における貸主と借主の間でも、そのまま適用しますと、借主は、敷金返還請求権以外の再生債権を有している場合、その債権を自動債権とし、再生手続開始決定時に存在する賃料債務(すでに発生している債務は無論のこと、期限付き債務についても)を受動債権として相殺できることになります。そうなれば、再生債務者である貸主は賃料収入が得られなくなり、再生の妨げになります。そこで、再生債権者(借主)からの相殺に制限を設けたものです。

  2,民再法92Bは、借主が、貸主につき再生手続開始決定がなされた後も、賃料については相殺をしないで支払い続けた場合、敷金返還請求権は、再生手続開始の時における賃料の6月分に相当する額を限度として、共益債権とする、と定めています。ただし、1で、相殺された賃料がある場合は、その分は除かれます。
  この規定の趣旨は、借主には敷金返還請求権があるのに、その権利が発生するのは賃貸借契約の終了時になるので、貸主につき再生手続開始決定がなされたからと言って、家賃と相殺できるわけではありません。その場合、借主は、敷金は再生債権でしかないのに、賃料は支払い続けなければならないことに抵抗があるはずです。そのため、借主は敷金返還請求権を発生させ、それと未払家賃を相殺するため、賃貸借契約を解約して、家賃を支払わず、居座るかもしれません。そうなりますと、不動産収入をあてにしているような再生債務者の場合は、再生が困難になってしまいます。そこで、本来なら再生債権でしかない敷金返還請求権を賃料6ヶ月分の限度で共益債権として認め、敷金の保護を図ったものですが、民事再生法は、1の制度と2の制度をそれぞれ利用することは認めず、1によって相殺された賃料がある場合は、その金額だけ2の共益債権とする金額を少なくしています。


第四節 銀行預金との相殺
  民再法92@の2ないし4号の相殺禁止の規定は、しばしば、銀行などの金融機関が、再生債務者に対し、貸金債権や手形の買戻請求権を持っているときに、再生債務者の銀行預金口座に第三者から振込がなされた場合、その預金債務と相殺が出来るかという形で、問題になります。
  再生債務者が、支払不能に陥った後や、不渡り手形を出すなどの支払停止があったあと、あるいは、再生手続開始の申立て等をしたあとで、しかも、銀行がその事実を知った後で、預金口座への振込がなされたとき、のことです。

  前述しましたように、再生債権者が、再生債務者が危機的状況に陥ったことを知った後で、再生債務者から物を買うなどして債務を負担し、それと、著しく価値が落ちた再生債権とを対当額で相殺することはできない、のですが、銀行預金は、銀行が相殺を目的に負担した債務ではないので、銀行が、自己の持つ債権と預金債務との相殺を認めてもよさそうですが、一般的には、この場合も、銀行からする預金との相殺は認められていません。理由は、再生債権者である銀行にとって、第三者がする再生債権者の預金口座への振込は、初めから、相殺の期待を持たない振込であるからだとされています。
  ただし、第三者がする振込が、再生債務者と銀行との間の、代理受領や振込指定の約束があるため、再生債務者が第三者に頼んでしてもらっているような場合は、その約束が、再生債務者が危機的状況に陥る前であれば、銀行は、自己の債権と預金を相殺することが出来る、と解されています。いわゆる「強い振込指定」と言われる問題です。「強い振込指定」による預金債務については、再生債務者が危機的状況にあって、銀行がそれを知っていても、相殺が出来る、法的根拠は何か、と言いますと、「強い振込指定」の約束が、民再法92Aの、相殺が許される、3つの場合の2番目の、「支払不能」「支払の停止」「再生手続開始の申立て等」があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因に該当するからです。


第五節 再生債務者からする相殺も制限される
  第一節から第四節までに説明したことは、すべて再生債権者からの相殺制限に関することです。再生債務者の持つ再生債権者に対する債権は全額回収させ、再生債権者の持つ再生債務者に対する債権は、再生計画にしたがって弁済すれば良い、というものですが、では、再生債務者からは事由に相殺できるのかと言いますと、これを許せば、再生債務者が再生債権を弁済することができるに等しく、これまで述べてきた相殺制限の趣旨が生かされません。しかしながら、再生債務者からの相殺を全面的に禁止するのではなく、相手方が無資力の場合もありますので、再生債務者からする相殺が、「再生債権者の一般の利益に適合するときは、裁判所の許可を得て、その相殺をすることができる。」(民再法85の2)になっています。



第七章 契約を解除するか、履行を請求するか、を選択する権利


一 権利の内容
 再生債務者は、「再生債務者及びその相手方が・・・共にまだその履行を完了していないとき」の、双務契約について「解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」権利を有しています(民再法49@A)。つまり、再生債務者は、再生手続開始決定後は、「双方未履行の双務契約」が、自己に不利益な契約、利益の出ていない契約、と考えれば、何の制約もなく、違約金を支払うこともなく、解除でき、また、その契約を継続する方が有利だと考えれば、その履行を請求することを選択する権利を有しているのです。対象となる契約は、債権者、債務者ともが債務を   負担する契約で、例えば、建築途中の建築請負契約、代金と売買物件の引渡が終わっていない売買契約、リース料を支払っているリース契約、ロイヤリティを支払っているFC契約、ゴルフ場会社と会員と の会員契約等があり、非常の多くの契約が対象になっています。

二 例外の1−デリバティブ取引と一括清算ネッキング条項の有効性について
 再生手続開始決定がなされると、再生債務者において、双方未履行の双務契約については、解除をするか契約の継続により相手方に履行を請求するかを選択できるのですが、これには例外があります。その1がデリバティブ取引についてです。
  • 1,デリバティブ(derivative)は、「誘導的な」「派生した」という意味です。デリバティブ取引とは伝統的な金融取引(借入、預金、債券売買、外国為替、株式売買等)から派生した、相場変動によるリスクを回避するために開発された金融商品の総称で、日本語では金融派生商品と言います。
  • 2,デリバティブ取引の特徴として、(1) 少額の資金で、多額の原資産を売買した場合と同じ経済効果が得られる、レバレッジ効果を持つ(このことは逆に多額の損失を受けるリスクになる。英国のベアリング社の例)。(2) 将来の取引を現時点で確定するので、リスクヘッジ効果を持つ、と言われています。
  • 3,デリバティブ取引には、先物取引、オプション取引、スワップ(交換)取引などがありますが、先物取引とは、将来の定められた時点で、特定の商品(有価証券、長期国債、通貨、穀物などの農産物・石油などの鉱物等で、原資産という。)あるいは経済指標(為替レートや日経平均株価 = 日経225など)を、定められた数量、定められた価格で、売買することを約する取引です。この取引(取引を始めるときは、建玉するといいます。)は現物の授受で決済されることは少なく、多くの場合、期日までに反対売買を行い、買値より値上がりしている場合は差額を受け取り、値下がりしている場合は差額を支払うことで決済(反対売買で取引を解消するときは、手仕舞う、といいます。)される差金決済をしています。
  • 4,オプション取引とは、ある原資産について、あらかじめ決められた将来の一定の日または期間内に、一定のレートまたは価格(行使レート、行使価格)で取引する権利を売買する取引です。原資産を買う権利についてのオプションをコール、売る権利についてのオプションをプットと呼ばれています。オプションの買い手が売り手に支払うオプションの取得対価はプレミアムと呼ばれます。
  • 5,スワップ取引とは、あらかじめ決められた条件に基づいて、将来の一定期間にわたり、キャッシュフローを交換する取引です。金利を交換するスワップは、同一通貨のキャッシュフローを交換する取引で、固定金利と変動金利を交換する取引が代表的なものです。
  • 6,このようなデリバティブ取引には、通常、一方当事者が再生手続開始等一定の信用悪化事由が発生したとき、通貨や履行期の違いにかかわらず、当該取引上の一切の債権債務を差引計算して本の債権または債務にする旨の条項(「一括清算ネッティング条項」)が付けられていますが、我国では1998年に制定された「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」で、同法上の特定金融取引の一括清算の有効性を認められていますが、外国の金融機関とのデリバティブ取引は対象となっていません。
  • 7,しかし、このようなものでも、民再法51で準用されている、破58は、「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約であって、その取引の性質上特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができないものについて、その時期が破産手続開始後に到来すべきときは、当該契約は、解除されたものとみなす。」と定めており、結果的に、すべてのデリバティブ取引について一括清算条項の有効性が認められているのです。
     これは、民再法49で定められた、双務契約の一般原則の排除を意味し、再生手続開始決定により、デリバティブ取引は解除されたものとされるのです。
  • 8,デリバティブ取引解除の規定は、また、解除に伴う損害賠償の額の算定については、再生手続上も、ネッティング条項に従ってなされることが認められた、とされています。また、この規定は、再生手続開始時点での差額を賠償額とする点で、支払停止後の相殺を禁止する規定の例外となっている、とも言われています。
三 例外の2,労働契約への不適用
    民再法49Bは、労働者保護の観点から、再生債務者によって一方的に労働契約が解除できないように、再生債務者に、労働契約を解除するか履行を請求するかを選択する権利を否定しています。

四 約定解除権の有効性
ー特約があれば、相手方(再生債権者)に約定解除権は認められるか?
 相手方(再生債権者)には、双方未履行の双務契約の解除権は認められていませんが、再生債務者と相手方との間の双務契約に、倒産解除条項(約定解除権)の定めがある場合は、どうでしょうか?
 すなわち、双方未履行の双務契約の契約条項中、一方当事者が破産・再生・更生等の手続開始の申立をしたとき、相手方当事者はその契約を解除しうるとする約束がある場合です。
実務上、継続的商品売買契約、賃貸借契約、動産の所有権留保売買、ファイナンスリース契約等にこのような約定が多く付せられています。最高裁昭和57.3.30(民集36-3-484)は、会社更生法に関し、このような特約は無効であるとしています。民事再生法でも、再生債務者の、法が認めた、相手方に対する履行の請求の選択権を奪うことになり、無効となる、との見解が一般的ですが、倒産解除条項を担保権と位置づけて有効だとする見解もあります。
 しかし、この点に関しては、東京高等裁判所平成19年3月14日判決は、リース契約でユーザーにつき民事再生手続開始申立てがあったときはリース会社から契約を解除することができると定めた解除特約は担保権として有効とする見解に対し、民事再生法は,担保権の実行手続については、中止命令の制度(民再法31)や担保権消滅許可の制度(民再法148)を設け,事業に必要な物件等については,担保権の行使についてもこれを制約することを認めているが、リース契約においては、担保権の実行手続がリース会社からするリース契約解除の意思表示により終了するものであること、民再法31Aは、裁判所は,中止の命令を発する場合には,事前にリース会社の意見を聴かなければならないことになっていること、そのため、裁判所が中止命令を発令するため、リース会社の意見を聴こうとすれば、リース会社はその段階で民事再生手続開始の申立てがされたことを知り担保権を実行してしまえること、を理由に、約定解除権を担保権として有効とすれば、中止命令の制度や担保権消滅許可の制度が事実上ないに等しいので、前記解除特約は、担保権として有効であるとすることはできず、民事再生民事再生法の趣旨、目的に反し無効である、と判示しております。
 目次 次へ

ナビゲーション

専門家Webガイド マイベストプロ岡山

無料法律相談のお知らせ

    

事務所のご案内

【所在地】
〒700ー0807
岡山県岡山市北区南方1丁目8番14号

【業務時間】
平日 9:00〜18:00
土曜 9:00〜12:00
TEL 086-231-3535
FAX 086-225-8787


アクセスマップはこちら

携帯サイト

http://www.kikuchi-law.jp/m/
バーコードリーダーの機能を搭載している携帯電話で、QRコードを読み取り携帯サイトへアクセスしてください。
http://www.kikuchi-law.jp/m/