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使用者のための労働問題

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<使用者のための労働問題



1 うつ病等の従業員の対応

従業員に、うつ病等の精神疾患が生じた場合の使用者の対応
一 従業員の中から、うつ病などの精神疾患に罹患した者が出た場合、それが業務によるものかどうかを考える必要があります。
 業務による場合は労災保険の適用が受けられ、当該労働者の生活の保障につながります。労災にならない場合は、私傷病ということになり、就業規則に基づいて処置することになります。

二 労災になる場合
1,うつ病等の精神疾患や自殺が労災と認定される件数
 平成19年度の精神障害等の労災補償状況(厚労省の資料より)は次のとおりです。
(1)請求件数は952件(うち自殺−未遂を含む−は164人)であり、前年度に比べ133件(16.2%)増加。
(2)支給決定件数は268件であり、前年度に比べ63件(30.7%)増加。
(3)業種別では請求件数、支給決定件数ともに「製造業」が最も多い。
(4)職種別では請求件数、支給決定件数ともに「専門的・技術的職業従事者」が最も多い。
(5)年齢別では請求件数、支給決定件数ともに30〜39歳が最も多い。

2,労災と認定される場合
 業務による心理的負荷が社会通念上客観的に見て精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合(東京地方裁判所平成20年4月22日判決外)等、次の3の要件を満たす場合です。

3,うつ病が労災によるものと認められる要件
【労災認定の判断要件】
 労働省(現在厚生労働省)平成11年9月14日発表の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に基づき、次の要件のいずれをも満たす精神障害は、業務上の疾病として取り扱われます。
 @ 対象疾病に該当する精神障害を発病していること。
 A 対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、客観的に該当精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。
 B 業務以外の心理的負荷や個体側要因(精神障害やアルコール依存症の既往症等)により当該精神障害を発病したと認められないこと。 なお、Aの「業務による強い心理的負荷」の程度は「職場における心理的負荷評価表(別紙資料)記載の31のチェック項目についてストレスの強度を3段階で評価されます。 また、最終的な業務起因性は、労働基準監督署が複数の医者のチームによる意見を参考にして判断がなされることになっています。

4,労災と認定された場合で、使用者の安全配慮義務違反が問われる場合
 もともと使用者には、「雇用契約上の付随義務として、信義則に基づき労働者の生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務」(最高裁昭和50年2月25日判決)や「過労自殺するおそれのある労働者に対し、労働者を過労自殺させないための過労自殺防止義務」(最高裁平成12年3月24日判決)を負っており、うつ病の発症についても、「被告が労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」(東京地裁平成20年4月22日判決)があり、その義務に違反した場合は、損害賠償義務を負うことになっています。

5,安全配慮義務違反肯定例と否定例の具体例
 使用者には、@従業員のうつ病等の精神疾患の発症又は自殺という結果が予見できた場合にその予見義務があり、Aその結果を回避できた場合にその結果を回避する義務があるのですが、そのいずれの義務にも違反し、うつ病等精神疾患の罹患又は自殺という結果を発生させたとき、安全配慮義務(予見義務及び結果回避義務)違反になり、そのうつ病等精神疾患又は自殺と業務との間に因果関係が認められますと、損害賠償義務が課されます。

【具体例】
(1)肯定例
  • ア 車両設計部課長のうつ病による自殺事件(静岡地裁浜松支部平成18年10月30日判決)
    【事件の背景】
     本人は真面目、几帳面、明朗、積極的で仕事好き。精神疾患等の既往症はない。自殺の前3ヶ月間の超過勤務時間は月平均100時間を超えた。
     自殺の17日前に自分に課せられたコストダウンの目標が達成されていないことを知る。その頃か ら本人は考え事をし、口数が減り、活気が無くなり部下とのコミュニケーションが上手くとれなくなった。上司はこれらのことに気づいていた。死亡の6日前には上司に意味不明な発言をした。死亡4日 前シートベルトの試験中シートベルトが切断したが、本人はこれを自分がしたコストダウンが原因ではないかと心配していた。その4日後飛び降り自殺をした。
    【法的評価】
      会社は、遅くとも自殺6日前の意味不明発言でうつ病の罹患を予見すべきであり、その時点で業 務を減らす等の措置をとれば結果が回避できた。因果関係も認められる。損害合計は9505万円と 弁護士費用520万円の合計で1億円を超えた(労災受給額は1358万円)。
  • イ レストラン店長のうつ病による自殺事件(京都地方裁判所平成17年3月25日判決)自殺前1年間の1日平均労働時間は12時間、休日は月2日程度、店長として過重な業務、店の 売上げ減少により回復を強く求められたが達成できず、意に反する異動の内示を受け、社長の説得を 受けていた。因果関係、安全配慮義務違反ともに肯定。損害賠償額8032万円と弁護士費用590万円(労災保険控除後)。
(2)否定例
  • ア 24才の新人SEのうつ病による自殺事件(東京地方裁判所八王子支部平成18年10月30日判決)
    【事件の背景】
     積極的で快活な性格、正義感や責任感が強く、真面目で几帳面、精神疾患の既往症はなく、ア ルコールや薬物への依存傾向もない。入社半年後に自殺、勤務は週3日ほどは午後9時頃まで、 超過勤務時間が最大月30時間、会社内で嘔吐をする等うつ病の身体的症状を現わしたが、他方 で競馬観戦旅行をし、飲食もしている。体調が悪化した自殺直前頃は上司が2度連続休暇を与え、検査と休養を指示している。辞職の意向を示した頃部長が自宅を訪問し相談に乗っている。

    【法的評価】
     業務の過重性はない。安全配慮義務(予見義務)違反はない。
  • イ うつ病の既往症のある電気工事設備業のうつ病による自殺事件(名古屋地方裁判所平成18年1月18日判決)重傷のうつ病に罹患しその後職場復帰した後うつ病により自殺した事案。会社は、本人に難易度の低い業務で対人折衝をさせない等の配慮をした、業務も過重ではない。安全配慮義務違反はない。

6,過失相殺による減額
 損害賠償請求が認められる場合でも、当該従業員の過失も考慮され、過失相殺がなされる場合があります。(上記肯定例2例は過失相殺無し)
 自殺は過剰なノルマ達成の強要や執拗な叱責・・・上司による叱責等は本人の不正経理に端を発することや上司に隠匿していた不正経理がうつ病の発症に影響を及ぼしたと推認できること・・・6割の過失相殺、過失相殺後で3124万円の損害賠償(松山地方裁判所平成20年7月1日判決)等

7,労災と認定された場合は、解雇が出来ない。
 うつ病に限らず、従業員が雇用契約期間中に心神の障害を訴え休職した場合、就業規則に基づき 解雇した後、その従業員の心神の障害が労災によるものであると認定されたときは、遡って解雇が無効になります。

【労働基準法19条1項】
 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間・・・は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

【労働基準法81条】
 第75条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
 以上の規定がありますが、打切り補償については、労災保険法19条により、事実上免除されています。

【労災保険法19条】
 業務上負傷し、又は疾病にかかつた労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなつた場合には、労働基準法第19条第1項の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなつた日において、同法第81条の規定により打切補償を支払つたものとみなす。

8,労災によるものでない場合は、就業規則によって処置することが可能で、就労不可能の場合は、最終的には、解雇は可能です。
 その従業員のうつ病と業務との因果関係を認めず、当該従業員は業務上の指示に誠実な態度で対応しておらず協調性を欠く態度をとっていた等として、会社の就業規則にある解雇事由「出勤常ならず勤務に不適と認められるとき」「心身に故障があるか、又は虚弱であって、業務に堪えられないと認めたとき」等の規定により、解雇は有効(東京地方裁判所平成19年6月8日判決)との裁判例があります。

三 私傷病の場合ー普通解雇に至るまで
1,解雇猶予制度(欠勤、休職)を設ける
 私傷病の場合に就業規則の普通解雇事由に該当するからといって、直ちに解雇するのは、労働契 約法16条違反になり無効とされる恐れが大です。
 一般に、私傷病を原因とする就労の不能や困難が生じた場合、就業規則等で、まずは一定期間の 「欠勤」を認め、欠勤が長期化する場合は「休職」を認め、休職期間中に治癒しない場合に自然(自動) 退職又は解雇にできる規定を置くことが要求されます。これらの欠勤、休職制度は解雇猶予制度と言われています。
【労働契約法16条】
 使用者は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、労働者を解雇できない。

2,休職命令の発令要件
 「休職」は法律上の概念ではなく(労働基準法26条の「休業」とは重なる部分もありますが別の概念です)、おおむね、ある従業員について、労務に従属させることが不能又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除すること又は禁止すること、と定義されています。
一般に、就業規則では、労働者が私傷病のために就労不能や就労不適当に陥ったとき、使用者は 労働者に対し休職を命ずることが出来る旨の規定が置かれていますが、その就労不能や就労不適当の「就労」は必ずしもそれまでの就労を意味するとは限りません。
「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業 の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当であり、そ の従業員に対する自宅治療(休職)命令は無効(最高裁平成10年4月9日判決)とした判例があります。
 
3,治癒の意味
 また、休業した労働者が治癒したとして復職を求めた場合の「治癒」の意味も、必ずしも従前の就業につけるほどの治癒をいうとは限りません。
「休職期間満了時に休職者の原職復帰が認められるためには、原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要するが、休職者の職種に限定がなく、他の軽易な職務には従事することができ、当該軽易業務に配置転換することが現実的に可能であったり、当初は軽易な職務に就かせれば、ほどなく従前の職務を通常に行うことができる場合には、復職を認めるのが相当(東京 地方裁判所平成16年3月26日判決)という裁判例があります。
要は、労働者の解雇や退職を可能な限り回避するのが法の趣旨ということです。

4,即戦力を期待して中途採用した従業員の場合は別
 ただし、即戦力を買われて中途採用した従業員の場合で、即戦力にならないことがわかったときは、別です。
東京地方裁判所平成14年10月22日判決は、上級管理職などの即戦力として中途採用されたケ ースでは、会社が最初から教育を施して必要な能力を身につけさせるとか、適性がない場合に受付や 雑用など全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではなく、労働者が雇用時に予定された能力を全く有していない場合の解雇は有効としています。

5,休職命令拒否・賃金支払請求を避けるための措置
 多くの場合、私傷病休職は無給であり(ただし健康保険から最大1年半の傷病手当等の給付はあり ますが)、勤続年数にも算入されないところから、休職の必要・休職原因の存否が争われる場合があ ります。その争いを避けるため、多くの企業は、就業規則の中で、休職、復職の両時点で「会社の指定 する専門医の診断を受け、その証明を要する」旨の規定を置いていますが、そのような規定があり、従 業員にそのような診断を求める合理的な理由がある限り、従業員には診断を受ける義務があるというのが判例(最高裁昭和61年3月13日判決)です。

降格・降級

降格・降級は許されるか。
1,降格処分は人事権の行使として許される
 ただし、行き過ぎ(裁量権の濫用又は逸脱)は違法
 成績不良な従業員を降格させることは、人事権の行使として、原則として有効です。降格によって役職手当がなくなってもです。
東京地方裁判所平成2年4月27日決定は、営業成績の悪い営業所長を他の営業所の所長代理に降格した結果、営業所長としての職務手当月額4万円が減額になり、さらに管理職手当月額6万円が減額になったケースで、降格は正当な人事権の行使であり有効であるとしています。
 ただ、人事権の行使にも自ずと裁量の範囲というものがあり、その範囲を超えるときは裁量権の濫用として無効になる場合があります。
大阪地方裁判所平成11年9月20日判決は、55歳役職定年制により部長職から部長待遇職に移行した百貨店従業員に対する、勤務成績不良を理由とする課長待遇職への降格が、それにより給与が月5万円程度減額される上、待遇職は管理職ではないため人事上の裁量の幅は狭くなること、降格が短期間のうちになされたこと等を理由に、人事権の裁量の範囲を逸脱したものとして不法行為を構成するとして、損害賠償の請求を認容しています。

2,懲戒処分としての降格もある
 降格が就業規則の懲戒規定に基づきなされる場合も、1と同様、原則有効、懲戒権の濫用や逸脱がある場合は無効になります。
大阪地方裁判所平成16年1月23日判決は、飲食店経営会社のマネージャー職にあった者が、18歳未満のアルバイトを夜0時まで働かせる等法令や社内ルールにつき指導を受けながらその改善が認められなかったため、就業規則の「会社が要求する職務遂行が行われない場合に降格することがある」旨の規定により降格させられた件で、降格は当然有効だと判示しています。

3,懲戒事由があるが、就業規則の中に懲戒処分としての降格の定めがない場合は、人事上の措置としての降格が可能
 東京地方裁判所平成13年8月31日判決(アメリカン・スクール事件)は、施設管理部長が、出入り業者から仕事発注の見返りに長期に渡り多額の謝礼を受け取っていたことは、就業規則に違反する行為であって、施設管理部長という自らの地位を利用して私利を図り、リベート分の代金上乗せ分の損害を被告に与えるのみならず、被告の業務の適正な管理遂行を害する行為であるから、原告の管理職としての不適格性が明らかで、被告が原告の施設管理部長の職を解くことに十分な理由がある等として、降格処分を有効としました。この件は、就業規則の定める懲戒処分の内容に降格が含まれていなかったため、懲戒処分としての降格を行うことはできず、人事権の行使として降格処分をした事案です。

4,配転と減給
 たんなる配転だけでは、減給はできません。
 東京地方裁判所平成9年1月24日決定は、一般に、労働者の賃金額は、当初の労働契約及びその後の昇給の合意等の契約の拘束力によって、使用者・債務者とも相互に拘束されるのであるから、労働者の同意がある場合、懲戒処分として減給処分がなされる場合その他特段の事情がない限り、使用者において一方的に賃金額を減額することは許されない。従業員が業務成績不良であるため、当初の契約内容とは異なる職種への配転を命じ、この配転に伴って配転後の職種の他の従業員と同等の賃金額に減額したものであっても、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連しておらず、労働者が使用者からの配転命令に従わなくてはならないということが直ちに賃金減額処分に服しなければならないということを意味するものではない。使用者は、より低額な賃金が相当であるような職種への配転を命じた場合であっても、特段の事情のない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているのである、と判示しています。


降格・配転に関して

2012.3.30 記 村山晃康
第1 降格
1 降格とは,職位や役職を引き下げること(昇進の反対措置)又は,職能資格制度上の資格や職務等級上の等級を低下させること(昇格の反対措置)をいいます。
また,降格をするには,@ 懲戒処分としての降格をする場合と,A 業務命令としての降格(人事異動の措置)をする場合の二通りの方法があります。
2 @ 懲戒処分としての降格 懲戒処分としての降格をする場合には,懲戒処分の有効要件を満たしていることが必要となります。 懲戒処分の有効要件としては,@)懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていること,A)労働者の問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当することが客観的に合理的と認められる場合であること,B)当該行為の性質・態様その他の事情に照らし社会通念上相当を欠く場合でないこと(処分内容の相当性),C)手続的な相当性を欠く場合でないこと(例えば,本人に弁明の機会を与える等)の各要件を満たしていることが必要と解されています。 会社のヤミカルテルなどについて内部告発に及んだ労働者に対する報復措置として,昇格の停止・隔離措置・雑務指示をしたことが違法とした裁判例(トナミ運輸事件−富山地判平成17年2月23日)や,懲戒事由の発生から7年以上経過してからの論旨退職処分につき,懲戒権の行使が適切な時間範囲の外で行われたとして権利濫用とした判例があります(ネスレ日本事件−最判平成18年10月6日)。 なお,懲戒事由が存するものの,就業規則中に懲戒処分としての降格の定めがない場合であっても(上記@の要件を欠く場合),業務命令としての降格をすることは可能とされています。この点について,アメリカン・スクール事件−東京地判平成13年8月31日は,就業規則中,懲戒処分の手続や人事権による降格処分手続については特に規定はない事案において,施設管理部長であった原告を降格させたことにつき,当該降格処分を有効としています。
3 A 業務命令としての降格
(1)役職・職位の降格(昇進の裏返し措置)
ア 一定の役職を解く降格については,裁判例は,就業規則に根拠規定がなくとも,人事権の行使として裁量的判断で可能と解しています(前掲アメリカン・スクール事件,ハイ・クリップス事件−大阪地判平成20年3月7日)。
もっとも,成績不良や職務適正の欠如などの業務上の理由によって裁量的に役職・職位の降格が認められるとしても,それが,権利濫用にあたる場合には無効となります(バンクオブ・アメリカ・イリノイ事件−東京地判平成7年12月4日)。
比較的最近の裁判例としては,東京都自動車整備振興会事件−東京高判平成21年11月4日は,不適切な窓口対応の報復を理由とする係長への降格が争われた事件であり,使用者側の業務上・組織上の必要性の有無・程度,労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適正を有するか否か,労働者がそれにより被る不利益の性質・程度を総合判断して降格の適否を決定すべきとして,降格を無効とした1審判決(東京地判平成21年1月19日)を取り消しています。 一方,三井丸紅液化ガス事件−東京地判平成21年3月27日は,新人事制度で不当に降格され賃金が引き下げられたとして争われた事件であり,過去15年の評価に照らすと,原告は自己中心的で,周囲への配慮を欠く面があり,管理職としての適性を十分有しておらず,かつ,会社の役割変更基準を満たしておらず,事務処理速度も遅かったことから,原告をシニアスタッフからスタッフへ格付けしたことは人事権の濫用に該当しないと判示しています。 このように,降格の有効・無効を判断するに当たっては,個別具体的な事案における総合的判断となりますので,使用者の一方的・恣意的な降格では無効になると考えるべきです。
イ また,降格に伴う賃金の減額や職務内容の処遇については,格別に判断されることになりますので注意が必要です。 例えば,課長から係長に降格されたことにより役職手当分の賃金が減少したとしても,それは課長という職に就いているがゆえに支給される手当であり,降格とともに責任も軽くなる以上は,やむを得ないものと考えられる場合があります。エクイタブル生命保険事件−東京地決平成2年4月27日は,営業成績の悪い営業所長を他の営業所の所長代理に降格させた結果,営業所長としての職務手当月額4万円及び管理職務手当月額6万円が減額になった事案において,当該降格は有効で有り,給与規定に違反しないとしています。 しかしながら,裁判例の中には,勤務態度不良を理由として3等級(月額34万4000円)から6等級(月額27万8673円)に降格したことには,合理的理由がなく本人の同意もないとして無効としたもの(トップ(カレーハウスココ壱番屋)事件−大阪地裁平成19年1月25日)や,複数回の降格・減給処分が代表取締役に反発する原告に対する意図的な対抗措置としてなされたものと推認できるとして,すべての降格・減給処分を無効としたもの(ハネウェル・ターボチャージング・システムズ・ジャパン事件−東京高判平成17年1月19日)もあります。 管理職としてのマネージャー職から店長への降格処分がなされた,日本レストランシステム事件−大阪高判平成17年1月25日は,結論的には当該降格処分を有効としていますが,本件降格処分は減給を伴うものであり,懲戒処分同様の不利益を労働者に与えるものであるから,就業規則の要件を充足する限りにおいて降格をなし得ると判示しています。 労働契約の主たる内容の賃金を,しかも相当額減少させる結果を伴う場合には,それ相応の合理的必要性が求めれるということです。
(2)職能資格の引下げ措置としての降格
 職務資格を引下げる降格は,基本給の変更をもたらす労働契約上の地位の変更となります。そのため,当該労働者の同意又は就業規則の合理的規定などの契約上の根拠が必要とされています(アーク証券事件−東京地判平成12年1月31日)。もっとも,降格規定を就業規則に定め法的な根拠に基づく場合であっても権利濫用となることもあります(マナック事件−広島高判平成13年5月23日)し,基本給切り下げもありうる職務等級制度を採用している場合であっても,降級には合理的で具体的な理由が必要とされています(エーシーニールセン・コーポレーション事件−東京高判平成16年11月11日)。
(3)降格後の職務内容について 降格後の職務内容については,労働者の人格的権利に配慮する必要があります。 相生市農協事件−神戸地判姫路支判平成20年11月27日は,農協参事から平職員に降格後に,窓ふき,掃除,農作業務を命じられたことが,労働者に「屈辱感」を与え退職を余儀なくさせる意図が推認されるとして,職務命令権の濫用として違法と判示しています。

第2 配転
1(1) 配転とは,従業員の配置の変更であって,職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいいます。 使用者の配転命令について,東亜ペイント事件−最判昭和61年7月14日は,@)配転命令権が労働協約や就業規則の定めなどによって労働契約上根拠づけられていること,A)当該配転命令が権利濫用にあたる場合でないことが必要と解しています。 そして,権利濫用か否かについては,@ 業務上の必要性が存しない場合,A 不当な動機・目的をもってなされた場合,B 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合などの,特段の事情がある場合には権利の濫用になると判断しています。
 (2) @ 業務上の必要性については,上記東亜ペイント判例は,「余人をもっては容易に替えがたいといった高度の必要性に限定することは相当ではな」いとして,労働者の適正配置や業務運営上の円滑化といった事情で足りると解されています。なお,NTT西日本事件−大阪高判平成21年1月15日は,個々の事情に基づく定期人事異動のような配転と大量リストラ型の配転の場合とを区別して,後者における業務の必要性をより広く肯定しているものと解されています。 また,A 不当な動機・目的としては,退職へ追いやる意図でなされた配転命令の場合(フジシール事件−大阪地判平成12年8月28日,精電舎電子工業事件−東京地判平成18年7月14日)や,会社批判の中心人物に対する転勤命令の場合(朝日火災海上保険事件−東京地決平成4年6月23日)などが,これにあたるとされています。 さらに,B の著しい不利益としては,要介護の老親を抱えた従業員への遠隔地転勤の場合(ネスレ日本事件−東京高判平成18年4月14日)などがこれに当たると解されています。
2 賃金引下げを伴う配転
 長期雇用システム下の賃金は,職種・勤務地よりも,勤続年数,職能資格,職位によって主として定められ,賃金表が異なる職種間では配置転換は原則として行わないのが普通であったため,賃金がより低い職種へ配置転換することはなしえず,労働者の個別同意が原則として必要と考えられています。この点について,デイエファイ西友事件−平成9年1月24日はより低額な賃金が相当であるような職種への配点を命じた場合であっても,特段の事情のない限り,賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているとして,配点命令は賃金減額の法的根拠にはならないと判示しています。
 また,配転命令と降格が同時に行われ,降格によって賃金が引き下げられる場合には,配転命令の各要件のほか,降格の各有効要件をも満たすことが必要とされています。両者の要件を満たさない場合には,いずれもが無効になると解されています(日本ガイダント仙台営業所事件−仙台地判平成14年11月14日)。

第3 まとめ
 以上からすると,懲戒処分に基づく降格,人事権の行使としての降格,配転,若しくは配転に伴う降格のいずれであろうとも,使用者の恣意的な懲戒権・人事権の行使は権利濫用として制限されるのが判例・裁判例の傾向です。特に,人事権に基づく降格の場合には,人事権の裁量の範囲内だと安易に判断することには大きな危険があり,客観的・合理的理由のもと冷静に人事権を行使することが肝要と思われます。

3 新労働審判制度

新労働審判制度
 2006年4月1日に新しい労働審判制度がスタートしましたが、施行後1年間の成績を報告します。

1,高い解決率と迅速な解決
 労働審判の申立件数は月平均約100件、年間1200件(全国)ですが、平均審理期間は72.9日で、調停成立率は70.5%ですが、申立の取下げが8.3%ありますので、実質的には、申立のあった労使紛争の約8割が話し合いで解決していることになります。

2,取り扱われる事件の内容
 労働者としての地位確認が47%、賃金の支払が19%、退職金10%、セクハラ等による損害賠償10%、解雇予告手当2%、配転無効2%、残業代6%ですが、その他にも、有給休暇の繰り越し確認、自宅待機命令の解消、等があります。労働審判法第1条では、労働者個人と会社との労働関係に関する民事の紛争となっていますが、労使紛争とは言えないような問題、例えば、従業員持株会を通じて取得した株式の清算問題等も扱われ、結構窓口が広く開いているようです。
 しかしながら、労働審判法は原則として3回の期日(特別の事情があるとき第4回期日)までに解決をする制度になっていますので、争点が複雑である事件、膨大かつ緻密な立証を要求される事件(例えば、整理解雇事件、就業規則の不利益変更、労災事故に関する紛争)には適しません。これらの事件は、法24条で、終了させられることになります。

3,審理の進め方
(1) 申立人から、地方裁判所へ、申立書と証拠書類を提出します。
 多くは弁護士を代理人として申立てられています。
 なお、東京地裁では、施行後1年間の申立件数は345件、そのうち302件につき申立人代理人として弁護士が選任されています。43件は本人申立です。代理人は弁護士以外でも裁判所の許可があれば選任可能ですが、東京地裁では弁護士以外の者が代理人に選任された例はありません。
 期日が3回しか開かれないこと、その間に争点を明らかにして、重点的な立証をしなければならないこと、を考えますと、法律専門家である弁護士なしに効率の良い労働審判手続を進めることは困難だと思われます。

(2) 裁判所は、申立後40日以内に第1回期日を指定し、申立人と相手方に通知しますが、相手方には、第1回期日の10日程度前までに答弁書と証拠書類を提出するよう求めます。

(3) 申立人は、この答弁書を受け取っても反論書の提出や、申立書の補充書面の提出は基本的には認められませんので、申立書の段階で主張したいことは余すことなく書く必要があります。答弁書に対する反論は、第1回期日で口頭ですることになります。ただ、現実には、申立人は答弁書に対する反論書を書いて裁判所に提出している例があり、使用者側の弁護士から批判がなされています。

(4) 相手方から第1回期日の変更を求めても、原則として認められませんが、相手方が申立書送達後1週間程度までに変更の申立をして、変更後の期日が申立後40日以内になるような場合は、期日の変更が認められます。

(5) 第1回の期日が開かれますと、争点整理がなされますが、その直後から証拠調べとして、当事者や参考人の審尋がなされます。労働審判法施行前は、第1回期日で争点整理をし、第2回期日で証拠調べをするものとされていましたが、実務の運用では、これが早くなっております。

(6) 労働審判手続は非公開ですが、家族など特定の人については傍聴が認められているようです。

(7) 証拠調べが終わると、裁判所から、調停が試みられます。
 調停成立率は、前述のとおり、70.5%ですが、申立の取下げが8.3%あります。

(8) 調停が成立しない場合は、審判がなされます。
 審判は、判決方式と調停条項式がありますが、多くは、調停条項式で書かれています。この方式では、必ずしも、法律上の権利に拘束されるものではない、多様で柔軟な主文が言い渡されています。例えば、解雇無効を争う事件で、労働者が特に反対しない場合は、解雇無効による職場復帰を認める代わりに、労働者が自主退職をし会社が一定の退職金を支払うという審判をする等です。

(9) 審判に納得できないときは、2週間以内に、裁判所に対し、異義の申立をすることができます。そうすれば、労働審判は効力を失い、訴訟手続に移行します。
 なお、審判率は17.7%ですが、そのうち51.4%に異義の申立がなされています。全体から言えば、労働審判の申立のあった事件の9%が訴訟に移行していることになります。訴訟に移行しても、労働審判手続で争点整理をしているため、判決が、そうでない事件に比べ半分ほどの期間でなされているようです。

(10) この他、労働審判法24条により、事案の性質が労働審判手続になじまないことで、労働審判事件の終了させているものが数%あります。

4,解決までの期間
 申立から第1回期日まで、平均38.8日(ここまでの解決率18.1%)、第2回期日まで24.7日(同41.5%)、第3回期日まで19.8日(同36.7%)

5,今後
 労働審判による解決率の高さと速さから、この制度が認知されるに従い、事件数は増えていくことが予想されます。
ア 労働契約又は就業規則で、職種限定の合意があれば、従業員の同意無くして職種変更を命じても、原則無効です。    なお、職種限定の合意は、雇用契約書や就業規則で明確でない場合でも、「黙示的に職種限定の合意がなされた」と認められることがあります。それは、就業規則の記載、職務の性質、採用時の具体的事情及び採用後の勤務状況等の諸事情から判断されます。    アナウンサーについて、職種限定の明確な合意がなくとも、アナウンサー採用試験に合格し採用された職員は職種を限定した労働契約を締結したものと認定されている裁判例(東京高判昭和58年5月25日)があります。    職務限定の合意が認められる場合には、配転には労働者の同意が必要となり、同意のない配転命令は無効となります。    高校の教員を事務員に配置転換した事例で、判例は就業規則に「学園は、業務上の都合により、職員に配置転換を命ずることができる。」との規定があることを理由に、職務限定の合意の成立を否定しています(東京地判平成19年2月23日)ので、就業規則に配置転換命令を認める記載があれば、それと反する事情等がない限り、職務限定の合意は否定されるものと思われます。ただ、この事案では、教員は高度の専門性を有するものであるので、事務職員への配置転換を命じるには、解雇に匹敵する高度の必要性がある場合であり、かつ適正手続を経た場合でなければならないという厳しい判断基準により配転命令を無効と判断していますので、実質的には、職種限定の労働契約を認めたものと変わりません。 イ 就職時に職種限定の合意がある場合でも、その労働者が、能力、人間関係での協調性の無さ等の理由で、その職種に置いておけないという場合(解雇理由が認められるようなケース)もありますが、その場合は、他の職種への配転は認められます。ただし、そのための事実関係の証明と、事実関係を調査する過程での適正な手続が要求されます。    従業員がその職種で期待される仕事をする能力がない、または、人間関係での協調性がなくその仕事をさせられない等と、使用者側が判断する前にまずはその従業員に改善を求めることが必要です。改善の効果が出ない場合でも、使用者側だけで能力や適正を判断する場合は、主観に偏りがちになりますので、労働組合や外部の人を交えた委員会等を組織して、客観的な物差しを用いて判断することが望まれます。高校の教員を事務職員に配転した上記東京地判平成19年2月23日では、具体的には、教員の適格性として授業能力や学級担任としての能力、人間関係では協調性に欠けること等の立証をし、それらが立証できた場合でも、その教員に対し注意を喚起したりする等などの措置が必要となる、とされ、それをなかった職種変更を無効としました。    なお、職種によっては、職種変更が認められやすいものもあります。    専門学校において教員から事務員に配転された事案で、さいたま地裁川越支部平成17年6月30日判決は、専門学校の教員の不適格性については立証がないとしながらも、教員に協調性が欠けるという問題点があるため、人間関係で軋轢を生じていた事務職員との接触が少なくなる部署への配転は業務能率を増進し、適切な処遇を図るという目的によりなされているので、配転命令は権利濫用とはいえず、有効と判断しています。    職種によっては、労働者の同意が無くとも、職種の変更ができるものがあり(例:専門性のないもの)、また職種によっては、職種変更を可能とする就業規則があっても、本人の同意か、または本人を解雇するほどの理由がなければ、職種の変更ができない場合(例:専門性のあるもの)がある、ということのようです。   ≫参考判例はこちら

4 労働契約

4−1 競業避止契約とペナルテイ
 私は会社に入社する際、会社との間に、退職後1年間は同業他社に勤務してはいけない、これに違反して同業他社に勤務したときは、それまでの会社からもらった給与全額を返還するという約束をさせられました。この約束は有効ですか。

 この質問は、次の2つの質問からなっています。
 1つ目は、「退職後1年間は同業他社に勤務してはいけない。」という約束は有効か、という点です。
 2つ目は、その約束が有効であるとした場合のペナルテイとして、「それまでの会社からもらった給与全額を返還する。」という約束は有効かという点です。

 1つ目については、次の判例があり、原則として無効です。
 競業避止の約束を有効にするためには、@会社が従業員に競業避止義務を課せるだけの必要性があり、A会社から競業避止義務を課せられる労働者へ代償を与えることが必要です。これがないと、無効です。
 判例@平成10年12月22日大阪地方裁判所判決
 退職後5年間は会社の営業の部類に属する事業を含む他企業への勤務又は自家営業を行わない旨の競業避止義務の約定につき、競業禁止の対象が非常に広範で、場所的限定がないこと、期間が長期に過ぎること、代償措置がないか又は不十分であることから、公序良俗に反し無効であるとして、同約定に基づく、元従業員に対する競業行為の差止請求及び損害賠償請求を棄却した判例

 判例のA 平成12年6月19日大阪地方裁判所判決
 雇用契約上特約により退職後6か月の競業避止義務を課した特約につき、労働者の従事していた業務が単純作業であり、特約の目的が取引先確保という単なる営業利益であり、何らの代償措置も講じられていない場合には、当該特約は職業選択の自由を不当に制約するものとして、公序良俗に反し無効であるとした判例

 2つ目については、労働基準法により無効です。
 すなわち、労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定め、これに違反する約束は無効としていますが、あなたと会社との約束は、契約違反がある場合、それまで会社からもらった給与全額を返還するというものですから、労働基準法16条が禁ずる「労働契約の不履行があったときの違約金または損害賠償額の定め」をすることになり、無効です。
 あなたの場合、1つ目の段階ですでに契約は無効ですから、2つ目については考える必要はないかもしれません。
4−2 配置転換(職種変更)命令は、労働契約違反か?
ア 労働契約又は就業規則で、職種限定の合意があれば、従業員の同意無くして職種変更を命じても、原則無効です。
 なお、職種限定の合意は、雇用契約書や就業規則で明確でない場合でも、「黙示的に職種限定の合意がなされた」と認められることがあります。それは、就業規則の記載、職務の性質、採用時の具体的事情及び採用後の勤務状況等の諸事情から判断されます。
 アナウンサーについて、職種限定の明確な合意がなくとも、アナウンサー採用試験に合格し採用された職員は職種を限定した労働契約を締結したものと認定されている裁判例(東京高判昭和58年5月25日)があります。
 職務限定の合意が認められる場合には、配転には労働者の同意が必要となり、同意のない配転命令は無効となります。
 高校の教員を事務員に配置転換した事例で、判例は就業規則に「学園は、業務上の都合により、職員に配置転換を命ずることができる。」との規定があることを理由に、職務限定の合意の成立を否定しています(東京地判平成19年2月23日)ので、就業規則に配置転換命令を認める記載があれば、それと反する事情等がない限り、職務限定の合意は否定されるものと思われます。ただ、この事案では、教員は高度の専門性を有するものであるので、事務職員への配置転換を命じるには、解雇に匹敵する高度の必要性がある場合であり、かつ適正手続を経た場合でなければならないという厳しい判断基準により配転命令を無効と判断していますので、実質的には、職種限定の労働契約を認めたものと変わりません。

イ 就職時に職種限定の合意がある場合でも、その労働者が、能力、人間関係での協調性の無さ等の理由で、その職種に置いておけないという場合(解雇理由が認められるようなケース)もありますが、その場合は、他の職種への配転は認められます。ただし、そのための事実関係の証明と、事実関係を調査する過程での適正な手続が要求されます。
 従業員がその職種で期待される仕事をする能力がない、または、人間関係での協調性がなくその仕事をさせられない等と、使用者側が判断する前にまずはその従業員に改善を求めることが必要です。改善の効果が出ない場合でも、使用者側だけで能力や適正を判断する場合は、主観に偏りがちになりますので、労働組合や外部の人を交えた委員会等を組織して、客観的な物差しを用いて判断することが望まれます。高校の教員を事務職員に配転した上記東京地判平成19年2月23日では、具体的には、教員の適格性として授業能力や学級担任としての能力、人間関係では協調性に欠けること等の立証をし、それらが立証できた場合でも、その教員に対し注意を喚起したりする等などの措置が必要となる、とされ、それをなかった職種変更を無効としました。

 なお、職種によっては、職種変更が認められやすいものもあります。
 専門学校において教員から事務員に配転された事案で、さいたま地裁川越支部平成17年6月30日判決は、専門学校の教員の不適格性については立証がないとしながらも、教員に協調性が欠けるという問題点があるため、人間関係で軋轢を生じていた事務職員との接触が少なくなる部署への配転は業務能率を増進し、適切な処遇を図るという目的によりなされているので、配転命令は権利濫用とはいえず、有効と判断しています。
 職種によっては、労働者の同意が無くとも、職種の変更ができるものがあり(例:専門性のないもの)、また職種によっては、職種変更を可能とする就業規則があっても、本人の同意か、または本人を解雇するほどの理由がなければ、職種の変更ができない場合(例:専門性のあるもの)がある、ということのようです。

  ≫参考判例はこちら

5 解雇

1 同僚に暴力を振るい怪我をさせた従業員を懲戒解雇したいと考えていますが、できますか。また、そのような従業員でも解雇予告手当を支払わないといけないのですか。

 暴力を振るった従業員に対し懲戒解雇ができるかどうかは、内容によると思われます。判例では、「いったん解雇され、裁判上の和解によって復職したトラック運転手に対する、同僚への暴力行為を理由とする懲戒解雇が、右行為は懲戒解雇事由に該当するものの、行為の態様は悪質とはいえないこと、復帰後の職場の雰囲気が運転手の不満感をうっ積させ、それが暴力事件の一契機となったと認められること、その者は入社以来20数年間、従業員として真面目に勤務してきたものであり、その間他の従業員に傷害を与えるような事件を起こしたことはなく、もとより懲戒処分を受けたこともないこと」等を理由に解雇を無効とした事例や、「従業員の暴行は決して偶発的、一過性のものではなく、その者の独善的かつ極端に激しやすい性格に根ざしたものであること、事件の前何回かその者に対し会社から協調性のなさや独善的性格について注意を受けていたこと」等を理由に、勤務時間中の上司に対する暴力行為を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例があります。
 また、暴力行為に対し懲戒解雇をするには、会社の就業規則上の根拠も要りますが、判例では、就業規則に「法規にふれるなど、従業員として対面を汚した時」に解雇できると定められていたケースで、会社の同僚に暴力をふるい加療約二週間を要する傷害をあたえたことはこれに該当するので、解雇は有効である、とされたものがあります。
 なお、懲戒解雇ができることと、30日以上の予告期間を置かないで(または平均賃金の30日分以上の予告手当を支払わないで)、即時解雇しうことは別個の問題です。判例で、暴力を振るった従業員に対する懲戒解雇を有効としたものでも、「会社は、労働基準法が定める30日の予告期間をおかず、解雇予告手当を提供することなく本件解雇の意思表示を行っているが、・・・本件解雇の意思表示から30日の期間が経過することによって解雇の効力が生ずるものと解すべきである。したがって、従業員は解雇の意思表示を受けた日から30日間の賃金を請求することができる(会社が従業員の労務提供を受け入れない意思は明確であるから、従業員の労務提供の有無にかかわらず従業員は賃金を請求することができるというべきである。)」として、即時解雇を認めておりません。
 このように懲戒解雇をする場合も、原則として30日以上の予告期間をおくか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないのです。ただ例外として、労働基準法20条1項但し書き及び19条2項で、その解雇が労働者の責に帰すべき事由に基いてなされるものであり、その事由について労働基準監督署の認定を受けた場合は、予告期間を置かず解雇することが出来ることになっております。労働基準監督署の実務では、傷害事件を起こした者については、原則としてこの認定(除外認定)をし即時解雇を認めております。

2 不景気を理由とする整理解雇が許されるのはどのような場合ですか。また会社はどの程度のことをしなければならないのですか。
 整理解雇が許されるためには、
  • @人員整理の必要性があること
  • A従業員の解雇を回避する努力をしたこと
  • B解雇基準が合理的であること
  • C従業員及び労働組合に対する説明協議義務を尽くしたこと
の四条件が必要であるとされており、これらの条件の一つでも欠けるときは、解雇権の濫用として無効となるとされています。

@人員削減の必要性
 この点については、使用者の経営判断が尊重されます。したがって、財政状況に全く問題がない場合や、人員削減後に新規採用するという矛盾した行動をとる場合などでない限り、この要件はパスできます。
A解雇回避努力義務
 4要件の中心要件です。新規採用の停止、役員報酬カット、昇給・賞与の停止、時間外労働の削減、希望退職者募集、一時帰休、配転・出向など、使用者は真摯な解雇回避努力が求められます。
 なかでも、希望退職者の募集は、解雇回避措置の基本とされ、希望退職者募集を経ない整理解雇は回避努力義務を果たしていないと見られやすいようです。そこで、誰も異存なくすんなりやめてくれるという見込みがあれば別ですが、そうでない限り希望退職者を募るという手順を踏まれた方が無難ではあります。
B被解雇者選定の相当性
 客観的で合理的な基準に基づいて解雇することが求められます。欠席日数、遅刻回数、規律違反歴等勤務成績、勤続年数等企業貢献度、高齢者か若者かなど解雇による経済的打撃の大小、といった基準をある程度設けてそれに従って解雇する必要があります。
C労働者への説明
 人員削減の必要性(経営が極めて悪いことを具体的に)、整理の時期・規模・方法、被解雇者選定基準とその適用、解雇条件など労働者に十分説明することが求められます。このような説明をきちんとすることで後のトラブルを防ぐこともできますので、非常に重要です。
 判例によりますと、人員余剰状態が生じた後、従業員の新規採用を中止したり、従業員へ退職を勧奨すること等をしてもなお人員の整理が必要である場合で、余剰人員を他の会社に雇用してもらう努力した後、解雇対象者を合理的基準で選び(例えば、判例では、加齢のため目が悪く細かな作業に従事することができない者、社内で従前から協調性に欠け勤務態度に問題があるとの評価を受けていた者等の例がある。)、その者や労働組合と協議交渉し、納得を得るべく誠意を尽くした場合でないと、解雇はできないとしております。
 判例の中には、解雇回避努力義務に関し、「解雇を認めなければ、パートとして採用しない(本件解雇を争うか、パートとして採用されることを期待するか、の選択を迫る)という方針は、原告らの地位を無用に不安定にするものであり、従業員の身分保障の趣旨に反するので、解雇を回避する努力を尽くしたとはいえない。」と判示したもの、被解雇者選定基準が合理的であることに関して、定年を過ぎているものを解雇しないで、定年に達していない者を解雇した事例で、「会社がこれを考慮していないのは、それだけで被解雇者を選定する基準の合理性を疑わせ、解雇は無効である。」と判示しているもの、組合及び労働者の納得を得るための説明、協議に関し、「会社の経営状態を把握することが不可欠であり、そのためには、貸借対照表や損益計算書等の資料を十分検討する必要がある。また、右資料が膨大な量になること、短時間で控えを取ることは困難であることを考慮すれば、右資料の閲覧だけでなく、コピーを取ることを認める必要があるにもかかわらず、会社は、「試算表」と題する資料を交付しただけで、貸借対照表や損益計算書等の資料についてはコピーを取ることを認めなかったのであるから、誠実に説明、協議を行ったとはいえない」として解雇を無効としたものがあります。

3 従業員が仕事外で深夜飲酒運転をし、交通事故を起こしましたので解雇したいと思いますが、できるでしょうか。
 平成元年1月10日大津地方裁判所判決は、職場外での数度の飲酒運転、及びこれによる逮捕、拘留を理由とするバス運転手に対する通常解雇は、企業の社会的評価へ悪影響を与えたことや企業秩序を乱したこと等を理由に有効であるとしていますが、昭和59年6月20日東京高等裁判所は、勤務時間外に自己所有車を飲酒運転し、物損事故を惹起し、酒酔い運転などの罪で罰金5万円の略式命令を受けた者に対する懲戒解雇は、その会社の社会的評価に与えた悪影響および企業秩序に与えた影響の程度が重大とは認められないとして、解雇権の乱用であると判示しております。
 この解雇権を乱用とした判決例は、解雇無効の理由として、
@本件事故ではその者が自傷した他はその損害は比較的軽微であって、しかもその者は賠償をしており、事故についての報道もなかったことから、事故による会社の社会的評価の現実的棄損はそれほど大きくなかったこと
Aその者は過去に同種の前科前歴はなく会社により懲戒されたこともないこと
B他の従業員も本件解雇は重すぎるとの反応を示していること
C労働基準監督署長も本件につき解雇予告除外認定をしなかったこと
D会社も従業員に対し、これまで比較的寛大に懲戒権を行使してきたこと
E同業他社においては本件よりも情状が重いとみられる事例でも懲戒解雇にはなっていないこと
F全体の奉仕者として職場規律が重視され社会的にも厳しく評価されている県庁職員、公立学校教職員の飲酒運転事例においても相当に悪質な一部を除きすべて停職以下の処分に留まっていることなどを理由としております。

 したがって、単に飲酒運転したという理由だけでの懲戒解雇や、通常解雇は無効とされると思われます。

4 私は、突如解雇されましたが、予告期間をおかないこのような解雇は有効ですか。
 解雇は、解雇の日を特定して、少なくとも30日前に予告して解雇しなければならないことになっています。即時解雇をする場合は、解雇の予告に代えて30日分の平均賃金を解雇予告手当として受け取ることができます。質問のように、解雇予告手当を支払わないで即時解雇された場合は、即時解雇の効力は生じません。この場合は、解雇の日に解雇の予告があったものとし、解雇の効力は、
  @解雇の通知後30日を経過したとき
  A解雇の通知後予告手当を支払ったとき
の、いずれか早いときに生じます。
 なお、解雇予告日数が30日に満たないときは、その満たない日数分の予告手当を受け取ることができます。例えば、14日後に解雇されるときは、16日分の予告手当が支払われます。

5 会社が社員を解雇するときは、常に解雇の予告をするか、または解雇予告手当の支払いが必要ですか。
次の場合は、解雇の予告も予告手当の支払いもせず、即時解雇ができます。
  • @一定の要件のもとで、日々雇い入れられる者
  • A2か月以内の期間を定めて使用される者
  • B季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
  • C試の使用期間中の者
  • D天災事変その他やむをえない事由のために事業の継続が不可能となった場合で、労働基準監督署長の認定があった場合
  • Eその者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇される場合で、労働基準監 督署長の認定があった場合
などです。
6 採用内定通知の取消
 当社は、3月に大学を卒業する予定者を従業員に採用することにして、内定通知を出したのですが、会社の売上が思っていたほどには伸びなかったことから、従業員の数を増やさない方がよいであろうと考え、内定通知を取り消したいと思っていますが、できますか。なお当社は、通常は採用内定通知のみで、他に特別なことはしないで、4月から入社していただいております。

 昭和55年5月30日の最高裁判所判決は、企業が、採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかった場合は、採用通知により、解約権を留保した労働契約が成立したものと考えております。この労働契約の効力発生の始期は採用通知に示された採用の日になります。
 では、いかなる場合に留保された解約権の行使、つまり採用内定の取り消しが可能かと言いますと、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できような事実であって採用内定を取消すことが社会通念上相当と認められる場合に限られます。例えば、採用が予定されている新卒者の経歴詐称などが考えられます。
 では、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をすることができるかですが、平成9年10月31日東京地方裁判所の決定では、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する四要素すなわち、@人員削減の必要性、A人員削減の手段として整理解雇することの必要性、B被解雇者選定の合理性、C手続の妥当性という四要素(本法律実務レポート「労働問題.解雇2」を参照)を満たしておれば、できるとしております。
 したがって、ご質問の理由では採用内定の取り消しはできないと言わざるを得ません。

6 懲戒処分

1 懲戒処分は一般にどのようなものがありますか。
 一般的には、「譴責・戒告」「減給・降格」「出勤停止・懲戒休職」「懲戒解雇・諭旨解雇」があります。

@譴責・戒告
 通常、「譴責」というのは、「始末書をとり、将来を戒める」もので、「戒告」は、「将来を戒めるものであって始末書はとらない」ものをいいます。
 譴責・戒告は、それ自体では具体的な不利益はありませんが、昇給・昇格・賞与の支給に際し不利益な査定を受けることが多くあります。
 この点に関しては、始末書の提出を命じたにもかかわらず、これに応じない場合、それを業務命令違反として新たな懲戒処分を行いうるかということが問題になります。裁判例は否定するものと肯定するものとがありますが、多くは始末書の不提出を理由に新たな懲戒処分をすることはできないという否定説になっております。労働者は、業務命令以外に身分的・人格的な意思の強制・命令を受けるものではない、個人の自由な意思は尊重すべきであり、始末書の提出の強制はこの理念に反するというのが理由です。

A減給・降格
 減給とは、本来なら労働者が労務提供の対価として受け取る賃金額から一定額を控除することをいいます。減給は、労働基準法91条により「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」と定められております。これは、1回の懲戒事案について、その金額が平均賃金の1日分の半額以内でなければならないということです。また、減給は、「総額が一賃金支払期日における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。これは一賃金支払期日に数回にわたる懲戒事案が発生した場合、それぞれにつき、平均賃金の1日分の半額まで減給できるが、その数回の事案による減給の総額が、当該賃金支払期日における賃金総額の10分の1を超えることはできないという意味です。したがって、10分の1を超える場合は、次の賃金支払期日に減給することになります。
 降格とは、ある職から他の職へ格下することをいいます。

B出勤停止
 出勤停止とは、労働者の就労を一定期間禁止しその期間賃金を支給しない懲戒処分をいいます。これは懲戒休職とも呼ばれております。出勤停止は、使用者が労働者の労働を禁ずるものですが、就業規則に出勤停止の場合は賃金を支払わないと定めてあれば、使用者は賃金を支給しないことができます。
 出勤停止の期間について、法律は制限をしていませんが、あまりに長期にわたる時は労働者に不利益を与えることになりますので、当該行為が出勤停止事由に該当するかどうか、当該出勤停止処分が相当であるのかが厳格にチェックされることになります。

C懲戒解雇
 雇用契約を一方的に解除することです。Q2を見て下さい。

D懲戒処分を行う前段階の自宅待機命令
 懲戒処分をする前の段階として、自宅待機を命ずる場合がありますが、これは、懲戒処分の対象者に対し、最終処分が確定するまでの間、出勤・就業を禁ずることですが、就業規則にそれに関する定めがある場合は問題はありませんが、就業規則に定めがない場合、自宅待機の法的根拠が問題になります。
 判例では自宅待機命令は、「雇用契約上の業務命令として許される」としています(ネッスル事件・静岡地裁判平成2.3.23)。問題はこの自宅待機期間中の賃金支払の要否ですが、自宅待機命令は、労働者の出勤を禁ずる措置であり使用者による労務の受領拒否です。その意味で、懲戒処分である出勤停止と似ていますが、しかし、自宅待機命令は懲戒処分としてなされるものではなく、使用者の労務行使権としてなされるものですから、使用者はその間の賃金支払義務を負うことは当然とされています。懲戒処分の前置処置としてなされた自宅謹慎処置について判例は「このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質をもつものではなく、当面の職場秩序維持の観点からとられる一種の職務命令とみるべきであるから、使用者は当然にその間の賃金支払義務を免れるものではない」と判示されております(日通名古屋製鉄作業事件・名古屋地判平成3.7.22)。ただし、「当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発・証拠隠滅の恐れなど緊急且つ合理的な理由が存在するか、または自宅待機を実質的な出勤停止処分にさせる懲戒規定上の根拠が存在する」場合には、自宅待機期間中の賃金支払を免れうると解されております。

2 懲戒解雇はどのような場合に許されるのですか。また許されないケースはどんなケースですか。裁判例を紹介下さい。
 裁判例を見ますと、懲戒解雇が有効と認められたケースでは、

「永年の功を抹消するに足る背信性の強い非違行為」(平成11年5月26日大阪地方裁判所判決)、
「合理的かつやむを得ないものであること」(平成12年10月16日東京地方裁判所判決)、
「行為の回数、金額の多さ、態様の悪質さから見て重大な不正行為」(平成12年6月23日東京地方裁判所判決)

について懲戒解雇を認めていますので、懲戒解雇が許されるのは、当該従業員が解雇されてもやむを得ないと客観的に認められる程度の秩序違反があった場合ということになりますが、これまでの判例では、金銭借入及び謝礼受領(平成12年10月16日東京地方裁判所判決)、不正に出金処理して着服(平成12年6月23日東京地方裁判所判決)、虚偽の調査報告書を作成し、車両経費を不正に請求したこと(平成12年3月31日大阪地方裁判所判決)、勤務時間の大半は自席を離れて業務遂行を放棄し、かつ、虚偽の住所を届け出て実費を約231万円上回る通勤手当を受け取っていた(平成11年11月30日東京地方裁判所判決)、領収書の改ざん、請求書の偽造等により使用者から金員を騙取していた(平成11年11月15日東京地方裁判所判決)等お金の不正請求があった場合が多く、同僚との殴り合いの喧嘩(平成11年3月26日東京地方裁判所判決)等の暴力によるものや、カルティエ・ジャパン事件といって、販売員に対する、接客態度不良、部下や百貨店社員との協調性の欠如を理由としたもの(平成11年5月14日東京地方裁判所判決)もあります。このカルティエ・ジャパン事件は、かなり程度の悪い事案で、販売職社員として入社した者がデパートや顧客と種々トラブルを起こし、会社から解雇を通告されたこともあり、その際反省して真面目にすると約束しながら、約束が全く守られず、それ以上販売職社員としての業務に従事させることはできないものであること、販売職社員以外の他の職種も、それぞれ、経理や人事などの専門知識やコンピューターの習熟など、販売職社員には必ずしも要求されない別の能力や経験が要求されることから、その者を販売職社員以外の他の職種に配属替えすることも困難であること等の場合です。
  懲戒解雇を無効とした裁判例は多く、残業命令拒否、上司への反抗、協調性の欠如等を理由とする社会福祉法人職員の懲戒解雇が、一部には軽微とはいえない事案もあるが、譴責ないし減給処分といったより軽度の懲戒処分によって是正可能であり、職場から排除するのもやむを得ない程の非違行為には当たらないとして、懲戒権の濫用により無効とされた事例(平成10年10月2日浦和地方裁判所判決)、顧客から預かったワープロソフト及びそのマニュアルを自宅に持ち帰り隠匿・横領したこと、その事実が露見した後にも反省の情を示さず、懲戒事由を取り消すように会社代表者を脅迫したことを理由とする懲戒解雇が、業務上の指揮命令違反として懲戒事由に当たるとしても、「隠匿・横領」及び「脅迫」という評価はなし得ず、懲戒権の濫用として無効とされた事例(平成6年11月25日大阪地方裁判所決定)等があります。五時間程度の職場離脱を理由に懲戒解雇したケースでは、会社の就業規則上懲戒解雇を行うには正当な理由のない無断欠勤が14日に及ぶことが必要とされていることなどと対比すれば、懲戒解雇事由には当たらない(平成12年6月6日横浜地方裁判所小田原支部判決)とされています。

3 出向と懲戒権
1,出向とは、労働者が、自己の雇用されている企業(出向元企業)に在籍したまま、第三者たる他の企業(出向先企業)に一定期間就労する労働形態をいいます。
 出向を命ぜられた労働者を出向労働者と言いますが、出向労働者は、出向元企業との間に、通常の労働契約がありますが、出向期間中は、通常の労働義務は停止され、その代り、出向先企業との間に、出向期間中だけの労働契約関係が生じ、出向先企業は、この契約関係に基づき出向労働者を指揮命令することになります。

2,出向に応じて勤務場所を変更することは、重大な労働条件の変更になりますのでので、雇用契約の際個別の同意か就業規則上の明白な根拠が要ります。企業グループで労働者を一括雇用するような場合は、企業グループ間の出向は、いわば配置転換するようなものですから、出向命令は認められやすいと思われます。

3,さて、出向労働者に懲戒事由が生じたときは、出向元企業と出向先企業のいずれが懲戒権を持つかが問題になりますが、懲戒解雇は身分を剥奪するものですから、出向元が持ちます。それ以外の懲戒権は、出向元と出向先の会社間の契約によります。出向先企業が懲戒する場合は、出向元の懲戒基準や手続に比べ、出向労働者に不利になるようなことは認められず、出向元が二重に懲戒処分をすることもできません。


リストラ

1 会社の赤字を削減するリストラ策の一環として、会社が就業規則を変更し、基本給あるいは諸手当を減額することが許されるか。
 会社が就業規則を変更し、基本給あるいは諸手当を減額することは、原則として許されません。例外として許される場合として、最高裁は次の基準を明示しております。
 最高裁判所昭和63年2月16日の判例は、7つの農協が合併することによって、それまで7農協の就業規則に定める給与、退職金、諸手当が区々であったので、合併に際して、これらの規定を統一し、労働条件の格差を是正するために就業規則を変更した事案で、就業規則の不利益変更に関し、「特に賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的に不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受認されることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる。」とし、上記事例では、不利益を受けることとなる従業員が生じても、就業規則の変更は有効であるとしています。その後の判例も、一般論としては、最高裁の見解を踏襲してはいますが、具体的なケースで就業規則を変更する高度の必要性に基づいた合理性が認められた事例は他にないようです。
 平成8年12月11日東京地方裁判所決定は、「賃金を引き下げる措置は、労働者との合意等により契約内容を変更する場合以外は、就業規則の明確な根拠と相当の理由がなければならない。」が「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきである。」と判示し、ただ、「就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものである」場合、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項がそのような不利益を労働者に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合」は、就業規則の不利益変更は認められる。しかし、証券会社の営業成績が、株式不況により、手数料収入が減少するなどして経常利益等が赤字となり、営業店舗の統廃合を実施し、また人員削減の措置を講ずるなどして人件費等の経費削減に努めている」状況下でも、「就業規則を変更して、諸手当等の減額を行う必要性が全くなかったとまではいえない」が、それだけでは、就業規則の不利益変更の高度の必要性はない、とされています。
 平成9年3月21日大阪地方裁判所判決は、労働者が給与減額の通告に対し同意を与えていないときは、明確に、減額は無効であると判示しております。このように、判例は、事実上、従業員の承諾がないと、減給は無効としています。賃金の減額の手段として、旧会社を解散し新会社を設立するケースもありますが、そのためにする旧会社の従業員の解雇も無効とされております。
 平成10年5月22日広島地方裁判所判決は、営業譲渡によって新会社に転籍したタクシー部門の労働者について、新会社が導入を通告した新賃金体系の効力が否定され、旧賃金体系に基づく賃金を支払うことが命ぜられております。
 以上のように、リストラの必要性があるとしても、従業員の同意のない減給は、最高裁のケースのような特別の事案でない限り、無理であると考えられます。

7 労災事故

1−1 車の持ち込み運転手(傭車運転手)の場合
 私は、ある会社から専属的に運送業務の委託を受けている者ですが、トラックに運送品を積み込む作業を していて、足を滑らして転倒し骨折をしました。私の場合、労働者災害補償保険法所定の療養補償給付や休業補償給付の支給を請求することができますか。

 たいへん難しいと思われます。最高裁判所平成8年11月28日判決は、車の持ち込み運転手(傭車運転手)が、トラックという事業用の資産を所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事している点で、事業者性を有し、委託会社の労働者ではないとして、その事案では、車の持ち込み運転手(傭車運転手)の労災保険法上の補償給付の請求を認めませんでしたが、同判決は、傭車運転手でも、自分自身の事業者性を否定し、委託会社の労働者性を肯定させるような事実が認められる時は、労災保険法上の各種補償給付を請求しうることを認めております。
  では、いかなる場合に労働者性が認められるかについては、右最高裁の判例は明確にしておりませんが、労働大臣の私的諮問機関である労働基準法研究会の昭和60年12月19日付報告書(労判465号69頁)が参考になると思われます。これらについては判例タイムズ927号85頁の最高裁判例のコメントを参照してください。

1−2 一人親方
前問で、傭車運転手は原則として委託会社の労災保険法の給付を受けられないことがわかりましたが、それでは傭車運転手は、今後、労災事故に備えてどうすればよいのでしょうか。

 傭車運転手は、委託会社の労働者性が認められない場合であっても、労災保険法27条3号所定のいわゆる一人親方として特別加入の申請を行い、自ら保険料を納付することによって、業務に起因する事故に対する保険給付を受ける道が開かれていますので、この特別加入の申請をするのがよいと考えます。
2 従業員の通勤中の交通事故
 従業員が通勤中に交通事故を起こした場合、労災保険の適用を受けると聞いておりますが、そうしますとその事故で第三者に損害を与えた場合は、会社に賠償責任が生ずるのですか。

 従業員が通勤途上で交通事故を起こし怪我をした場合、労働者災害補償保険法第7条により、保険給付を受けることが出来ます。だから、従業員が第三者に損害を与えたときは、会社は被害者に対し賠償責任があるのではないか、との疑問も持つ向きもあるようです。しかし、民法第715条は、「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス」と規定しているとおり、従業員が起こした事故について会社が使用者責任を負うのは、従業員が会社の事業ノ執行ニ付キ起こした事故の場合に限られます。したがって、通勤中の事故については会社に使用者責任はありません。ただし会社が、事故を起こした従業員の自動車を会社の仕事に使わせていた場合など、会社が、自己のために自動車を運行の用に供する者と見られるときは、自動車損害賠償保障法第3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」ことになります。
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