本文へスキップ

岡山で弁護士をおさがしなら菊池綜合法律事務所へ

TEL.086−231−3535
(受付時間 平日9:00〜17:00、土曜9:00〜12:00)

民事再生法講義 第2回

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<民事再生法講義 第2回

第2回講義 再生手続の申立から決定(開始決定又は棄却決定)まで


1,民事再生手続は申立により始まる。
(1) 申立権者
 申立権者は、債務者と債権者である。「・・・債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる。・・・」(21@)また、「・・・債権者も、再生手続開始の申立てをすることができる。」(21A)ことになっている。実は、この他、外国管財人にも申立権を認められている(209@)。金融機関等の更生手続の特例に関する法律等の特別法では、監督官庁にも申立権を認めている。
 会社更生法の場合、株主にも申立権が認められているが、民事再生法では株主の申立権を認めていない。その相違は、会社更生法が株主をも手続に服する権利者としているのに対し、民事再生法では、再生手続に服する権利者は債権者だけであるという点である。したがって、ここでいう「債権者」とは、再生手続に服する債権者すなわち再生債権者となる債権者を意味すると解されている。共益債権者や一般優先債権者は申立権はない。

(2)  民事再生能力
 再生債務者になりうる能力・資格を民事再生能力というが、これは、会社更生法の場合と違って、法律上は何の制限もない(21)。法人・自然人はもとより、権利能力なき社団、外国人、外国法人も民事再生能力を有する(外国人について4)。
 破産能力と同じであるが、相続財産については、民事再生能力はない。何故か?

(3)  開始原因
 再生手続開始の申立をするには、その原因となる事実が必要となる。それは「@ 債務者に破産手続開始となる事実の生ずるおそれがあるとき」または「A 債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」(21)である。
 破産手続開始の原因となる事実とは、「債務者が支払不能にあるとき」であるが、債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定」(破15)される。債務者が法人である場合(無限責任社員を有する合名会社、合資会社は別)は、支払不能の外に「債務超過」の場合も破産手続の開始の原因になる。
 法人の場合、再生手続開始の申立をする場合、例えば株式会社については取締役会の決議など法定の手続を要する。民事再生法の場合、準自己申立のような制度は採用していない。
 ここで、「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう(破2)。支払能力は、債務者の財産・信用力・稼働力の総合判断によって客観的に決せられるもの。再生手続開始の原因は、「債務者に破産手続開始となる事実の生ずるおそれがあるとき」でよいのであるから、破産手続開始ができない場合でも再生手続の開始ができることになる。再生手続開始を破産手続開始より広く認めた理由は何か?

 破産に比べ、破綻の程度が低い段階での再建を可能にしたもの。和議法時代は破産原因がある場合にしか適用できず、それが和議法の重大な欠陥の一つとされていた。
 法人の場合の債務超過は、清算価値ではなく、継続企業価値を基準に評価をして決するものとされている(破産との違い)。
 「A 債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」は、債務者のみが申立てうる(21@)
 支払不能ではないが、商品の大量廉価販売によらないと資金繰りがつかないような場合が想定される。

(4) 疎明
 再生手続開始の申立をするときは、再生手続開始の原因となる事実を疎明しなければならず、債権者がその申立をするときは、その有する債権の存在をも疎明しなければならない(23)が、実務上、さほど困難なことではない。破産法では、債務者が破産手続の開始を申立てる場合、疎明は不要である(破18@)。民事再生法の場合、疎明を求めたのは、その場しのぎで再生手続を申立る濫用的な申立を防ぐことにある。

(5) 費用の予納
 また、再生手続開始の申立をするとき、申立人は再生手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならない(24)。これは、監督委員や監督委員の補助者である公認会計士の報酬などを確保する必要があるからである。
 実務上、予納金は、最低でも300万円は必要であるから、民事再生法を利用する者は限られる(個人再生は別)。
 なお、債権者申立の場合も当然債権者が予納しなければならないが、規16@後段で「再生債権者が再生手続開始の申立てをしたときは、再生手続開始後の費用については、再生債務者財産から支払うことができる金額をも考慮して定めなければならない。」とあるように、最終的には債務者が負担することになる(119条1.4号)。

 (6) 書面
  再生手続に関する申立は、特別の定めがある場合を除き、書面でしなければならない(規2)。再生手続開始決定の申立についても、書面でしなければならないが、この書面は通常再生手続開始申立書と呼ばれる。
 再生手続開始申立書には、必要的記載事項として、規則12条1項に定める事項、またその他にも規則13条1項に定める事項を記載しなければならないことになっている。これら記載される事項の中で、実務上重要なのは、「再生計画案の作成方針についての申立人の意見」である。資料として重要なのは資金繰り実績表や資金繰り予定表である。修正貸借対照表や清算貸借対照表の作成も必要。裁判所が再生手続開始の棄却事由の有無を判断する上で、この点が重視される。なぜか?規則もよく読んでおくこと。

 申立の準備として他に何かあるか?
 基本方針の策定、膨大な時間と労力の確保、資産保全と運転資金や申立費用の確保、関係者のタイムスケジュール経営実態の見直し、倒産原因の分析、その除去の可能性、債権者の理解と協力、自力再生かスポンサーを求めるか、M&Aをするか、経営者の交代の必要性の検討、不採算事業の閉鎖やリストラの検討、大まかな事業計画、弁済計画の策定、資産保全、債権者との対応、資金確保、相殺防止策の策定等および以上の準備を含めた関係者のスケジュール調整

(7) 管轄
 再生手続開始の申立をする裁判所は、法5条に定める地方裁判所であるが、この法律に規定する裁判所の管轄は、専属管轄となる(6)。しかし、裁判所は、著しい損害または遅滞を避けるため、必要があると認めるときは職権で再生事件を他の裁判所へ移送することができるようになっている。迅速な再生事件の処理を目的とする移送の制度である。
 なお、民事再生法での管轄に関する規定は破産法の場合と同じであり、詳しくは破産法の講義で解説されたと思われる。ここでは省略する。

(8) 申立の効果
 再生手続開始の申立に実体法上の権利変動は生じない。アメリカ連邦破産法は、申立により債権の取立てや強制執行が停止される自動停止の制度を導入しており、我国でも民事再生法制定の際自動停止制度の導入について議論がなされたが、採用されなかった。
 再生債権の弁済の禁止の効果は、再生手続開始の効果として生ずる(85)のである。申立によってこのような効果は生じない。

2,開始決定前の措置
(1) 保全命令
  再生手続開始の申立に実体法上の効果はないが、申立により、債権者にとっては再生債務者に対する債権につき将来一部免除を含む権利の変更が求められることが予見できるので、個別に権利の行使をするかもしれない。あるいは再生債務者が債務の弁済をしないとは限らない。そうなれば、その後の再生計画は作成できなくなるおそれが大きい。そこで、「裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合には、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、再生債務者の業務及び財産に関し、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。」(30)ことになっている。
 実務上は、開始決定前の保全処置として弁済禁止の仮処分が一般的である。ただし、再生債権の弁済を一律に禁止するのではなく、裁判所は、一定の範囲の債権を弁済禁止の対象から除外している。
 弁済禁止の保全処分の場合、東京地方裁判所では、原則として、つぎの債務を弁済禁止の対象除外債務としている。
  • ア 保全処分命令日(場合によっては、その前日)以降の原因に基づいて生じた債務全般。
     ただし、これは共益債権として認めたものではないので、その支払をするには、別途、後述の共益債権化の許可か、許可に変わる監督委員の承認が必要となる。
  • イ 保全処分命令日の前日までの原因に基づいて生じた債務のうち、
    • @租税その他国税徴収法の例により徴収される債務、
    • A再生債務者とその従業員との雇用関係により生じた債務、
    • B再生債務者の事業所の賃料、水道光熱費、通信に係る債務、
    • C再生債務者の事業所の備品のリース料、
    • D一定額(10万円が多いが、事業の規模や再生債務者の資金繰りによっては10万円以外の金額)以下の債務(85Dの先取り)
     @とAは当然のことなので、注意的記載だが、Bのうち公共料金は50Aにより共益債権とされるもの以外は再生債権、共益債権化の道はないので、ここに入れた。
     他にも、必要なものは、保全処分の除外としておくことが重要
     例えば、運送費・倉庫料(別除権対象物の受け戻しのための弁済)
     事務所賃料(東京地裁での定型文書では除外債権。49Cの共益債権となるべき債権)
     一方、大阪地方裁判所は、リース債権は別除権付債権として扱い、イCは弁済禁止の除外債権としてはいない。この違いは、別除権のところで述べる。また、少額債権も除外していない。少額債権は開始決定後の弁済許可(85D)で可能だからのようである。

     弁済禁止の保全処分は、申立後、開始の申立につき決定があるまでの間の暫定的処分であるから、開始決定と同時に効力を失う。そのため、たとえ保全処分除外債権であっても、開始決定までに
     弁済をしないと、共益債権化されたもの・一般優先債権に該当するイ@Aの場合を除いて、再生債権は弁済ができなくなる(85@)。
     保全処分は、必要に応じ、「裁判所は、前項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。」実務では、人材派遣料の除外債権化がある。(30A)保全処分に違反した行為については、「・・再生債権者は、再生手続の関係においては、当該保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができない。ただし、再生債権者が、その行為の当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限る。」ことになる。
     再生手続開始決定がなされたとき、または棄却されたときは、保全処分は失効する。これは、以下に述べる他の手続の中止命令等も同じである。
     再生債務者が保全処分に違反したときは、手続廃止決定の原因になる(193@)。
     保全処分発令後は、申立の取下げが制限される(32)。
     借財禁止の仮処分も大阪地裁では定型化されている。
     最近多いDIPファイナンスを受ける場合は、保全処分の一部解除の手続をとる必要がある。

    
(2) 他の手続の中止命令等
 再生手続開始の申立てまでに再生債務者について、破産手続や特別清算手続あるいは再生債権に基づく強制執行、仮差押えもしくは仮処分や再生債務者の財産関係の訴訟手続、再生債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続がなされている場合がある。そのような場合は、裁判所は必要があると認めるときは、これも利害関係人の申立または職権で再生手続開始の申立につき決定があるまでの間、これらの手続の中止を命ずることができる(26)ことになっている。
 これは、個別的な中止命令であり、次の包括的禁止命令とは異なる。
 中止命令の対象に、会社更生手続が含まれていないのは、再生手続よりも、会社更生手続が優先されるからである。
 ただし、中止命令も、26@2号の強制執行などは、「申立人である再生債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限る。」とされており、債権者がそれをしないと倒産してしまう場合や、債権者が扶養料債権者である場合などの場合は、「不当な損害」を蒙るものとして中止命令をすることができない場合もあるであろう。
 3号の財産関係の訴訟手続が中止命令の対象になっているが、訴訟手続が進行し判決が確定することを阻止するねらいがある。
 中止命令の効果は、遡及効がないので、強制執行で差し押えられたものを債務者が換価することはできない。そこで、26Bは、「裁判所は、再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めるときは、再生債務者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより、担保を立てさせて、第一項第二号の規定により中止した手続の取消しを命ずることができる。」ことにした。
 この場合、「再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めるとき」とは、仕掛品や代替性のない原材料や、放置しておくと陳腐化してしまう商品などが差し押えられた場合などが考えられる。
 担保の金額は、再生債務者について破産手続が開始した場合に想定される配当額が基準になる。
 実務上債権額の5%の例がある。

(3) 包括的禁止命令
 さらにまた、裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、(2)で述べた中止命令によっては再生手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、すべての再生債権者に対し、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等の禁止を命ずることができる。これが包括的禁止命令である。ここで言う「包括的」とは、再生債務者のすべての財産を一律に対象とする目的財産の包括性・すべての再生債権者を一律に対象とする債権者の包括性・強制執行等に該当する手続を一律に対象とする手続の包括性・すでに係属している手続と将来の手続を一律に対象とする手続の時期の包括性の四つの包括性を意味する。この命令は、事前に又は同時に、(1)の保全処分をした場合又は監督命令もしくは保全管理命令がなされたときに限られる(27)。
 包括的禁止命令が発令されるのが、(1)の保全処分をした場合又は監督命令もしくは保全管理命令がなされたときに限られているのは、強大な効力を有する包括的禁止命令制度の濫用を禁ずる趣旨である。
 また、包括的禁止命令に対しては、個別の再生債権者との関係で解除される必要が生ずる場合もあり、29@で解除の道を開いている。
 包括的禁止命令は、債権者を特定しないで、全ての再生債権者に対して再生債務者の財産に対する強制執行等を禁止する命令であるし、効力が強力であるが、再生手続開始申立から開始決定または棄却決定までの時間が短いこともあって、あまり利用されておらず、包括的禁止命令の意義はそれほど大きいものではない。ただ、ゴルフ場会社などの再生事件では、発令される例があるようである。
 ただ、大企業で担保余力のある多数の財産を有する再生債務者の場合など、包括的禁止命令は効果的な手続であると思われる。
 なお、包括的禁止命令を受けた再生債権者については、再生債権の消滅時効について27Fで考慮されている。

(4) 担保権実行手続の中止命令
 「裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において・・・競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、相当の期間を定めて、53@に規定する再生債務者の財産につき存する担保権の実行手続の中止を命ずることができる。」ことになっている。(31@)「ただし、その担保権によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権であるときは、この限りでない。」
 ここで、「競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるとき」とは、これをしないと申立債権者が倒産するとか、目的物の急激な価値の下落により担保割れの金額が増大するなどが予想される。
 「相当の期間」とは、実務上は3ヶ月程度とされており、この間に再生債務者等は、担保権者との別除権協定や任意処分、担保権消滅請求の可能性を検討することができる。この規定は、非典型担保の実行手続の場合にも類推適用ができると解されているが、注意を要するのは、この担保権実行手続の中止命令は、裁判所が法的な手続の実行を中止することを想定した制度であるから、担保目的物の事実上の引揚げのような裁判所が介在しない実行形態の場合は、類推適用は許されないと説明されている(『詳解民事再生法』222ページ)。しかし、この場合も、裁判所は、再生債権者に対し、動産の引揚げ禁止を命ずることができると解すべきではないか、と思われる。

  これらの保全措置や他の手続の中止命令など、あるいは再生債権に基づく強制執行等の包括的禁止命令や、担保権実行手続の中止命令は、再生債権者の個別の権利行使を想定し、それがなされることによって将来の再生計画の作成ができなくなることをおそれての措置であるが、これとは別に裁判所は、必要があると認めるときは利害関係人の申立または職権で、監督委員による監督や保全管理人による保全管理命令を命ずることができる(54・79)ことになっている。

(5) 監督命令
 「裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、監督委員による監督を命ずる処分をすることができる。」(54)監督委員による監督を命ずることを監督命令といい、実務運用では大半の裁判所が保全命令と同時かその直後に職権で監督命令を発令している。
 監督命令は、再生手続開始決定がなされた後にすることも可能であるが、多くは、その前の段階で監督命令を発令する。その理由は、再生手続開始申立の棄却事由の調査と、再生債務者の業務遂行や財産の管理処分の適正を期すためである。監督命令を発令する場合、裁判所は監督委員の同意を得なければ再生債務者がすることができない行為を指定する。裁判所は、監督委員の同意を通して間接に再生債務者の業務の遂行や財産の管理を監督するのである。詳細は各論でする。
 監督委員は、特に法律上資格に制限はないが、再建型倒産処理に経験を有する弁護士の中から選任しているのが実情である。

(6) 保全管理命令
 「裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、再生債務者(法人である場合に限る。)の財産の管理又は処分が失当であるとき、その他再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、再生債務者の業務及び財産に関し、保全管理人による管理を命ずる処分をすることができる。」(79)
 保全管理命令は、DIP型再建手続である民事再生法の場合は少なく、大規模な再生事件か債権者申立の場合などに例外的になされていると思われる。
 「保全管理命令が発せられたときは、再生債務者の業務の遂行並びに財産の管理及び処分をする権利は、保全管理人に専属する。」(81) すなわち、保全管理命令は、再生債務者から業務の遂行並びに財産の管理及び処分をする権限を奪ってしまうからである。なお、保全管理人は、それまで再生債務者が有していた業務遂行及び財産の管理処分の権限を何の制約もなく有するのではなく、保全管理人が常務に属さない行為をするには裁判所の許可が必要になる(81)。この場合、常務とは、再生債務者が行う通常の業務という意味である。保全管理人が裁判所の許可を得ないで、再生債務者の常務に属しない行為をした場合は、その無効となるが、ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない(81)ことになっている。保全管理人の資格も制限はないが、実務では監督委員同様、経験を有する弁護士が選任されている。
* 監督命令、管理命令、保全管理命令は登記事項。監督委員の要同意事項も商業登記簿に登記される。

(7) 取下制限
 民事再生法の制定とともに廃止された和議法の時代に、和議の申立をし、開始決定前の保全処分を得た債務者が、その後和議の申立を取下げ、債権者からの請求に対しては、その保全処分を理由に支払を拒むという濫用が多くなされていた。民事再生法は、そのような濫用を許さないこととし、申立の取下に制限を設けた。再生手続開始の申立てをした者は、原則として、再生手続開始の決定前に限り、申立てを取り下げることができるが、前述の保全処分、中止命令、包括的禁止命令、監督命令、保全管理命令等(その他134の2@の否認権のための保全処分や197の住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認められたときの抵当権の実行手続の中止等)がなされた後は、裁判所の許可を得なければ取下げができないことになっている(32)。自由に取下を認めると再生手続に対する信頼を損ねてしまうからである。取下が許可されない場合は、いずれ再生手続開始の申立は棄却され、通常は破産手続開始決定がなされる(250)。
 濫用の恐れがない場合は、取下げが許されるが、実務上は、再生手続開始の申立の棄却が免れないような事案において、早期に破産手続に移行させるため、自己破産を申立てたときに再生手続開始申立の取下げを許可しているようである。
 取下げの許可が出されない場合は、再生手続開始の申立が棄却され、破産原因があれば破産手続に移行するであろう。

(8) 共益債権化の許可
 再生手続開始の申立に実体法上の効果はなく、開始決定がなされるまでは、取引先に特別の保護は与えられない。再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で共益債権または一般債権であるものを除いたものは、再生債権とされる(84)ので、再生手続開始の申立をした後再生手続開始決定までに生じた債権は全て再生債権となり、保護されないことになる。それでは再生手続開始の申立をした再生債務者と取引をする取引先は、その地位が極めて不安定となる。そのため、「再生債務者または保全管理人が、再生手続開始の申立て後再生手続開始前に、資金の借入れ、原材料の購入その他再生債務者の事業の継続に欠くことができない行為をする場合には、裁判所は、その行為によって生ずべき相手方の請求権を共益債権とする旨の許可をすることができる。」ことにした(120)。
 弁護士の中でも、この理を知らず、申立をした後に生じる債権は、全て共益債権となると誤解をする者もいた。気をつけなければならない点である。実務上は、120条2項により、裁判所の許可に代わる承認権限が監督委員に付与し、監督委員が承認を行いその旨を裁判所に報告(規55)をしているのが実情である。
 
(9) 第1回の債権者説明会の開催
 再生債務者等は、再生債権者に対し、再生債務者の業務及び財産に関する状況又は再生手続の進行に関する事項について説明するため、債権者説明会を開くことができることになっている(規61。  他に規1A)が、実務上は早期の情報開示と再生手続への債権者の協力を得るため、申立直後に第1回の債権者説明会が開催されている実情にある。この席では、再生債務者の再生申立に至った経緯、業績、資産・負債の状況等が決算書類を提示してなされるのが通常であり、事案によっては、将来の再生計画案の素案も開示される。その時点で監督委員が選任されている場合は、監督委員がオブザーバーとして出席することも多いし、その監督委員がその場で、債権者の意向を聴取する場合もある。なお、再生債務者等とは、「管財人が選任されていない場合にあっては再生債務者、管財人が選任されている場合にあっては管財人をいう。」(2)のである。
 通常、債権者説明会では、申立書の抜粋・保全処分のコピー、比較貸借対照表・損益計算書(過去3期分程度)、非常貸借対照表(直近の月次決算書程度)、清算貸借対照表、今後の取引条件の案内(締め日と請求書の送付方法、支払時期、方法)再生手続進行のフローチャート等が配布される。
 また債権者の関心が強い、少額弁済の基準や弁済時期を決めておくことも必要。
 なお、裁判所は、再生手続開始決定後、財産状況報告集会(126)をほとんど開かないので、再生債務者等の方で再生手続開始決定後、再生計画案ができた頃第2回目の債権者説明会を開くことが望ましい。
 私が監督委員として臨んだ債権者説明会で、弁護士である申立代理人が決算書の開示もせず、事実に反する金額を記載をした財産目録を提示する等不誠実な態度をとる等した者がいた。その件は、再生手続開始申立が棄却になったが、民事再生は、多くの債権者の犠牲の上で再生債務者の再生を図るだけに、再生債務者のみならず、役員、従業員、申立代理人も、全て誠実かつ正直に再生手続に臨むべきである。そうでなければ、モラルハザードを起こしてしまい、ひいては再生制度の信頼をなくしてしまうおそれがある。
 債権者には事件に関する帳簿の閲覧・謄写の権利があるが、一定の制限もある(16)。

 裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合には、当該申立てを棄却すべきこと又は再生手続開始の決定をすべきことが明らかである場合を除き、当該申立てについての決定をする前に、労働組
  合等(再生債務者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組
  合、再生債務者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合がないときは再生債務者の使用人その他の従業者の過半数を代表する者をいう。)の意見を聴かなければならない。


3,開始決定・申立棄却決定
(1) 再生手続開始の申立に対しては、監督委員や調査委員の調査を経、開始決定がなされるか再生手続開始の申立が棄却されることになる。民事再生法は、できるだけ再生手続開始決定を出し、再生債務者の再生の機会を多く作る目的で、再生手続開始決定は25条に定める4項目の棄却事由がない限り、再生手続開始の決定をすることになっている(33)。棄却事由は次の4項目である。
 1号 再生手続の費用の予納がないとき。
 2号 裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。
 この規定は、倒産処理手続の優先順位39@が絶対的なものではないこと、倒産処理手続が債権者の利益のための性格を有することを表している。
 3号 再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。
 事業再生の見込みの実体的内容については実質的な審査の対象外とし、手続的な側面を審査の対象にしたもの。再生手続の迅速な開始を認める規定である。法172の3@で、再生計画案を可決するには、議決権者の過半数の同意と、議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意」が必要であるから、大口債権者が破産手続を求めて再生手続に協力しない旨を明確にしている場合は、再生計画案の可決の見込みがないというべきであろう。
 4号 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
 債権者申立で、取下げを条件に再生債務者に情報を求める場合などが考えられるが、破産回避の目的の場合はどうか?旧和議法は申立棄却事由としていたが、再生手続開始申立には破産回避を意図したものと言えるので、破産回避目的を棄却事由とするべきではない。
 実務上で、物品販売業者が在庫処分の時間稼ぎのため再生手続開始を申立たと疑われる事案もあった。再生手続が開始すると再生債権者は権利の行使ができなくなる。この間に、在庫商品がすべて処分されると、再生債権者は損害を受ける。むしろ、破産手続で早期に在庫商品を処分して債権者への弁済にあてた方がよい場合がある。

    1ないし4号の棄却事由は、かなり限定的であり、多くの事案では棄却事由がないとされ、再生手続開始決定がなされている実情にある。棄却事由で問題となるのが、3号など、再生計画の履行の見込ではなく、再生計画案作成の見込であり、かなり限定的である。

(2) 裁判
  • @ 再生手続開始申立に対し、開始決定をなすか、棄却決定をなすのであるが、棄却事由がない場合、裁判所は再生手続開始決定をするのが義務である。これは、最も重要な裁判の1つである。そのため、再生手続開始決定は、決定書(裁判書)を作成してなされる(規17)。ただ、この開始決定には、理由の記載は求められていない。実務上は、手続開始原因があり、棄却事由は認められないとの簡単な理由で開始決定がなされている。この決定書には、決定の年、月、日、時が記載される。時間まで記載するのは、開始決定が決定時から効力を生ずる(33A)からである。その時を境に債権が再生債権になるか共益債権になるかの分かれ目になるからである。開始決定は決定時から効力を生ずるが、即時抗告は可能である(36)。
  • A 効力発生の時期
    再生手続開始決定の効果は、決定時から生ずる(33A)。再生手続開始決定が取り消され、その決定が確定したとき(抗告審での取消決定、原裁判所の再度の考案)は、開始決定の効果は遡及的に消滅することになるが、この規定で、開始決定から取消決定確定までの間に再生債務者等がした行為の効力は有効であると考えられている。
  • B 再生手続開始決定や申立棄却決定は裁判である。再生手続に関する裁判は、通常の判決手続とは異なり、決定手続で行われ、口頭弁論はなく(任意的口頭弁論)裁判所は職権で必要な調査をすることができる(職権探知主義)(8)。これまで、述べてきた中で、開始決定または棄却決定以外にも、多数の裁判がなされている。保全処分・他の手続の中止命令、包括的禁止命令なども裁判である。手続開始決定以後においても再生計画認可・不認可、手続の廃止、再生債権の査定、損害賠償請求権の査定など、これらは裁判であり、任意的口頭弁論とされているのである。その理由は何か?
    また、裁判では、弁論主義ではなく職権探知主義を採用しているが、何故か?そして、再生手続に関する裁判は、決定の形式でおこなわれるから、その裁判は相当と認める方法で告知するのが原則となる(民訴119)が、民事再生法ではその裁判の内容の重要度に応じて、個別に裁判の告知方法が定められている。再生手続に関する裁判の告知方法は
    • @送達と公告が要求されているもの(包括的禁止命令など)
    • A送達をしなければならないもの(仮差押えなどの保全処分)
    • B送達されるが公告で送達に代えることができるもの(強制執行などの中止命令など)
    • C公告と通知を要するもの(再生手続開始決定など)
    • D告知方法の規定がないもの(費用の予納決定など)に分けられる。
  • C 再生手続に関する裁判に対する不服申立方法は、即時抗告に限られるが、即時抗告を認める特別の規定がある場合に限って即時抗告ができることになっている(9)。ただし、裁判の中では、再生債権の査定の裁判や損害賠償請求権の査定の裁判などの不服申立として、通常の判決手続である異議の訴えが規定されているものがあり、その場合はそれによらなければならない。
    即時抗告期間は、裁判の公告がなされている場合は、裁判の公告が官報に掲載された翌日から起算して2週間であり(9)、裁判の公告をしない場合は、裁判の送達または告知を受けた日の翌日から起算して、1週間である(18)(18,民訴)。この場合、送達に公告がなされた場合は、公告があった場合の即時抗告期間となる。即時抗告がなされた場合、常に抗告裁判所(高等裁判所)が審理しなければならないものではなく、原裁判所が即時抗告状を受理した後、再度の考案によっ公告に理由があると認められるときは、自ら更正することもできる(18、民訴333)。

(3) 必要的同時処分
    裁判所は、再生手続開始の決定と同時に、再生債権の届出をすべき期間及び再生債権の調査を
  するための期間を定めなければならない(34@)。知れている再生債権者の数が千人以上であり、か
  つ、相当と認めるときは、裁判所は、通知をしなかったり、債権者集会(再生計画案の決議をするため
  のものを除く。)の期日に呼び出さない旨の決定をすることができる(34A)。

(4) 任意的同時処分
    この他、裁判所は、認否書の提出期限、法124の財産目録・貸借対照表、法125の報告書の提
  出期限、再生計画案の提出期間の終期が定め、法125条による再生債務者の業務と財産管理状況
  を報告することが同時に定められている。その他、一定の付随処分がなされる(35)。

(5) 開始決定の効力
@ 開始決定には弁済禁止の効果がある(85)。これに違反してなされた再生債権の弁済や債務消滅行為は再生債権者の善意、悪意を問わず無効となる。また、違反行為がなされたときは再生計画の不認可事由になることがある(174)。ただし、「再生債務者を主要な取引先とする中小企業者が、その有する再生債権の弁済を受けなければ、事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるときは、裁判所は、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者等の申立てにより又は職権で、その全部又は一部の弁済をすることを許可することができる。」(85A)、また、「少額の再生債権を早期に弁済することにより再生手続を円滑に進行することができるとき、又は少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すときは、裁判所は、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者等の申立てにより、その弁済をすることを許可することができる。」(85D)ことになっている。前者は、中小企業の連鎖倒産を防止する趣旨、後者は、少額債権の弁済に関する規定である。
 何故このような例外規定が設けられたのか?
 また、前述の申立後開始決定前の債権で共益債権化の許可(またはこれに代わる監督委員の承認)を受けたものも除外される。共益債権や一般優先債権は、随時弁済をしなければならない(121.122)ものであるから、これも弁済禁止の対象にはならない。 これらについては、各論で、問題点を指摘し、詳述する。

A 「再生手続開始の決定があったときは、破産手続開始、再生手続開始若しくは特別清算開始の申立て、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等又は再生債権に基づく財産開示手続の申立てはすることができず、破産手続、再生債務者の財産に対して既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続及び再生債権に基づく財産開示手続は中止し、特別清算手続はその効力を失う。」(39@)。中止の場合、その効力は手続の停止であるから、事後の手続は進められても無効となるが、開始決定時点までに既になされていた手続の効力は維持されることになる。中止された手続でも、手続の続行を命じる場合がある(39A)。この場合、手続で目的物が換価されても、債権者は換価による金銭を自己の債権に充当することはできない(弁済は再生計画でのみなされる。85)。再生債務者等もその引渡を求めることができない。この引渡を求めるためには取消決定によって手続の効力を消滅させる必要がある。
 中止ではなく取消を命ずることもできる(39A)。取り消された手続は遡って無効となる。それにより、再生債務者等は目的物を自由に取り戻したり換価することができる。続行命令も取消命令もないまま、再生計画認可決定が確定すると、手続開始によって中止されていた手続は失効する(184)。法律の規定はないが、この場合、再生裁判所は再生債務者の財産を処分する際には抹消登記の嘱託はできるものと解される。

B 他の倒産手続きへの影響他の倒産手続きは、再生手続に優先する手続は更生手続だけであるから、再生手続が開始されると、それに劣る破産、特別清算は無論、同じ新たな再生手続もできなくなる。既に開始されていた破産手続は中止され、既に開始されていた特別清算手続は失効する(39@)。破産手続が失効でなく中止になるのは、民事再生手続が失敗したとき職権で破産手続に移行させる(250)必要があるからである。この中止された破産手続は再生計画認可決定の確定で失効する(184)。再生債務者の財産関係の訴訟は、中断する(40)。これは、再生手続における債権の調査、確定を優先させるためである。また再生債権に関する行政庁に係属する事件も中断する(40B)。これは、行政手続きは訴訟手続とは違って、中断してこれを再生債権確定訴訟に転用することはありえないが、中断効を認め、再生手続が終了した後、受継すべきだとしたものである。再生債権に関しない財産上の訴訟や、一般優先債権に関する訴訟、行政庁に係属する手続は中断しない。債権者代位訴訟、  詐害行為取消訴訟、先行する破産手続における否認訴訟はいずれも中断する(40の2@)。破産とは異なっているが、債権者代位訴訟と詐害行為取消訴訟は、再生債権者が提起したものに限られ中断するものであり、共益債権や一般優先債権が提起した訴訟は、中断の対象とはならない。この点、破産手続と違っているのはなぜか?
 

4,言葉の意味
疎明
 訴訟手続上、裁判官が当事者の主張事実につき、一応確からしいという程度の心証を抱いた状態、又は裁判官にその程度の心証を得させるために当事者がする行為。証明に対する。
証明
訴訟手続上、裁判官が事実の存否につき確信を得た状態、又は裁判官にその確信を得させるために当事者がする行為をいう。疎明に対する。
管轄
国又は公共団体の機関が、その取り扱う事務につき地域的、事項的、人的に限界付けられている範囲をいい、「権限」とほぼ同義
弁論主義
訴訟法上、審判の基礎となる事実及び証拠等の訴訟資料の収集を当事者の権能又は責任に属させる立法の立場。職権探知主義に対する。民事訴訟法では、基本原理として採用され、手続面でも厳密に貫かれている。
職権探知主義
民事訴訟等において、当事者の弁論に拘束されないで職権で事実の探知及び証拠調べを行う立場。弁論主義に対する。
共益債権
再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権、再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権等法119条、その他の条文で規定された債権で、再生債務者等が、再生手続によらないで、随時弁済を要するもの。
一般優先債権
法122で、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)をいう。一般優先債権も、再生手続によらないで、随時弁済されるもの。
 目次 次へ

ナビゲーション

専門家Webガイド マイベストプロ岡山

無料法律相談のお知らせ

    

事務所のご案内

【所在地】
〒700ー0807
岡山県岡山市北区南方1丁目8番14号

【業務時間】
平日 9:00〜18:00
土曜 9:00〜12:00
TEL 086-231-3535
FAX 086-225-8787


アクセスマップはこちら

携帯サイト

http://www.kikuchi-law.jp/m/
バーコードリーダーの機能を搭載している携帯電話で、QRコードを読み取り携帯サイトへアクセスしてください。
http://www.kikuchi-law.jp/m/