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民事再生法講義 第3回

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<民事再生法講義 第3回

第3回講義再生債務者及び再生手続開始決定の効果


一 再生債務者
1,再生債務者の定義「再生債務者とは、経済的に窮境にある債務者であって、その者について、再生手続開始の申立てがされ、再生手続開始の決定がされ、又は再生計画が遂行されているものをいう。」(2)とされているので、再生手続開始の申立をした後の債務者は再生債務者と呼ばれる。再生計画が遂行されている期間(弁済期間の満了)までを含む、広義の再生手続の全過程において債務者が再生債務者と呼ばれるのである。 なお、ここに広義の再生手続と書いたのは、法2条で定める「再生手続」の定義が「次章(第2章)以下に定めるところにより、再生計画を定める手続をいう。」とされており、再生計画を定めるまでが「再生手続」とされているので、これを狭義の再生手続、民事再生法が定める手続の全過程を広義の再生手続と呼ばれているのである。

2,再生債務者等の定義
 民事再生法の規定には、主人公が再生債務者ではなく、再生債務者等である場合が多いが、「再生債務者等」とは、「管財人が選任されていない場合にあっては再生債務者、管財人が選任されている場合にあっては管財人をいう。」(2)とされている。再生債務者は、再生手続が開始された後も、業務遂行権限と財産の管理処分権限を有している(38@)。しかし、管理命令が発令され管財人が選任されると、再生債務者の業務遂行権限と財産の管理処分権限は管財人に移ってしまう(38B)。したがって、再生債務者等とは、再生債務者の業務遂行権限と財産の管理処分権限を有する者を指す言葉である。

3,再生債務者の地位と権限
(1) 原則
 民事再生法が、会社更生法と大きく異なる点は、民事再生法がDIP型再建処理手続であることは既に述べた。そのため、再生債務者が法人で特別の必要性がある場合に管財人が選任されるという例外的な場合を除いて、再生債務者は、業務遂行権限と財産の管理処分権限を失わない(38@)。
 しかし、再生債務者は「再生手続が開始された場合には、・・・債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う」(38A)。いわゆる、公平・誠実義務である。そのため、再生債務者は多くの場合、裁判所からその行為に制限が課せられることになる(41@)。

(2) 要許可事項
 裁判所は、再生手続開始後において、必要があると認めるときは、再生債務者等が次に掲げる行為をするには裁判所の許可を得なければならないものとすることができる(41@)。そして民事再生法は、要許可事項とするものを、例示している。その内容は、財産の処分・財産の譲受け・借財・双方未履行の双務契約の解除・訴えの提起・和解又は仲裁合意・権利の放棄・共益債権、一般優先債権又は取戻権の承認・別除権の目的である財産の受戻しであるが、例示以外でも「その他裁判所の指定する行為」を要許可事項とすることができる。
  要許可事項の指定は、裁判所の裁量で決められるが、実務では、この要許可事項の指定をせずに、監督委員を選任して監督委員の要同意事項にしているのが実情である。
  再生債務者が「許可を得ないでした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。」(41A)ことになっている。この場合、第三者とは再生債務者以外のものをいい、行為の相手方などをいう。第三者は善意であれば足り、善意について過失の有無は問われない。
 要許可事項について少し詳しく説明する。
  • @ 財産の処分・財産の譲受け
     「財産」とは、動産・不動産・有価証券・債権等一切の財産的価値を有するものをいう。営業も財産に含まれると解されるが、営業等の譲渡は42によって当然に裁判所の要許可事項とされている。
     「処分」とは、売却、贈与、交換等の譲渡行為、担保権の設定、貸与、廃棄、放棄を含む。ただし、財産の処分・財産の譲受けに該当するものであっても、再生債務者の通常の営業の範囲内にあるものならば、いちいち裁判所の許可を要するとする必要はないばかりか、それを要するとすれば、営業の支障を来しかねないので、「常務に関するもの」を除外したり、「重要なもの」「一定の金額以上のもの」についてのみ要許可事項とするなどに限定されるのが通例である。
      「譲受け」は有償取得を意味し、無償取得は含まない。
  • A 借財
     金銭の借入れのことである。借財は共益債権である(119.5号)。破産手続に移行したときは財団債権になる。手形の割引行為は手形の売買と構成することも可能だが、実質的には借財であるので、要許可事項となる。大阪地裁は監督命令を発令する際、裁判所の許可に代わる監督委員の要同意事項を特定する記載中、「借財」に加えて「手形割引」が念のため明記されており、東京地裁では「金銭の借入れ(手形割引を含む。)」と記載されている。
     借財は金銭の多寡にかかわらず要許可事項である。
  • B 双方未履行の双務契約の解除
     再生手続開始後再生債務者等は双方未履行の双務契約を解除するか履行の請求をするかの選択権を有する(49@)が、解除は再生債務者の事業に大きな影響を与えかねないため要許可事項とされている。
  • C 訴えの提起・和解又は仲裁合意
     勝訴の見込み、和解内容の妥当性の判断や確認等のため、要許可事項とされている。支払督促や保全処分も、実質的には訴えの提起と同視できるのでこれに含まれる。和解は裁判上の和解、裁判外の和解を含むので、取引上の値引きもこれに含まれる。
  • D 権利の放棄・共益債権、一般優
     先債権又は取戻権の承認・別除権の目的である財産の受戻し財産の減少行為であったり、その危険があるので、要許可事項とされている。
  • E その他その他裁判所の指定する行為
     再生手続の廃止または再生計画不認可の決定後は、再生債務者の監督強化のため、これが追加される場合があると思われる。

(3) 要同意事項
  • @ 裁判所は、監督命令を発令する場合には、監督委員を選任し、かつ、その同意を得なければ再生債務者がすることができない行為を指定しなければならない(54A)ことになっている。要許可事項は「再生債務者等」に向けられたものであるが、監督委員が選任される事案では管財人の選任がなされることはないので、当然ではあるが、「要同意事項」は「再生債務者」に向けられたものである。
     監督委員の要同意事項の指定は、裁判所が監督命令を発令し、監督委員を選任した以上は、必要的な行為とされている。ただ、どの行為を要同意事項として指定するかは裁判所の裁量に任されており、法律上は明示もしていない。実務では、裁判所の要許可事項として例示されている事項を中心に指定がなされている。要同意事項を多くして監督を強化すると、再生債務者の経営の自由を縛ることになるし、要同意事項を少なくすると、事案によって監督が不十分になるおそれがあるので、実務上は、再生計画認可決定までは監督を厳しくし、それ以後は監督を緩めているようである。
     いずれの場合も、再生債務者が通常の業務に関してする行為(常務と言われる行為)は、要同意事項から除外され、前述の要許可事項である、財産の処分・財産の譲受け・借財・双方未履行の双務契約の解除・訴えの提起・和解又は仲裁合意・権利の放棄・共益債権、一般優先債権又は取戻権の承認・別除権の目的である財産の受戻しのほとんどが要同意事項とされている。なお、指定された要同意事項の内容は、登記の嘱託がなされる(11A)。公告は必ずしもする必要はないが(55@)、公告される場合もある。
     ところで、再生債務者が、裁判所から監督委員の要同意事項として指定されている行為を監督委員の同意を得ないで行った場合の効力はどうなるかであるが、これも、要許可事項の場合と同様、無効とされ、この無効は善意の第三者には対抗できないこととされている(54C)。善意について過失の有無は問われない。
  • A 行為制限の期間
     大阪地裁では、再生計画の認可決定があった後は、重要な財産の処分と譲受け、と、多額な借財についてのみ要同意事項とし、再生手続の廃止または再生計画不認可の決定後は、その後の破産手続開始決定までの間の財産保全の必要上、それまでの要同意事項に加えて、常務にあたる行為や債権の取り立てまで要同意事項としているが、再生手続の廃止または再生計画不認可の決定後は、破産手続開始前の保全処分として保全管理人を選任する方法が効果的である。
(4) 要報告事項
 裁判所は、監督委員が選任されている場合において、必要があると認めるときは、再生債務者について、監督委員への報告を要する行為を指定することができ(規22@)、再生債務者は、要報告事項をしたときは、速やかに、その旨を監督委員に報告しなければならない(規22A)。
 大阪地裁では、従業員の給与改定や賞与等の支給、解雇、退職金の支給、再生債務者の組織変更、監督委員の要同意事項として指定された行為のうち常務行為であることを理由に同意が不要となったもの、その他裁判所が指定する行為が、要報告事項とされている。

(5) 《論点》 再生債務者の第三者的地位についてー公正・誠実義務の内容(1)
 再生手続が開始されたとき、再生債務者は、管財人が選任されていない限り、債権者に対し、公平かつ誠実に業務遂行・財産管理をする義務を負う。(38A)。この規定は、単なる訓示規定であるのか、実体法上一定の法的効果を発生させるものであるのか、が論点になる。すなわち、この規定によって、再生債務者は破産手続における破産管財人や更正手続における管財人と同じような第三者的地位に立つかどうかについて議論である。多数説は、再生債務者は、再生手続開始決定後、それまでの地位から第三者的地位に変容するに至ったと考える。この点に関する判例はない。
 多数説の根拠は、
  • ア 再生債権者は、再生手続開始により、個別的な権利行使が禁止されること(85@)
  • イ 再生債務者は、双方未履行の双務契約の履行と解除の選択権が認められていること(49 これは破産管財人や更生管財人と同じ権限)
  • ウ 相殺制限がなされていること、
  • エ 否認対象行為の中に、対抗要件取得行為が含まれていること(129)は、再生債務者が第三者あることが前提になっていること
  • オ 再生債務者が再生手続開始前に債権を譲渡していたが、対抗要件を備えていないときは、開始決定後債権譲受人は、右譲渡の効力を再生手続で主張できないものと解されていること、
  • カ 管理命令が発令された場合は、再生債務者の業務遂行権・財産の管理処分権は管財人に専属し、管財人は破産管財人や更生管財人と同様の第三者に立つので、管理命令の有無によって、第三者性の有無を分けるべきではないこと
である。
 少数説の根拠は、
  • ア 否認権については再生債務者自身による行使を認めず、監督委員により行使しなければならないとしていること(135@)
  • イ 再生手続上の機関に対する裁判所の一般的監督権を定める規定(57.63.78.83)が、再生債務者に対する関係では存在しないこと
  • ウ 実質的に見た場合、再生債務者が第三者的地位にあるとすれば、通謀虚偽表示の場合、民法94は、「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。2前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」 とあるので、債権者の中に1名でも善意の者がいれば、相手方は再生債務者に対して無効を主張できなことになり、不当であること。また、詐欺の場合も同じ問題があり、詐欺の被害者は、債権者の中に1名でも善意の者がいれば、詐欺した当の相手方である再生債務者に対し、取消の意思表示ができないことになり、不当であること、
 等である。

(6) 再生債務者の公平・誠実義務(2)
 再生債務者の公平・誠実義務により、再生債務者に機関性を認める多数説に立っても、個別の規定に違反するのではないが、公平・誠実義務に違反する場合、再生債務者の行為は無効になるのか?との争点がある。
 すなわち、再生債務者が法30Eや85@に違反して特定の再生債権に弁済したり、41@や54Aに違反して要許可事項もしくは要同意事項に違反して許可もしくは同意を得ないで行為をしたり、45に違反して開始決定前の原因に基づき開始決定後に対抗要件を具備させた場合は、それぞれの条文の規定によりその効力が否定されるが、これらの規定に抵触するのではないが公平・誠実義務に違反する行為があった場合に、その行為を無効としうるか?
 例えば、「再生手続開始後、再生債権につき再生債務者財産に関して再生債務者の行為によらないで権利を取得しても、再生債権者は、再生手続の関係においては、その効力を主張することができない。」(44@)との規定があるが、再生債務者の行為によって再生債権に関して権利を取得した場合に、これを無効とする、との規定はない。しかし前者が無効とされるなら、後者も無効にしないとバランスがとれないので、再生債務者の公平・誠実義務違反を理由に無効となると考える考えがある。この場合、相手方の善意悪意にかかわらず無効になるとの見解、相手方が悪意の場合のみ無効になるとの見解があるが、公平・誠実義務に違反する行為そのものの外延が明確でないこと、再生債務者の行為を裁判所の許可もしくは監督委員の同意にかからせることができること、監督委員の要同意事項は登記されること等を理由に、抽象的な公平・誠実義務違反を理由に無効とするべきではないとの見解もある。

4, 再生債務者代理人
 再生債務者の代理人は、会社更生事件の管財人や破産管財人に比肩しうるほどの働きをしている。
 責任も大きく、監督委員に対し、法59条1項2号で、説明義務が課せられてる。2項で代理人でなくなった者についても説明義務がある。違反すれば258で罰則規定がある(17年改正法で新設)。
 再生債務者の代理人が弁護士の場合、弁護士法23条、弁護士倫理20条で守秘義務が課せられている他、刑法134条の適用も受けるが、いずれを優先させるかについては争いがある。事案毎に検討すべき微妙な問題を含んでいる。


二 再生手続開始決定の一般的な実体法的効果
1, 開始決定の一般的効果
 再生手続開始決定後、再生債務者は、管財人が選任されない限り、業務の遂行・財産の管理処分権を失わないが(38)、再生債権者の持つ再生債権は棚上げされ、再生計画で権利の内容が変更された後でないと弁済を受けることができなくなる(85)。また、再生債権に基づく強制執行等の申立てはできなくなる(39)。
 再生手続開始決定は、いわば再生債務者の財産に対し全債権者のために包括的差押えをしたのと同じ効果を付与した。
 この原則を認めないと、再生債務者の事業継続に不可欠な設備や運転資金が失われてしまい、倒産者の財産の保全や事業の継続等は到底できないことになるからである。
 これに違反してなされた再生債権の弁済や債務消滅行為は再生債権者の善意、悪意を問わず無効となる。
 ただし、「再生債務者を主要な取引先とする中小企業者が、その有する再生債権の弁済を受けなければ、事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるときは、裁判所は、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者等の申立てにより又は職権で、その全部又は一部の弁済をすることを許可することができる。」(85A)、また、「少額の再生債権を早期に弁済することにより再生手続を円滑に進行することができるとき、又は少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すときは、裁判所は、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者等の申立てにより、その弁済をすることを許可することができる。」(85D)ことになっている。前者は、中小企業の連鎖倒産を防止する趣旨、後者は、少額債権の弁済に関する規定である。
 また、前述の申立後開始決定前の債権で共益債権化の許可(またはこれに代わる監督委員の承認)を受けたものも弁済することができる。共益債権や一般優先債権は、随時弁済をしなければならない(121.122)ものであるから、これも弁済禁止の対象にはならない。
 以上の他、再生手続開始決定により、実体法上の権利関係が大きく変容する。

2, 再生手続開始決定後の再生債務者等の行為によらない権利取得
  • Q1 小売商B社は問屋A社から商品を購入する目的で代金の先払いをした後で、問屋A社に再生手続開始決定がでた。その後B社は第三者C社からB社所有の商品を受け取った。B社は有効に所有権を取得しうるか?
 法44@は、「再生手続開始後、再生債権につき再生債務者財産に関して再生債務者(管財人が選任されている場合にあっては、管財人又は再生債務者)の行為によらないで権利を取得しても、再生債権者は、再生手続の関係においては、その効力を主張することができない。」と定める。
 この規定は、再生債権者の地位を開始決定で固定し、その後の事情で再生債権者間の平等が害されることを防ぐ趣旨とされている。
ただ、実務上は、この規定が適用されることは少ない、と言われている。考えられることは、再生債権者である代理商が、再生債務者に帰属すべき物の占有を再生手続開始後に取得しても、再生手続の関係では商事留置権を主張し得ないことや、根抵当権者が再生手続開始後に再生債権を譲受けても、当該再生債権が被担保債権にならないこと等が事例として挙げられている。
 この要件の一である「再生債権につき」を欠く場合は、本条の適用外であり、再生手続開始後取得しても、再生債務者に対し権利を主張しうる。具体例としては、時効取得、第三者からの即時取得、付合・加工による権利取得などである。
 なお、「再生手続開始の日に取得した権利は、再生手続開始後に取得したものと推定する。」(44A)との権利取得時期に関する推定規定があり、立証責任が転換されている。

3, 再生債務者の行為による権利の取得
  • Q1 小売商B社は問屋A社から商品を購入する目的で代金の先払いをした後で、問屋A社に再生手続開始決定がでた。その後A社はB社にその商品を引き渡した。B社は有効に所有権を取得しうるか?
 このケースでは法44の適用は受けない。「再生債務者の行為によらない」権利の取得ではないからである。しかし、法85@「再生債権については、再生手続開始後は、この法律に特別の定めがある場合を除き、再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。」の適用を受け、無効になると解される。
 再生債務者が再生手続開始決定後、再生債権者に対し、担保を設定したり、再生債権者に財産を譲渡する行為は、裁判所の許可法41@やそれに代る監督委員の同意54Aの規制の対象になるから、相手方が善意でない限り、有効にはならないケースがほとんどと思われるが、このような規定、つまり85@、41@。54Aもしくは次に述べる45@が適用されないケースで、再生手続開始決定後再生債務者の行為による権利の取得の効力を認めるかどうかについては争いがある。
 無効説は、再生債務者の公平誠実義務を根拠とする。無効説にも相手方が善意である場合に限る説、善意悪意を問わず無効になるとの説があるが、法の明文の根拠がないのに無効とすることは疑問である。

4, 再生手続開始決定後の登記の効力
  • Q1 不動産業者Aにつき再生手続開始決定がなされたが、その前にAから不動産を購入して登記手続に必要な書類を得ていたBは、再生手続開始後その書類を使って所有権移転登記手続をした。
     AはBに対し不動産の返還と所有権移転登記の抹消登記手続を請求できるか?
  • Q2 Bが再生手続開始決定前にすでに仮登記をしていた場合はどうか?
 法45@は、「不動産又は船舶に関し再生手続開始前に生じた登記原因に基づき再生手続開始後にされた登記又は不動産登記法105条1号の仮登記は、再生手続の関係においては、その効力を主張することができない。」と定める。この規定は、登録等にも準用されている(45A)。したがって、Q1のケースでは、BはAに対し不動産の取得を主張することはできないことになるので、AはBに対し不動産の返還と所有権移転登記の抹消登記手続を請求できることになる。
 では、Q2のケースはどうか?
 Q2は、再生手続開始前に不動産登記法105条1号仮登記がなされている場合であるので、45@の場合ではないので注意を要する。1号仮登記というのは、登記をする実体的な要件は満たされているが、登記手続の要件不備のため本登記ができないための仮登記のことである。登記申請に必要な書類が準備できていないので、とりあえず仮登記をしたと考えれば分かりやすい。この場合は、45@の適用を受けないので、BはAに対し再生手続開始決定後でも仮登記に基づく所有権移転登記手続請求ができるので、Aの請求は認められない(破産法49や会社更生法56で争いがあるが、判例・通説)。再生手続開始決定前になされた仮登記が不動産登記法105条2号仮登記(本登記ができる実体的要件が満たされていない場合の請求権保全の仮登記)については、争いがある。原則無効だが、開始前に2号仮登記がありしかも本登記の要件が具備されていれば、そのときに限り1号仮登記と同じ効力を認めるべきであるとの説がある。
 ただし、2号仮登記が仮登記担保法による仮登記である場合は、常に別除権として扱われる(仮登記担保法19B「再生債務者の土地等についてされている担保仮登記の権利者については、民事再生法中抵当権を有する者に関する規定を適用する。」)ので仮登記担保法による本登記手続の請求ができる。
 なお、再生手続開始後に本登記や仮登記をした場合でも、本登記や仮登記の際にBが再生手続開始を知らなかった場合も、本登記手続の請求ができる(@ただし書き)。
なお,@開始後の手形の引受け等に関する46条の規定や、A善意・悪意の推定に関する47条の規定、B共有物の不分割の合意がある場合でも、再生手続開始後は、再生債務者等は分割の請求ができる48条の規定等も、再生手続開始による、民事実体法規定の変容である。

5,双務契約への影響
  • Q1,ゴルフ場会社A社が再生手続開始決定を受けた。A社は会員のBとの間のゴルフ会員権契約を、ゴルフ場を利用させる債務と会費支払債務とが双方未履行の契約であるとして契約を解除した。有効か?
  • Q2,仮にA社が契約の履行を選択した場合,Bは預託金の返還を共益債権として請求できるか?
 (1) 双務契約とは何?
 「双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、再生債務者等は、契約の解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」(49@)これが「双方未履行の双務契約」の問題である。」
 Q1の答は、49@によりA社は契約の解除と履行の請求が選択できるので解除をすれば有効となる。Q2のケースは、A社がBに対し「再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求」したケースであるが、49Cで「再生債務者の債務の履行をする場合において、相手方が有する請求権は、共益債権とする。」ことになっているので、再生債務者の債務である預託金の返還債務はBの共益債権になるか?という問題である。ところで共益債権となる相手方の債権は、再生債務者の債権とは同時履行の関係にあるか給付拒絶の関係にある債権をいうのであるから、A社の会費支払請求権とBの預託金の返還請求権は同時履行の関係にはなく、したがって、Bの預託金返還債権は共益債権ではなく、たんなる再生債権でしかない。A社が履行を選択した場合、相手方である会員Bは会費を支払ってゴルフ場を利用しうる権利は認められるだけである。

 双方未履行の双務契約に関する法制度は破産法53.54にもあり、会社更生法にもあるが、この制度をどう理解すべきかについて、破産法上見解の対立がある。
 多数説は、双務契約の債務の牽連性・担保性を手続開始後も保護する必要性と迅速な破産手続の終結の必要性による制度であると考える。
 不利な契約の拘束からの解放を目的とした解除権を認めたものとの見解もある。
 (2) 「未履行」には、一部は履行済みの場合も含まれるが、本質的な債務は履行済みであり、付随的な債務のみが未履行の場合は、再生債務者等の選択権は認められない。
 最判H12.2.29は、「年会費の定めのある預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合に、破産管財人が会員契約を解除すると、破産財団側は、殊更解除に伴う財産的な出捐を要しないのに、ゴルフ場経営会社は、ゴルフ場施設を常に利用し得る状態にしておかなければならない状況に変化がないまま、据置期間内の預託金の即時返還を強いられることとなり、両者の均衡を失しており、同会社が右不利益を破産法60条(現破産法54条)により回復することは困難であり、年会費支払義務が会員契約において付随的なものに過ぎないなどの事情の下では、右解除により同会社に著しく不公平な状況が生じることとなることから、破産管財人は、同法59条(現破産法53条)1項により会員契約を解除することができない。」と判示した。

(3) なお、この規定を『再生債務者の第三者性』の発現形態という説がある。この説によれば、再生債務者の第三者性は再生債務者の公平・誠実義務に基づくものであるから、再生債務者等が双方未履行の双務契約を解除するか、履行をするかの選択権の行使は、恣意的なものであってはならず、総債権者の利益に資するかどうかを基準に判断しなければならない、と説く。そのため、解除を裁判所の許かわらずあまりに不当な選択がなされた場合は、再生債務者が法人の場合は、財産の管理処分が失当であるとして(64@)管理命令がなされることもある、と説く。

(4) 相手方の催告権
 法49Aは、「前項の場合には、相手方は、再生債務者等に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することがでる。この場合において、再生債務者等がその期間内に確答をしないときは、同項の規定による解除権を放棄したものとみなす。」と規定する。催告に対し確答しない場合は、民事再生法では解除権の放棄が擬制され、破産法では逆に解除が擬制せられる。

(5) 相手方の請求権
 法49Cは、「第一項の規定により再生債務者の債務の履行をする場合において、相手方が有する請求権は、共益債権とする。」とされる。先履行の特約がない限り、相手方は、再生債務者等に対し同時履行の抗弁権の対抗ができる。
 契約の解除が選択された場合は、法49Dが準用する破産法54により、相手方は、損害の賠償について再生債権者としてその権利を行使することができる。前項に規定する場合において、相手方は、再生債務者の受けた反対給付が再生債務者財産中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について共益債権者としてその権利を行使することができることになる。
 損害賠償の請求については、信頼利益のみならず履行利益の喪失による損害も含まれる。
 * 重要な論点として、相手方の現状回復請求権を共益債権とする場合を限定するべきであると説く見解がある。相手方の現状回復請求権を共益債権とするのは、相手方に同時履行の抗弁権が認められているからであるので、相手方に同時履行の抗弁権がない場合まで、相手方の債権を共益債権とすべきではない、という見解である。
 具体的には、請負人である再生債務者が請負契約を解除した場合、注文者の前渡し報酬(のうち出来高部分を控除したもの)は、共益債権にすべきではないという見解である。解除権が、有利不利を考えて再生債務者等が選択できる特別の権限であること、原状回復請求権は再生債務者等がその特別の権能を行使したことにより相手方に認められる権利であること、契約の解除をされる相手方に帰責性はないこと、再生債務者等の解除か履行かの選択によって相手方の地位が大きく変わることは適当ではないことを理由に共益債権であることを否定すべきではないとの見解がある。

 (6) 倒産解除条項(約定解除権)の効力
 双方未履行の双務契約であるが、その契約条項中、一方当事者に破産・再生・更生等の手続開始の申立をしたときに、相手方当事者がその契約を解除しうるとする約定解除権を付けている例は多い(継続的商品売買契約、動産の所有権留保売買、ファイナンスリース契約等)が、このような約定は、49@の再生債務者等(破産の場合破産管財人、会社更生の場合管財人)の相手方に対する履行の請求の選択権を奪うことになり、無効となる、との見解がある。最判s57.3.30(民集36-3-484)は、会社更生法に関し、このような特約は無効であるとしている。
 倒産解除条項を担保権と位置づけて有効だとする見解もある。

6, 継続的給付を目的とする双務契約
  • Q メーカーA社が部品を継続的に納めていたB社に対し1月分の代金を未払にしたまま、再生手続開始決定を受けた。そこで、B社は再生手続開始後A社に対し部品の供給を拒絶した。許されるか?
(1) 法50@は、「再生債務者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては、再生手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。」と定めるので、Qの回答は許されない、ということになる。継続的給付を目的とする双務契約としては、この他に、電気、ガス、水道水等の給付契約や製作物供給契約、継続的な運送・清掃等の請負契約等がある。取引の相手方の履行拒絶権に制限を設けたものである。
 この規定の反対解釈として、
  • @申立後の給付については弁済をしていないと、開始後履行拒絶ができる。
     共益債権化の道があるから、実際例は少ないと思われる。
  • A申立後開始決定前の履行については、「申立て前の給付に対する弁済がないことを理由として」履行を拒絶することができるが、これも実際にはないであろうと思われる。
(2) 法50Aは、「前項の双務契約の相手方が再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、共益債権とする。」と定める。本来再生債権でしかないが、継続的給付が不必要に途絶しないようにしたものである。請求や弁済の便宜をはかってカッコ書きが定められている。

7,デリバティブ取引と一括清算ネッキング条項の有効性ー市場の相場がある商品の取引にかかる契約ー双務契約についての破産法58の準用(51)
  • Q1 商社であるA社は、外国の金融機関であるB銀行との間に市場性のある通貨スワップの契約を結んでいたが、再生手続開始決定を受けた。この通貨スワップによってA社には損害が出ている。
     B銀行はいかにすべきか?
  • Q2 上記通貨スワップ契約が市場性のない相対の契約である場合ではどうか?
(1) デリバティブ(derivative)は、「誘導的な」「派生した」という意味であり、デリバティブ取引とは伝統的な金融取引(借入、預金、債券売買、外国為替、株式売買等)から派生した、相場変動によるリスクを回避するために開発された金融商品の総称で、日本語では金融派生商品という。
 デリバティブ取引の特徴として、(1) 少額の資金で、多額の原資産を売買した場合と同じ経済効果が得られる、レバレッジ効果を持つ(このことは逆に多額の損失を受けるリスクになる。英国のベアリング社の例)。(2) 将来の取引を現時点で確定するので、リスクヘッジ効果を持つ。
 デリバティブ取引には、先物取引、オプション取引、スワップ(交換)取引などがある。
 先物取引とは、将来の定められた時点で、特定の商品(有価証券、長期国債、通貨、穀物などの農産物・石油などの鉱物等で、原資産という。)あるいは経済指標(為替レートや日経平均株価 = 日経225など)を、定められた数量、定められた価格で、売買することを約する取引である。この取引(取引を始めるとき建玉する、という。)は現物の授受で決済されることは少なく、多くの場合、期日までに反対売買を行い、買値より値上がりしている場合は差額を受け取り、値下がりしている場合は差額を支払うことで決済(手仕舞)される差金決済である。
 オプション取引とは、ある原資産について、あらかじめ決められた将来の一定の日または期間内に、一定のレートまたは価格(行使レート、行使価格)で取引する権利を売買する取引である。原資産を買う権利についてのオプションをコール、売る権利についてのオプションをプットと呼ぶ。オプションの買い手が売り手に支払うオプションの取得対価はプレミアムと呼ばれる。
 スワップ取引とは、あらかじめ決められた条件に基づいて、将来の一定期間にわたり、キャッシュフローを交換する取引である。金利を交換するスワップは、同一通貨のキャッシュフローを交換する取引で、固定金利と変動金利を交換する取引が代表的なものである。

 デリバティブ取引には、一般に一括清算ネッティング条項と言われる条項が付けられている。通常、一方当事者が再生手続開始等一定の信用悪化事由が発生したとき、通貨や履行期の違いにかかわらず当該取引上の一切の債権債務を差引計算して1本の債権または債務にする旨の条項を設けているが、この条項のことである。我国では1998年に制定された「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」で、同法上の特定金融取引の一括清算の有効性を認められたが、Q1のような外国の金融機関とのデリバティブ取引は対象となっていない。しかし、Q1の場合、民事再生法51が準用する破58Dは同法の適用を受ける金融機関以外の金融機関とのデリバティブ取引について一括清算条項の有効性を認めている。

(2) 破58は、「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約であって、その取引の性質上特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができないものについて、その時期が破産手続開始後に到来すべきときは、当該契約は、解除されたものとみなす。」と定めている。双務契約の一般原則の排除であり、破産手続開始により解除されたものとされるのである。この規定は民事再生法51条で準用されている。対象は、前述のデリバティブ取引である。
 このような契約につき再生債務者等に解除と履行の選択を認めると、相手方に不測の不利益を与えるのでそれを防止する趣旨である。「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約」の場合は、価格形成の場が客観的で公正であることが差額賠償を正当化すると説かれる。

 この規定はまた、基本契約で一方当事者について再生手続が開始したときに生ずる損害賠償の債権債務を差引決済する定めがあるときは、請求できる損害賠償の額の算定についてはその定めに従うこととし、再生手続上も、ネッティング条項に従って差引清算が適法に行われることが認められたのである。また、この規定は、再生手続開始時点での差額を賠償額とする点で、支払停止後の相殺を禁止する規定の例外となっている。Q1は、銀行は以上の法理により差額決済をしうるが、Q2の場合は、「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約」ではないため原則に戻って49@が適用される。ただ、現実には、金融機関が関係するデリバティブ取引は市場の相場がある商品の取引にかかる契約であるので、Q2のケースは考えられない。

8, 取戻権
  • Q1 B社はA社に対し機械を貸与していたが、A社はその機械をB社に無断でC社に売却し引き渡した。その後、A社につき再生手続開始決定がなされた。B社は、A社のC社に対する売買代金について何らかの権利を有するか?
(1) 法52@は、「再生手続の開始は、再生債務者に属しない財産を再生債務者から取り戻す権利に影響を及ぼさない。」と定める。これが取戻権と言われる権利である。
 取戻権は、所有権その他の物権に基づく引渡請求権(物権的請求権)で、物権的請求権は実体法上の権利である。物権であっても引渡請求権がないものは取戻権ではない。実体法上の権利には対抗要件の具備が要求される。第三者性からか、当然というべきか。したがって、債権的請求権は取戻権の根拠にならない。ただ例外として、再生債務者に属しない目的物の給付を求める債権的請求権は取戻権の根拠になるとされている。例えば、転貸借契約の解除による賃借人(債権者)から転借人(再生債務者)への返還請求権である。これが実体法上の権利である一般の取戻権であるが、民事再生法上の特別の取戻権もある。

(2) 特別の取戻権
ア)売主の取戻権( 法52条2項、破産法63条1項)
 売主が売買の目的である物品を買主に発送した場合において、買主がまだ代金の全額を弁済せず、かつ、到達地でその物品を受け取らない間に買主について民事再生手続開始の決定があったときは、売主は、その物品を取り戻すことができる。ただし、再生債務者等が代金の全額を支払ってその物品の引渡しを請求することを妨げない。この規定は、双務契約の規定の適用を妨げない。
イ)問屋の取戻権(破産法63条3項)
 物品の買入れの委託を受けた問屋がその物品を委託者に発送した場合について準用する。
ウ)代償的取戻権(破産法64条)
 取戻権の対象物がなく、取戻権の行使ができないときに関する権利である。
 法52条2項が準用する破産法64条は、「破産者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)が破産手続開始前に取戻権の目的である財産を譲り渡した場合には、当該財産について取戻権を有する者は、反対給付の請求権の移転を請求することができる。破産管財人が取戻権の目的である財産を譲り渡した場合も、同様とする。」と定め、2項で、「前項の場合において、破産管財人が反対給付を受けたときは、同項の取戻権を有する者は、破産管財人が反対給付として受けた財産の給付を請求することができる。」と定めている。

 Q1の問題はこのケースである。A社はC社に機械を譲渡しているので、B社は取戻権を行使できない。しかしC社はまだ代金をA社に支払っていない。譲渡の対価が未履行の場合、その請求権を取戻権の対象とし、再生債務者等のその請求権の移転を請求できる(請求権は当然に移転するものではない。)としているのである。そこでQの答は、B社はこの代償的取戻権を行使しうることになる。
 なお、再生手続開始決定のとき、その反対給付がすでにA社に支払われている場合は、B社は代償的取戻権の行使ができない。損害賠償請求権または不当利得返還請求権が再生債権になるだけである。しかし、再生手続開始決定後に再生債務者等が反対給付を受けている場合は、B社は、再生債務者等に対し反対給付として受け取った財産を取戻権の対象とすることができる。もし、それが特定できないときは、その価格相当額は不当利得として共益債権になる(法119条6号)。

9, 賃貸借契約
(1) 賃貸人の民事再生
  • Q1 不動産の賃貸人A社に再生手続が開始した。賃借人B社はA社に家賃1年分に相当する敷金を預けていた。また、建設協力金の名目で融資もしていた。B社が建物から退去する場合、敷金は全額返してもらえるのか?建設協力金はどうか?
  • Q2 手続開始後B社は不動産上の抵当権者であるC銀行の物上代位に基づきC銀行に賃料を支払っていた場合で結論が異なるか?
  • Q3 B社は建設協力金と賃料とを相殺することはできるか?
 動産の賃貸借の場合は、原則どおり再生債務者等に解除か履行かの選択権を認めても問題はないが、不動産の賃貸借については、賃借人保護の観点より、原則通りには認めることはできない。
 民事再生法51条が準用する破産法56@は、「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について再生債務者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には」双方未履行の双務契約に関する規定は適用しない、と定めているので、再生債務者等から建物賃貸借契約を解除することはできない。これにより不動産の賃借人は保護されることになる。

(1) 敷金請求権の保護
 民事再生法が準用する破産法56Aは「前項に規定する場合には、相手方の有する請求権は、財団債権とする。」としている。民事再生法では、この規定が準用される結果、相手方つまり賃借人の有する債権は共益債権ということになる。しかし、賃借人の有する敷金返還請求権はここでいう「相手方の有する請求権」つまり共益債権にはならないとされている。その理由としては、敷金契約は賃貸借契約とは別個の契約であることや、敷金返還請求権の発生が明渡時(通説・判例)であろうと賃貸借契約終了時であろうと、賃貸借契約終了後の権利を保護しすぎることは財団債権性と整合しないこと等があげられている。共益債権になる賃借人の請求権というのは賃借人の使用収益権や修繕費用請求権等、賃料債務と対価関係にある債権に限られる。
 しかし、民事再生法は、「再生債権者が、再生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務について、再生手続開始後その弁済期に弁済をしたときは、・・・敷金返還請求権は、再生手続開始の時における賃料の6月分に相当する額の範囲内におけるその弁済額を限度として、共益債権とする。」(92B)とした。
 本来敷金債権は再生債権でしかないが、敷金債権の保護の必要性、破産手続では敷金を入れた賃借人が賃料を弁済する場合は後日の相殺に備えて弁済額の寄託を請求できるところ、寄託制度を有しない再生手続においてこれと経済的に同様の保護を賃借人に与える必要があること等が根拠になっている。

 Q1の答は、賃借人が、再生手続開始後に契約通りに賃料を支払っている場合、その金額を上限にして、再生手続開始の時における賃料の6月分に相当する額の範囲内の金額が共益債権となるだけで、それを超える敷金返還請求権は一般の再生債権になるのすぎない。建設協力金は再生債権でしかない。
 Q2の答は、Q1の答と同じ。

(2) 賃料債権を受動債権とする賃借人からの相殺
 改正前の民事再生法では再生手続開始時における当期及び次期の賃料の範囲でしか相殺が認められなかったが、賃借人の相殺に対する期待の保護の必要性から、もっと広く相殺を認めるべきであるとの要請があり、しかしそうかと言って、賃貸人の賃料収入はしばしば事業継続の基礎になるのであるから破産手続の場合におけるより、相殺を制限すべきであるとの要請もあり、賃借人は、「再生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務については、再生手続開始の時における賃料の6月分に相当する額を限度として・・・相殺をすることができる。」(92A)とされた。
 相殺できる自動債権は弁済期の到来したものでないといけないので、敷金債権では相殺ができない。敷金以外の債権で相殺することになる。その場合、敷金の有無は無関係になる。再建型の倒産処理手続では、賃貸目的財産の収益の確保は事業の再生のために重要であること等のために総額を画したものとされている。この規定は敷金がある場合もない場合も適用される。Q3の回答は、この限度で相殺が可能である。

(3) 賃料債権の処分および賃料前払いの効果
 平成16年の民事再生法が改正されるまでは、賃料債権の処分については厳しい考えがあった。これを安易に認めると、詐害的な賃料債権の処分がなされ、所有と収益の長期にわたる分離が生ずることの弊害が指摘されていたのである。しかしながら、将来債権の譲渡が資金調達の手段その他のために広く認められるようになったことや、処分の制限が賃料債権の証券化の妨げになるとの指摘を受け容れて、これが改正(準用していた旧破産法上の規定の廃止)になり、この結果、賃料債権の処分や賃料の前払いは、再生手続との関係では無制限に効力が認められることになった。

(4) 賃借人の民事再生
 一般原則に従う。

10,ライセンス契約でライセンサーにつき再生手続開始決定がなされた場合
  • Q1 A社はゲームソフトのプログラム開発業者で、B社はA社とライセンス契約を結んでゲームソフト・パッケージを製造し販売している。A社に再生手続開始決定がなされた後、A社はこのプログラム著作権をC社に販売するために、B社に対し法49@によりライセンス契約を解除した。有効か?
 法51が準用する破産法56@は、「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について再生債務者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には」双方未履行の双務契約に関する規定は適用しない、と定めているが、この規定は、なにも不動産の賃貸借に限定されない。「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約」には、ライセンス契約も含まれる。特許権についての通常実施権、商標権についての通常使用権等について、第三者対抗要件を具備しておればライセンス契約について再生手続が開始された場合であっても、再生債務者等(ライセンサー)の解除権は制限される。しかし、プログラム著作権のライセンスには、現在のところ、対抗要件なる制度はない(今後立法化されると思われる。)。したがって、A社は法49@で解除が可能となる。

 しかし、そうするとライセンシーであるB社は経営上大打撃を受けるかもしれない。最判H12.2.29は、破産管財人が双方未履行の双務契約を解除しても破産財団側は殊更解除に伴う財産的な出捐を要しないのに、その相手方は多大な負担をや義務を負うことになり両者の均衡を失し解除により相手方に著しく不公平な状況が生じることとなる場合は、破産管財人は、同法59条(現破産法53条)1項により契約を解除することができない。と判示しているので、このような場合は、A社から解除が出来ない場合もあると思われる。

11,労働契約・労働協定
(1) 使用者の民事再生
  • Q1 再生債務者であるA社は、事業の債権のために人員整理が必要であると考え、Bらを解雇した。
     有効か?また、Bらの予告手当や未払給与や退職金は保護されるのか?社内預金はどうなるのか?
  使用者について民事再生手続が開始された場合には、再生債務者等(使用者またはその管財人)は、49@の一般原則に基づいて労働契約を解除できるが、解雇に際しては労働基準法上の強行規定すなわち解雇制限、解雇予告期間および解雇予告手当が適用される。解雇予告手当に係る請求権は、共益債権となる(119A)。
 労働者が有する未払賃金請求権や退職金請求権は、一般先取特権が生ずる範囲では、再生手続との関係では、一般優先債権となり、また、この場合、労働協約の適用がある。法49条3項によって、労働協約は49@の一般原則による解除ができないこととされている。再生債務者等には、従業員の整理解雇の必要性がある場合は、整理解雇の一般原則(労基法18の2。判例上いわゆる四要件ー人員整理の必要性があること・従業員の解雇を回避する努力をしたこと・解雇基準が合理的であること・従業員及び労働組合に対する説明協議義務を尽くしたことーが要求される。)に従うことになり、民事再生手続の開始があったことで解雇が当然にできるわけではない。解雇が可能である場合の打ち切り保証(労基法19@)や解雇予告手当は、共益債権となる。
 再生手続開始前の解雇や、退職による退職金債権は、一般優先債権であるから、手続外で随時弁済が受けられる。再生手続開始後の解雇や、退職による退職金債権の性質は、@全部が一般優先債権、A全部が共益債権、B手続開始前の労働に対する部分が一般優先債権で、手続開始後の労働に対する部分が共益債権という3通りの考え方が可能であるが、いずれにしても手続外で全部の弁済を受け得るという点では変わりはない。

 従業員の社内預金の処遇は、会社更生とは異なっている。社内預金(労基18AないしF)は、労働契約から直接生じるものではなく、従業員と使用者の間の消費寄託契約である。社内預金は、賃金の支払い確保などに関する法律3条で、金融機関による保証などの保全処置が要求されているが、保全措置が執られていない場合もある。社内預金は、会社更生法では、その一部が共益債権化されるが、民事再生では、そのような規定はない。社内預金が強制的なものであるときは無効(労基法18@)で、その返還請求権が民法308条8項、一般先取特権の非担保債権となる雇用関係から生じた債権であることは争いがないが、社内預金が任意的な貯蓄性を有する場合には、雇用関係から生じた債権に該当するかどうかについて争いがある。これに該当すると考える説は、一般優先債権となり、該当しないと考える説では、再生債権となる。任意的な社内預金の取り扱いは、実務では、否定説従って再生債権説で運用されているようである。

(2) 被用者の民事再生
 原則どおり認められる。

12, 請負契約
  • Q1 建設会社であるA社に再生手続開始決定がなされた。A社はB社との間に建物建築請負契約を締結していたが、採算が合わないので、手続開始後49@により解除した。有効か?この場合、B社がA社に支払っていた前払い金はどうなるのか?
 請負人に再生手続が開始されたときは、再生債務者等は49@の一般原則により、契約の維持、解除いずれもできるが、解除が選択されたときは、すでにした仕事の結果は注文者に帰属し、前渡報酬から出来高相当部分を控除した額について、注文者は共益債権を有することになる(49D破54A)。
 これを再生債権とすべきであるとの見解がある。

 注文者に再生手続が開始されたときは、再生債務者等は一般原則により、契約の維持、解除いずれもできるが、解除が選択されたときは、すでにした仕事の結果は再生債務者に帰属し、請負業者の報酬・必要経費は再生債権となる。


13,共有関係
  民法では5年を超えない期間の不分割の合意を有効としているが、民事再生法では、「再生債務者が他人と共同して財産権を有する場合において、再生手続が開始されたときは、再生債務者等は、共有者の間で分割をしない定めがあるときでも、分割の請求をすることができる。」(48@)とされ、ただ、この「場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って再生債務者の持分を取得することができる。」ことになっている(48A)。
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