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民事再生法講義 第5回

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<民事再生法講義 第5回

第5回講義 担保権・財産評定等


第一 担保権者の処遇
  一 別除権制度

1,趣旨
 倒産法制で、担保権をどう取り扱うかは、立法政策の問題であるが、会社更生法では、担保権を手続内にとりこみ更生担保権とした。民事再生法や破産法では、手続内に取り込まず、別除権とし、「別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。」(53A)ものとした。担保権を別除権とした最大の理由は、手続構造を単純化するためである。もし、民事再生法でも担保権を手続内にとりこもうとすれば、当然すべての担保目的物について評価の手続が不可欠になるし、また議決についても一般再生債権者と担保権者の組分けの必要が生ずる。その場合は、評価に関する争いが生じ、債権者集会のあり方を複雑にし、手続を重くすることになり、主として中小企業を対象にした簡易迅速な手続として構想された再生手続と矛盾することになる。そこで、民事再生法では、担保権については、必要最小限度の規制に止め、基本的には、再生債務者と担保権者との権利調整は合意ベースに委ねることにしたのである。しかし、ここに民事再生法の脆弱性があることは否定できない。

2,別除権の内容
(1) 典型担保
 法53@は、「再生手続開始の時において再生債務者の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう)を有する者は、その目的である財産について、別除権を有する。」と定める。
 特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権は典型担保と呼ばれる。
    別除権の対象となる財産は、動産、不動産、債権、その他の財産権のいずれでもよい。なお、従来は再生債務者等が占有する動産担保権の実行手続が困難であった(旧民執190・再生債務者等が任意に動産を引き渡すか差押承諾文書を差し出す場合に限って実行が可能とされていた。)が、平成15年の民執法の改正で、裁判所の許可に基づく動産担保権の実行が可能になった。

(2) 非典型担保
 実定法に規定のない担保である、譲渡担保、所有権留保などの非典型担保は、立法技術上法文化できないため、53@に規定されていないが、非典型担保については、担保毎に、実体に即して、典型担保に関する規定が類推適用される、と解されている。
 まず仮登記担保権であるが、仮担法19Bは「再生債務者の土地等についてされている担保仮登記の権利者については、民事再生法中抵当権を有する者に関する規定を適用する。」とされ、別除権として扱われる。
  譲渡担保について、最判は、別除権として扱っている。債権や動産や手形やゴルフ会員権などの譲渡担保、実務上多い。破産では、別除権。会社更生法では更生担保権、民事再生法でも別除権が通説。所有権留保は実務上、自動車や動産の割賦販売契約が多い。他の非典型担保も原則として別除権として扱うべきであろう。その場合、中止命令や担保権消滅請求の対象になるものと解される。リース契約は、双方未履行契約か別除権かで争いがある。
(3) リース契約
@ 最高裁H7.4.14判決は、更生事件で、いわゆるフル・ペイアウト方式によるファイナンス・リース契約により、リース物件の引渡を受けたユーザーにつき、会社更生手続開始決定があった場合、未払いのリース料債権は、その全額が更生債権となるとしたので、再生手続においても、フル・ペイアウト方式によるファイナンス・リース契約のリース料債権は、共益債権ではなく再生債権として扱い、リース会社がリース物件の所有権を留保しているものについては、非典型担保として別除権の扱いをするのが相当である。
A リース契約における担保の対象
 リース契約における担保の対象はリース物件そのものではなく、リース物件を契約期間中利用できる地位(利用権)であるとされている(利用権質入説)。したがって、再生手続開始前にリース料の未払を理由にリース契約が解除されている場合は、担保目的財産(利用権)そのものが消滅しているので、当然に担保権消滅請求の対象にはならないことになる(大阪地判H13.7.19)。
 なお、リース契約において担保消滅請求ができるかどうか、争いがあるが、この点はその際に解説する。

3,別除権の要件
  • ア 再生債務者財産上の担保権
    • 被担保債権は再生債権である必要はない。
    • 物上保証の場合も別除権
    • 再生債務者に対する債権のため、第三者が担保提供をしている場合は別除権とはいわない。第三者の担保や保証債務は再生手続とは無関係に権利行使ができる。
    • 物上保証の場合も別除権
    • 再生債務者に対する債権のため、第三者が担保提供をしている場合は別除権とはいわない。第三者の担保や保証債務は再生手続とは無関係に権利行使ができる。
        
  • イ 担保権は再生手続開始当時、再生債務者財産の上にあればよい、その後、再生債務者財産からなくなっても、別除権者はその財産の上に別除権を有する。再生債権額を計算する場合、不足額責任主義を貫徹
  • ウ 対抗要件
    • 具備が必要
    • 実務上、担保権の対抗要件の具備を留保するケースは多い。
    • 債権譲渡の場合、債権譲渡特例法が利用される。

 4,別除権の権利行使
 「別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。」(53A)こととされている。
 会社更生法では、担保権は更生担保権とされ、更生手続の中でしか権利行使が認められないのに対し、民事再生法では、同じ担保権が別除権として、手続外で権利行使が許される。
 別除権者は、担保権本来の行使ができる。法定担保権は、民事執行法による。民事執行法以外の法律にも規定があれば、それによることも可能(動産質についての簡易充当方法(民354)、債権質についての直接取立(民367)などがある。譲渡担保や所有権留保は、非典型担保であり、規定がないので、設定契約で合意された内容による。特別の先取特権である動産売買の先取特権は、動産の売買代金と利息につきその動産の上に存する担保権で、その財産の売却等によって債務者が受けるべき金銭等について、その払渡し前にこれを差し押さえることで物上代位もできる(民304)。実務上、事実上不可能だった方法が平成15年の民事執行法の改正で可能になった方法がある。これは売掛金債権を有する債権者が、売り渡した動産が債務者財産のにあるときは、民執法190.192の先取り特権の実行としての差押えと競売、動産がすでに転売されていたときは転売債権が未払のときは、民193の転売代金債権に物上代位。先取特権は対抗要件というものはない。しかし、債務者について破産手続が開始(当時は破産宣告)された後でも、権利行使が可能−最判S59.2.2民集38巻3号431頁、転売代金が債務者に弁済されてしまった後は、先取り特権は効力を失う(民333)破産法では動産先取特権の行使は多いが、民事再生法では少ないのが現実

5,別除権協定
 別除権協定は、再生債務者等と別除権者との契約である。内容は、一般には、
  • 担保目的物の評価額を一括又は分割して弁済する。
  • これに金利をつける。特に分割弁済の場合金利をつけることが多い。
    この金額は、一種の共益債権になるので、金利をつけること、弁済期間が10年を超えることも可能になる。
  • 被担保債権額のうち、担保価額を超える金額は、再生債権として再生計画に従い弁済を受ける。
  • 別除権協定が効力を有する間は、別除権の実行をしない。
というものである。
 実務では、このような担保権者との間に別除権で担保される債権について弁済協定を結ぶ、いわゆる別除権協定というものが結ばれているが、これは、別除権の目的の受け戻しに関する協定と考えられるので、裁判所の許可もしくは監督委員の同意を得なければならない。ただし、再生計画認可後は、要同意事項にならない扱いが多いようである。
 この場合、この協定にもとづく支払債務は、共益債権(119D)となるので、再生手続によらず随時弁済をすることができる。
 これとは反対に、担保物件の引き揚げ(別除権の行使)がなされた場合には、別除権の行使によっても回収されなかった債権額が権利行使をしうる再生債権として再生計画によって弁済される。
  同じファイナンス・リース契約でも、オペレーティング・リース契約、特にリース会社が物件の修繕、整備、または補修の義務を負うメンテナンス・リース契約に基づいて引渡を受けたリース物件を再生債務者が引き続き使用する場合には、開始後のリース料債権は、49条4項により共益債権となる。
 
6,別除権者の手続参加 (1) 別除権そのものではなく、別除権者の再生手続の参加要件別除権者は、別除権そのものは再生手続によらないで行使することができるが、別除権によって担保された被担保債権は再生債権であるから、別除権の行使によって満足を受けない再生債権については、再生計画で権利の変更をしてもらい弁済に与るようにしてもらう必要がある。
 別除権によって担保された被担保債権が、再生手続に参加できるのは、@別除権の行使によって弁済を受けることができない債権が確定した場合、または、A当該担保権によって担保される債権の全部又は一部が再生手続開始後に担保されないこととなった場合は、確定した再生債権、または、担保されないこととなったの部分についてのみ、再生債権者として、その権利を行うことができる(88)。
 Aの「当該担保権によって担保される債権の全部又は一部が再生手続開始後に担保されないこととなった場合」とは、別除権の実行の外は、
  • ア 担保権の全部又は一部の放棄
  • イ 合意による確定(前述の別除権協定)がある。
(2) 登記の必要性
 担保権の放棄や合意による再生債権の確定により、「当該担保権によって担保される債権の全部又は一部が再生手続開始後に担保されないこと」になる場合、その旨の登記を要するかが争いになっている。
  • @ 担保権が抵当権の場合、例えば、被担保債権が1億円、担保物権の評価額が7000万円であることを前提に、別除権協定により、7000万円については分割弁済、3000万円については再生債権として再生計画に従った弁済を受けるとの合意ができた後、抵当権設定登記の被担保債権額を1億円から7000万円に変更しないまま、被担保債権が全額第三者に譲渡されたとき、再生債務者等は、この抵当権の被担保債権は1億円ではなく7000万円であることを第三者に対抗できるか、という問題である。
     抵当権が、その随伴性により、債権とともに第三者に移転するが、しかし、抵当権には、公信力がないので、抵当権の被担保債権額は7000万円であるとして登記不要との説がある。しかし、抵当権の放棄は、復帰的物権変動にあたり、登記なくして第三者に対抗できないと考える説もある。理論上前者の説に与するが、登記をそのままにしていることで、執行裁判所や後順位抵当権者が誤解し、第三者が二重取りをする危険があることを理由に登記必要説を唱える考えもある。
  • A 担保権が根抵当権である場合、根抵当権は、破産手続の場合と違って、再生手続開始決定は元本確定の理由になっていないので、元本確定前に被担保債権が譲渡される場合がある。しかし、この場合は、根抵当権に随伴性がないため、被担保債権の譲受人は根抵当権を取得しないので問題は生じない。しかし、根抵当権も、担保権消滅の許可申立書の送達を受けた時から二週間を経過したときは、根抵当権の担保すべき元本は確定する(148E)。また、その他の理由でも確定する。問題は、根抵当権の元本が確定した後、被担保債権が第三者に譲渡されたときにどうなるか、である。前述の例で、確定した債権1億円のうち、7000万円を被担保債権とするとの別除権協定を結んでも、根抵当権が特定の債権を担保するものでないだけに、被担保債権は特定できないという問題がある。
     根抵当権の極度額を変更しておけば、これらの問題も解決する、と思われるので、少なくとも根抵当権については登記を要するというべきではないか、と思われる。
二 担保権の実行中止命令
 別除権は、再生手続によらないで、行使することができる(53A)が、裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、相当の期間を定めて、53@に規定する再生債務者の財産につき存する担保権の実行手続の中止を命ずることができる。ただし、その担保権によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権であるときは、この限りでない(31@)。
 これが担保権の実行中止命令である。この規定の趣旨は、(ア) 再生債務者等に担保権者との別除権協定の合意の機会を確保することや担保権消滅請求までの時間的余裕を与えることで、一時的に中止をするだけ。この中止命令は再生手続開始の前後を問わず可能。開始前の保全処分とは性格が異なる。中止命令は中止のみで、取消命令は出来ない。抵当権の実行として賃料の物上代位による差押執行手続も中止命令の対象になるが、中止命令の効果は、当該執行手続を進行させないという効果しかなく、差押えに係る弁済禁止の効果は消滅しないので、再生債務者は賃借人から賃料の回収はできない。
 中止命令は、その担保権によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権であるときは、この限りでないが、共益債権や一般優先債権が被担保債権になるのは、納税の猶予を受けて抵当権を設定した場合等で、実務上はあまり活用されていない。


 三 担保権消滅請求の許可
1,再生手続開始の時において再生債務者の財産につき53@に規定する担保権が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるときは、再生債務者等は、裁判所に対し、当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる(148@)。当該財産の価額は再生債務者等が決めた金額(申出額という)でよい。
裁判所は、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであると判断すれば、消滅の許可をする。不服がある場合は、ア 事業の継続に欠くことのできないものであるとはいえないとの判断で許可されない場合は再生債務者等から即時抗告をすることができる。(148C)イ価額について不服がある場合−担保権者は、申立書に記載された申出額について異議があるときは、当該申立書の送達を受けた日から1月以内に、担保権の目的である財産について価額の決定を請求することができる(149@)。
 この場合、申立担保権者は、手続費用を予納しなければならない。
 担保権者からの価額決定の請求後は、裁判所は、評価人を選任し、その評価に基づいて決定で価額を定める。
  • (ア)  この評価人の評価は、その財産の処分価額である(規79@)。
  • (イ)  価額決定は、全担保権者に対しても効力を有する(150C)。
  • (ウ)  費用については、公平の観点から、裁判所の決定により定められた価額が、申出額を超える場合には再生債務者の負担とし、申出額を超えない場合には価額決定の請求をした者の負担とする。ただし、申出額を超える額が当該費用の額に満たないときは、当該費用のうち、その超える額に相当する部分は再生債務者の負担とし、その余の部分は価額決定の請求をした者の負担とする等の細かい規定がある。


@ 価額の確定・・・再生債務者等の申出額か、価格決定による金額で確定するが、その後は、再生債務者等は、確定した金額を、裁判所の定める期限までに裁判所に納付しなければならない(152\@)。そして、担保権者の有する担保権は、金銭の納付があった時に消滅し(A)金銭の納付があったときは、裁判所書記官は、消滅した担保権に係る登記又は登録の抹消を嘱託しなければならない(B)。そして、再生債務者等が第一項の規定による金銭の納付をしないときは、裁判所は、許可を取り消さなければならない(D)ことになる。その後、金銭の納付があった場合には、配当表に基づいて、担保権者に対する配当がなされる(153@)。
この担保権消滅請求の許可は、再生計画認可後でも申立は可能.。

2, 消滅の対象となる担保権の範囲
 典型担保が消滅請求の対象になることは明文上明らかである(148.53)。仮登記担保についても明文がある(法19B)。問題は、非典型担保であるが、一般には、消滅請求の対象になることに異論はない。いわゆるフル・ペイアウト方式によるファイナンス・リース契約についても判例(大阪地裁H13.7.19判決)は担保権消滅請求の対象になることを認めている。しかしながら、フル・ペイアウト方式によるファイナンス・リース契約については、担保目的財産はリース物件の所有権ではなく利用権であり、担保権の実行は、リース契約の解除の意思表示によってなされ、担保権の実行をすると、リース物件の利用権はリース会社に移転して混同により消滅するというのが判例(東京地裁H16.2.27判決)の立場であり、担保権者としては再生手続開始決定後であっても、担保権を別除権として再生手続を無視して実行できることから、再生債務者等としては担保権消滅請求は実際上できないことになる。
 すなわち、再生債務者等が担保権消滅請求をしようとすれば、リース権者のリース契約解除の意思表示をする前でないとならないが、これは容易ではない。仮に担保権の実行中止命令を得て担保権者消滅請求をしようとしても、担保権の実行中止命令を発令する場合は法31Aの類推で事前にリース権者の意見を聴かなければならない、とされているので、リース権者は中止命令が発令される前に、リース契約解除の意思表示をすることが可能になる。かくては、事実上、再生債務者等としては担保権消滅請求は実際上できないことになるのである。そこで、フル・ペイアウト方式によるファイナンス・リース契約の担保目的財産は所有権であるとした上で、仮登記担保法2条1項の清算期間内の権利移転の制限を類推適用し、清算金の見積額ないし清算金なしとの通知が届いてから2月を経過しなければ担保権の実行は完了しないとの試論が示されている。
第二 再生手続開始決定後、再生債務者等がすべきこと
 一 財産評定

 1,財産評定
 再生債務者等は、再生手続開始後(管財人については、その就職の後遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならない(124)。これが財産評定である。

 2,財産評定の目的
 財産評定の第1の目的は財産状況の正確な把握にある。再生債務者は損失の先延ばしなどをしている場合もあり、通常の会計処理基準に基づき財産の見直しをし、除却損、貸倒損失を計上して水ぶくれ部分をそぎ落とし、粉飾決算は解消する必要がある。
 財産評定の第2の目的は清算価値の把握にあり、これが本来の目的である。裁判所は、再生計画の決議が、再生債権者の一般の利益に反するときは、再生計画不認可の決定をするものとしている(174A4号)が、再生計画による弁済計画が、この清算価値を保証しない場合は不認可事由となる。つまり再生計画による弁済は、清算価値が保障されたものでないとならないのである。これを清算価値保障原則という。財産評定は、「財産を処分するものとしてしなければならない。」と定めた規56@はこのことを意味する。この処分価額は、強制競売の場合とは異なり、特別の減価を行わない通常の処分価額である。これによって作成されるのが非常貸借対照表である。
 なお、清算価値保障原則を満たす財産評定の時期はいつの時点か?という議論がある。再生手続開始決定時という説と、再生計画認可時で良い場合があるという説がある。理論的には再生手続開始時であろうが、実務的には後者に与したい。
 民事再生の場合(会社更生の場合も同じ)、第3の目的として、帳簿上の財産の価額と実際の価値との差を、評定損(法人税法でいう評価損)として損金処理することをあげることが出来る。これは再生計画によって再生債権の一部につき免除を受けたときに生ずる免除益が生じたときに、課税問題を発生させない重要な意味を持つ。また、民事再生法や会社更生法では、第4の目的として、財産評定の結果は、事業譲渡や担保権消滅請求、あるいは別除権協定の際の資料としうることをあげうる。このように民事再生における財産評定は多面的な目的があるが、破産における財産評定の目的は配当財産の規模及び予想配当率についての資料を得ることだけで、それ以上の意味はない。

3, 継続企業価値の評定
 前述のように、財産評定は、財産を処分するものとして行うことが原則であるが、「ただし、必要がある場合には、併せて、全部又は一部の財産について、再生債務者の事業を継続するものとして評定することができる。」(規56@但書き)。
 例えば、事業の全部または一部を組織的・有機的一体として第三者に事業譲渡することが予定されている場合に、当該譲渡の対価を検討するための資料とするため、当該譲渡対象となる事業に属する財産を事業を継続するものとして評価する場合である。なお、法43@の、事業の譲渡に関する株主総会の決議に代る裁判所の許可(代替許可)をなし得る要件としての債務超過は、この企業継続価値(ゴーイング・コンサーンバリュー)にもとづいて行わなければならないと解されている(東京高決H16.6.17)。)

 4,評定の時期
 評定の時期は、再生手続開始後遅滞なく、管財人の場合は就任後遅滞なく、行うことになっている。裁判所は、必要があると認めるときは、評価人を選任して再生債務者の財産の評価を命ずることができる(124の3B)。これは、再生債務者等による適正な財産評定を間接的に担保することを目的とする。評価人による評価は、財産目録及び貸借対照表の閲覧が、再生計画認可または不認可の決定が確定するまで許されていること(規64@)に照らし、同時期まで可能と解するべきである。

 5,財産評定の効果
(1) 債務超過の場合の効果
 財産評定の結果、再生債務者が債務超過であることがわかったときは、再生債務者の営業の全部または重要な一部の譲渡を、株主総会の決議による承認に代わる裁判所の許可によって実行できる(43@。ただし、当該事業の全部の譲渡又は事業の重要な一部の譲渡が事業の継続のために必要である場合に限る。)。また、裁判所の許可を得て、再生計画において資本減少に関する条項を定めることができる(154A、166@A)。また、裁判所の許可を得て再生計画において募集株式を引き受ける者の募集に関する条項を定めることができる(162.166の2AB)。このように再生債務者が債務超過に陥った場合は、裁判所の許可だけでこれらのことができるが、債務超過に陥っているか否かは財産評定の結果に基づいて判断されることになる。
(2) 予定不足額
 別除権者は、別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分について(予定不足額)のみ、再生債権者としてその権利を行うことができる(88)が、その額は、財産評定の結果に従って認否することになる。
(3) その他
 別除権者と合意して別除権の目的の受け戻しができる(この合意を別除権協定という。)が、財産評定の結果が受け戻しの基準となる。ただし、不足額が確定していない再生債権については、配当が留保され、再生計画において、その権利の行使に関する的確な措置を定めることが必要となるが、この場合、財産評定の結果は再生債務者、再生債権者ともに拘束するものではない。再生債務者等の行う担保権消滅の許可の申立における、担保権の目的の価額についても財産評定による価額が目安となる。
 事業全部または重要な一部の譲渡を行う場合には、その譲渡価額については、前述のように、事業を継続するものとして評定した金額が基準となるが、事業譲渡財産の一部に担保目的物が含まれているときは、その目的物の価額が処分価額であり、事業継続の前提とした価額との差額は暖簾として再生債務者の一般の財産に含まれることになる。
 このように、財産評定の結果が債務超過の判断、別除権の目的の価額の判断、ひいては別除権の受け戻し、別除権の不足額、担保権消滅請求における担保目的物の価額などの判断において機能することになる。

 6,再生債権者から見た財産評定
 再生債務者等は、前項の規定による評定を完了したときは、直ちに再生手続開始の時における財産目録及び貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出しなければならない(124A)。財産目録については会計の理論および慣行にもとづき作成されることになり、貸借対照表については、会社計算規則および財務諸表規則に準じて作成するものとされている。そして、財産目録及び貸借対照表には、その作成に関して用いた財産の評価の方法その他の会計方針を注記(規56A)しなければならない。
 再生債権者等の「利害関係人は、裁判所書記官に対し、・・・裁判所に提出され・・・た文書等の閲覧・文書等の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。」(16@A)
 裁判所は、一定の書類については閲覧制限をできる場合があるが、この財産目録と貸借対照表は閲覧制限ができない。
 規64@は、再生債務者等に事務所等での閲覧義務を定めている。
 このような手段を用いて、再生債権者は財産評定の権である財産目録や貸借対照表を閲覧・謄写をし、納得できない場合はどうするか?
 常識的には、監督委員へ、調査。検討を要請することになろう。また再生債務者等へ納得できないので再生計画案に賛成できないと言うであろう。それでも効果がないと思えば、裁判所に対し、「評価人を選任し、再生債務者の財産の評価を命ずること」を求めることになる。
二 財産目録と貸借対照表の作成と裁判所への提出
(1) 作成と提出義務
 再生債務者等は、財産評定を完了したときは、直ちに再生手続開始の時における財産目録及び貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出しなければならない(124A)。財産目録及び貸借対照表には、その作成に関して用いた財産の評価の方法その他の会計方針を注記するものとする(規52A)。
 正確性を担保する趣旨である。財産目録と貸借対照表は、財産評定を完了したときに直ちに提出するものとされているが、法125@の報告書と同時に提出することが多い。規64@Aの規定(再生債権者の閲覧、謄写の権利や再生債務者の備付け義務)もある。
(2) 会計及び税務との関連
 財産評定の結果について、会社更生法と民事再生法とでは異なる。会社更生法では、財産評定の結果が直ちに帳簿価額になるのに対し、民事再生法では、会計や税務との連動性はなく、再生債務者は財産評定に基づく財産目録や貸借対照表とは別に会社法施行規則に基づき、通常の貸借対照表を作成する必要がある。ただし、再生手続開始の決定における資産評価損の計上が法人税法上認められている。
計上時期は、次の2時点であるが、計上する内容が違ってくる。
@ 再生手続開始決定時に計上できるのは、評価損のみ。青色欠損金から算入し、不足部分があれば、期限切れ欠損金を算入する。法人税法33A・法人税基本通達9-5-5及び9-1-16が根拠
A 再生計画認可決定時に計上できるのは、評価損と評価益の双方である。これは期限切れ欠損金から優先して算入することになる。現行法人税法25B及び33Bの規定により、再生計画認可の決定における財産評定にもとづく資産評価損及び評価益の計上が認められるようになっている。
 法人税法25B及び33Bが根拠
法人税法33Aの場合、法人税法施行令68の2、法人税基本通達9-1-5(2)及び9-1-16(2)で、棚卸し資産と固定資産について、再生手続開始決定があったことにより、評価替えをする必要が生じた場合は、評価損の損金算入を認めている。有価証券や繰延資産についても同様と解されている。法人税法33Aに基づいて、再生手続開始における資産評価損を計上する場合、資産評価益の計上はできない。また、債務免除益は青色欠損金から算入される。
 これに対し、法人税法25B及び33Bの規定による、再生計画認可の決定における財産評定にもとづく資産評価損を計上する場合は、資産評価益のあるときはそれも必ず計上することを要し、また、債務免除益、私財提供益と資産評価損益の合計額は会社更生の場合と同様に期限切れの欠損金から優先して算入される。法人税法33Aに基づいて計上するか、25B及び33Bに基づいて計上するかは再生債務者の選択によるが、いずれかの方法しか選択できない。なお、清算価値として評価した場合に、その評価損の全部を当然に損金算入できるわけではない。


三 法125条1項に基づく報告
 再生債務者等は、再生手続開始後(管財人については、その就職の後)遅滞なく、次の事項を記載した報告書を、裁判所に提出しなければならない。
  • ア 再生手続開始に至った事情
  • イ 再生債務者の業務及び財産に関する経過及び現状
  • ウ 法人の役員の財産に対する保全処分又は役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判を必要とする事情の有無
  • エ その他再生手続に関し必要な事項
  • オ 裁判所の命ずる、再生債務者の業務及び財産の管理状況(2項)
 2項の報告書は、実務上は「月次報告書」である。


四 監督委員の報告書
 監督委員も、裁判所の定めるところにより、再生債務者の業務及び財産の管理状況その他裁判所の命ずる事項を裁判所に報告しなければならない(3項)。これを3項報告書というが、実務では少ない。
 しかし、再生計画について、法174Aに掲げる事由の有無を調査して報告することが求められている。125条1項報告書には、規58@の書面の添付が求められることがある。
 実務では、一般に法126@に基づく財産状況報告集会が招集されないので、125条1項報告書は、再生手続開始決定の日から2ヶ月以内に提出しなければならない。この報告書は、再生債権者の閲覧に供するために、一定の場所に備え置くものとされる(規64@)。さらに、規63@Aの規定もある。1項報告書は、財産目録及び貸借対照表と共に再生債務者の財産状況を的確に把握するために不可欠な情報であり、それを再生債権者に提供すると共に裁判所に対して、再生計画の認可・不認可、役員の責任追及の要否等の判断資料を提供する働きをする。1項報告書や財産目録、貸借対照表に虚偽の記載があったときは、その内容の程度によっては管理命令の発令事由再生計画の不認可事由、再生計画の取消事由になり得る。


五 情報開示
 (1) 再生債務者等のする情報開示
 規1Aで再生債務者は再生手続の進行に関する重要な事項を再生債権者に周知させるように努めなければならないことになっている。これは、最終的には、再生債権者が再生計画案に対する同意・不同意の判断をするための資料の提供を意味する。具体的には、営業所などにおける情報開示として、@認否書、A認否書の内容の変更を記載した書面、B財産目録・貸借対照表、C125条1項報告書を再生債権者の閲覧に供するため、再生債務者の主たる営業所または事務所に備え置くことを命じ、それ以外の営業所または事務所には任意的に置くことができることにしている。再生債権者はこれらの書面を裁判所において、閲覧等ができるが、それ以外に簡易に閲覧できるようにしたものである。据え置くべき期間は、規64@に定めがある。再生債権者は、これらの書面を自ら有する再生債権にかかる記載がある部分の写しの交付を求めることができる(規43C)。なお、実務では、再生債権者への情報提供のため、また、債権者の理解と協力を得て事業の継続を円滑に進め再建を果たすために、再生手続の申立をした早い段階で規61@による債権者説明会の開催をしている。監督命令が発令されているときは、監督委員がオブザーバーとして出席することが多い。この債権者説明会を開催したときは、再生債務者等は、その結果を裁判所に報告すべきことになっている(規61A)。
 (2) 裁判所がする情報開示
 再生債権者ら利害関係人から裁判所書記官に対してする法16@、規9@による裁判所に提出された文書及び裁判所の作成した文書の閲覧等である。
 利害関係人は、再生債務者、管財人、監督委員などの機関、株主や従業員や再生債務者のスポンサーないしその候補者なども利害関係人として認めるべきだとされている。
 開示の方法として、閲覧、謄写、正本、抄本、謄本の交付、事件に関する証明書の交付、録音テープや磁気テープに関しては、閲覧と複製の請求(16@B)である。ただ、再生手続の円滑な進行を妨げる場合に、閲覧等の請求ができる時期に一定の制限が設けられる場合がある(16C1号2号)。2号について、暫定的な処分や口頭弁論期日の指定があるまでとなっているのは、これらの指定があると、利害関係人としては、当該処分を争ったり、攻撃、防御を行うために、記録の閲覧等を行う必要があるからである。開示対象は、16@、規9@にあるとおり、当該事件の記録全部である。時期による制限の外に、支障部分の閲覧等の制限がなされる場合がある(17@)。これを制限しないと、再生手続の目的を達成できないおそれがあるからである。その内容は、次のとおりである。
  • @ 裁判所が再生債務者等・保全管理人のする一定の行為について裁判所の許可を要する旨を定めた場合における裁判所の許可(法41条@・81B)を得るために提出された文書等(17@1号)。
  • A 保全管理人が、常務に属しない行為をするための裁判所の許可(81@但書)を得るために提出した文書等(17@1号)。
  • B 再生債務者等が、営業または事業の全部または重要な一部の譲渡について、裁判所の許可(42@)を得るために提出した文書等(17@1号)である。

  
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