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借家

ホーム弁護士菊池捷男の法律実務レポート 目次<借家


1 自動増減額特約
 いわゆるバブル時代にオフィスビルを借りるとき、3年毎に10%づづ賃料を値上げするという賃料自動増額特約を結びましたが、その後バブルが崩壊し、土地の値段も下がり賃料自体高いものになっておりますのに貸主の方は自動増額条項を盾に取り、今回も賃料の値上げを請求してきました。賃借人としてはむしろ賃料の減額の請求をしたいと考えていますができるでしょうか?

 自動増額特約自体はそれ自体合理性のある特約として有効であるが、著しい地価の低下や賃料相場の下落などから特約を機械的に適用すると不合理な結果になる場合には、事情変更の原則などによって、その特約の適用を排除し、増額を認めないとする判例(例えば平成8年6月13日東京地裁、判例タイムス933号236ページ)や自動改定条項特約はそれだけで直ちに無効となるものではなく、その内容が借地借家法32条3項(旧借地法12条1項や旧借家法7条も同旨)趣旨に反し、経済的事情の変更がなくとも賃料の増額をするとか、その増額は経済的事情の変更の程度と著しくかけ離れてた不合理なものであるとき無効になるとする判例(平成元年12月16日神戸地裁)などがあり、バブル時代に定めた自動増額条項がバブル崩壊後も効力を有するものとは認めないのが判例の考えのようです。
  それだけでなく、賃料の減額を相当とする要件があるときには、借地借家法32条に基づき、賃借人において賃料減額請求権を行使することもできるとされております。特殊な例として、建物の借主が自動増額条項に基づく貸主の収益保証をしたので、貸主が銀行から多額の融資を受けすでに建築代金を建築会社である借主に支払っているという事情のもとで、バブル経済の崩壊による激しい経済変動があったとしても、右自動増額条項を無効と評価することは許されないとして、借主からの自動定率増額特約は有効とした例もあります。(平成7年1月24日東京地裁判例タイムス890号250ページ)

2 家主の管理責任
 アパートの前の入居者が合鍵を使って現在入居している借家人の家財を盗んでしまった場合、家主に責任はありますか?


 家主の義務として、第三者が勝手に侵入できない建物を賃貸する義務があるので、家主に責任があると思われますが、判例はないようです。判例としては、不動産管理会社の従業員がカギを複製してアパートに侵入し女子医学生を絞殺した事例で、不動産管理会社の使用者責任を認めたものがあります。

3 家主の権利
 前問のようなケースを想定し、家主はアパートから退去する者に鍵の取り替え費用の請求をしたいが、できますか?


 特約がない限りカギの取り替え費用の請求はできません。
 特約があれば同等のものの取り替え費用の請求は可能と考えられます。

4 借家の瑕疵(1)
 過去に自殺者が出たアパートを黙って賃貸した場合、問題がありますか。

 平成7年5月31日東京地方裁判所の判例は、土地建物の売買において、売主の前所有者が約6年11月前に同建物に付属する物置で服毒自殺したことは建物の隠れた瑕疵に当たるとして、売買契約の解除を認めていますが、欠陥を意味する瑕疵は、物理的、機能的な欠陥を意味する場合だけでなく、心理的な欠陥を意味する場合にも認められており、自殺の履歴は瑕疵というのが判例です。したがいまして、借主は、賃貸借契約を解除し、家主に対し損害賠償の請求ができることになります。

5 借家の瑕疵(2)
 過去に大雨が降ったとき床上浸水したことのある借家を貸したところ、借家人が同じ被害に遭った場合に、借家人は、家主や仲介業者の責任を追求することは可能ですか。

 家主に瑕疵担保責任がありますので、当然に家主は損害賠償の義務があります。
 仲介業者の場合は、一般論として、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)があり、それを法文で明らかにしたものとして宅建業法35条1項の重要事項説明義務があり重要事項とは法文列挙のものに限らずすべての重要事項に及ぶと解されておりますので、居住者の財産に被害が及ぶことが予見される降雨時の浸水地域であることについての説明義務や、それを前提とした調査義務はあるものと考えられますが、物件の外観からは容易に知り得ない過去に生じた事実については、知っていたか、少し注意を払えば容易に知り得た場合に限定されると考えられるますので、本文の場合、仲介業者については、浸水地域であることを予見できたかどうかで結論が分かれることになります。

6 明け渡し
 借家の所有者ですが、借家人が賃料を支払ってくれない為に契約を解除して明け渡しをしてもらおうと思いますが、明け渡しをしてもらうまでの期間と強制執行の費用はどれくらいかかるものですか。

@ 期間について
 実例で紹介します。下記3つの事件のAは相手方が居住権を主張して法廷に出てきて争った事件で195日、Bは居住権を主張せず法廷にも出てこなかった事件で190日、Cは夜逃げをしたため訴状の送達ができず、公示送達の方法をとった事件で120日かかっております。

A 費用について
 Aの事件は借家人が自ら荷物を運び出した為、業者に頼むことがなかったため執行官の費用がかかっただけです。Bは借家人が自ら荷物を運び出した事件ですが、業者は強制執行に着手する直前まで準備をしたため費用が掛かっております。Cは夜逃げをした者が残した、自動車その他の動産がたくさんあったため、業者に撤去と保管をしてもらったことによる費用です。

  訴提起日  執行終了   明け渡しまでにかかった日数  執行官費用  業者費用
   平成12年2月24日  平成12年9月5日  195日  97,262円  0円
   平成12年2月21日  平成12年8月28日  190日  6,550円  116,550円
   平成12年7月18日  平成12年11月14日  120日  12万円予納で未清算  686,700円


7 家賃の消滅時効
 私は借家を所有している者ですが、借家人が5年以上前に1年分位の家賃を滞納したまま何処かへ引っ越していってしまいました。最近その居所がわかりましたので、滞納家賃の請求をしたいと思いますが、できますか。

 元の借家人が、消滅時効を援用すれば、家賃の請求はできません。
【解説 】
 家賃は、毎月支払いという定めがほとんどであると思われますが、民法169条は「年またはこれより短き時期をもって定めたる金銭その他のものの給付を目的とする債権は、5年間これを行わざるによりて消滅す。」と定めておりますので、その消滅時効は賃料支払い期日から5年の時効にかかることになります。そこで、借家人がこの時効による利益を援用(援用とは時効による利益を受けるという意思表示のことです。)すれば、その時点で賃料債権は消滅いたします。従いまして、あなたの場合、5年以上前に発生した賃料は消滅しているものと考えるべきです。

8 借家のブロック塀の倒壊
 私が住んでいる借家には、道路に面してブロック塀が設置されておりますが、そのブロック塀はたいへん古く、手で押すとぐらつく不安定な状態になっております。もし近所の子供たちがブロック塀を押すなどして遊びブロック塀が倒壊して怪我をした場合、私に責任がありますか。
 定期借家権とはどのような借家権ですか。

 責任が生ずる可能性があります。
 京都地方裁判所昭和57年3月4日判決は、相談事例と同じようなブロック塀を五歳の子供が押して遊んでいるうち崩れ落ち、車との間に挟まれ死亡した事故で、ブロック塀が表道路から容易に立入りできる場所にあり、また、事故当時倒壊する危険性があったにもかかわらず、平素からこれの安全性を確かめ、危険発生を回避すべき管理責任のある共同占有者が容易に危険な状態にあることを知りえたのにかかわらずこれを気付かず放置したため発生したのであるから、これによって発生した損害を賠償する責任がある、と判示し、建物の占有者に損害賠償の支払を命じました。
 ブロック塀は、土地の工作物とせられていますが、民法717条は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があったため他人に損害を与えたときは、第一次的にその工作物の占有者に損害賠償責任があると定めております。借家人は占有者ですので、第一次の責任があるのです。
  ただ、占有者が損害の発生を防止するため必要な注意を為したとき、例えば、家主にブロック塀の危険性を報告し撤去を求めるなどをしたときは、占有者である借家人に責任はなく、ブロック塀の所有者である家主に損害賠償の責任が生じます。

9 定期借家権
 定期借家権とはどのような借家権ですか。

定期借家権について

 定期借家権は、契約で定めた期間が満了すると、当然に消滅する借家権です。貸主に「正当理由」がなくととも、また、借主にどのような必要性があろうと、期間が満了すれば、借主は借家を貸主に返さなければならないという借家権です。無論借主から立退料を請求することはできません。
 このような貸主に強い定期借家権は、平成12年3月1日以後新たに建物を貸す場合、結ぶことができるようになりました。ただ、定期借家契約を結ぶ場合は、次の要件を満たす必要があります。
  • 1 必ず書面によって契約を結ぶ必要があること
  • 2 事前に定期借家契約である旨の説明を書面でしておかなければならないこと(説明を聞いたと書いた書面に借家人から署名押印をもらっておくと間違いありません。)

定期借家契約の特徴

 期間 1年未満でも20年を越えることでも可能です。
 従来型の借家契約は、
  • イ 期間を1年未満とする場合は、期間の定めのない賃貸借とみなされます。
  • ロ 賃貸借の存続期間は20年を越えることができませんが、定期借家契約の場合は、期間についての制約が一切なく、1年に満たない契約も20年を越える契約も可能となったのです。

賃借人の中途解約権

 従来型の借家契約では、特約がない限り、賃借人側から契約期間内に解約することはできないのですが、定期借家契約は、次の要件を満たしたときは賃借人側から中途解約権が認められ、建物の賃貸借契約は解約申し入れの日から1ヶ月を経過することによって終了することになりました。
  • イ 居住用建物で床面積が200平方メートル未満であること
  • ロ 転勤、療養、親族の介護などのやむを得ない事情があること
  • ハ これらの事情により、その建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと、この借家人からの中途解約権は、特約がなくとも認められるのです。また、特約によって中途解約ができないと定めても、その定めは無効とされます。
    この要件を満たさない定期借家契約(例えば事業用定期借家契約や一戸建て住宅で200平方メートル以上の広さのある建物)については中途解約権はありません。

家賃の増減額請求権を排除の特約が可能

 従来型の借家契約では、時間の経過により、経済事情の変動が変動したときは、当初の契約時の約束にかかわらず、原則として賃料の増減額の請求が可能ですので(ただし、一定期間増額をしないとの特約のみは有効)、例えば、物価が下落しても賃料は減額しないという約束の建物賃貸借契約を結んでいても、物価が下落すると、このような契約条件を無視して、減額請求も可能になるのですが、定期借家権では、このような約束を結ぶと、減額請求は出来ないことになります。
 なお、従来型の借家契約も結ぶことが出来ます。というより、定期借家契約を結ばないで借家契約を結ぶと、それが従来型の借家契約になるのです。
 従来型の借家契約は、
  • @期間が満了しても、賃貸人に「正当事由」がなければ更新の拒絶は出来ず、
  • A期間の定めのない契約であっても、賃貸人に「正当事由」がなければ、解約の申し入れは出来ません。
  • B「正当事由」は、容易には認められず、認められても立退料の支払いを補強条件とされることが多く、従来型の借家権は、借家人が法律で厚く保護されています。
     定期借家契約がいいか、従来型の借家契約がいいかは一概には言えませんが、期間満了により確実に返してもらいたいと考えるときは、定期借家契約を結ぶべきです。
     定期賃貸借契約書の書き方は、国土交通省が作成した定期賃貸住宅標準契約書がありますので、参考にして下さい。
 尚、「定期建物賃貸借契約は、事業用建物についても適用されるか」ですが、元々定期借家権の総説は、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が、良質な賃貸住宅などの供給を促進する目的で定期借家賃貸借制度を設けたものですが、借地借家法の規定上は居住用建物に限定するという規定の仕方をしておらず、居住用・事業用ともこの定期建物賃貸借契約を結ぶことができます。ちなみに公証人役場でも、事業用の建物について定期建物賃貸借契約を作成しております。
10 無断使用と家主の権利
 私は建物の賃貸人ですが、いつの間にか借家人Aが退去し、借家に別の人Bが住んでおりました。聞けば、借家人Aの親族だということです。
@ 私はその人に貸したわけではないので退去してもらいたいと思いますが、Bに出てもらえますか。
A また、家賃は誰に請求すれば良いのですか。Aにですか、Bにですか。

  • @ あなたは、Bに借家の明け渡しを請求することができます。あなたが建物を貸したのは借家人Aですので、それ以外の人は不法占拠者となり、あなたは所有権に基づいてBに対し明け渡しを求めることができるのです。
  • A あなたは、契約を結んだ借家人Aと現に住んでいるB双方に対し、家賃またはこれと同額の損害賠償を請求できます。ただし、一方が未払家賃を支払えば、他方に請求することはできません。あなたは借家が返還されていない以上、借家人Aに対しては、契約が解除されていない間は家賃として、契約を解除した後なら家賃相当の損害金として、家賃またはこれと同額の損害賠償の請求ができるのです。

11 使用貸借契約と固定資産税の負担
 私は、長年、従兄弟に土地を無償で貸していたのですが、従兄弟が亡くなったので、その相続人らに土地の返還を請求しましたところ、相続人らは、従兄弟が固定資産税等の公租公課を負担してきたので、無償の使用貸借契約ではなく、賃貸借契約であるので、返還する義務はないと言い出しました。このような言い分はとおるのですか。

 土地を無償で貸す契約を使用貸借契約と言い、賃料の支払を受けて有償で貸す契約を賃貸借契約と言います。この両契約は、効果が全く違い、借主が死亡したときは、使用貸借契約の場合は契約の効力が失われますので、借主の相続人は土地を貸主に返還しなければなりませんが、賃貸借契約の場合は、借主の相続人は賃借権を相続することになり、全く違った扱いを受けます。
 そこで、借主が固定資産税等の公租公課を負担しているときは、無償の使用貸借契約ではなく、有償の賃貸借契約といえるのではないか、という問題が生ずるのです。 たしかに、借主の側から言いますと、土地の使用に伴い、固定資産税等の公租公課を負担しているので、全くの無償ではないため、これを有償と言えるのではないかとの疑問が生ずるのですが、貸主の側から見ると、賃料とは利潤と公租公課からなるものであり、公租公課は負担してもらっても、利潤になる対価は支払ってもらっていないので賃料をもらっているとは言えないと言うことになります。

  判例は、建物の使用貸借契約について、最高裁判所昭和41年10月27日判決が、建物の借主が、建物を含む貸主所有の不動産に賦課された固定資産税等の支払を負担する等の事実があるとしても、右負担が建物の使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特段の事情のない限り、当該貸借関係は使用貸借であると認めるのが相当である、と判示し、土地について、大審院昭和8年11月11日判決が、借主が公租公課を負担したからといって、使用貸借契約ではないと断定できないと判示し、いずれも使用貸借契約であるとしていますので、ご質問の契約は使用貸借契約ですから、返還を請求することができます。

12 競売になると借家権はどうなるか。
 借家が競売になったときは、すぐに建物をでないといけないのですか。

 6ヶ月の明渡猶予が認められます。
 ただ、建物の1番抵当権の設定前からの借家人は、抵当権者に対抗できる賃借権を持っていますので、競売による建物買受人に対しても、賃借権の対抗ができ、借家が競売になって買受人が現れても、引き続いて建物の賃借人であり続けることができます。
 しかしながら、通常、マンションやアパートの場合は、銀行からお金を借りてマンション等を建築する例がほとんでしょうから、建物に入居した時点では建物に抵当権が設定されているのが通例と思われます。したがって、抵当権の設定前からの建物賃借人ということは希なことと思われます。多くの、というより、ほとんどの借家人は、抵当権者に対抗できないものと思われます。
 このような抵当権に対抗できない借家人でも、改正担保・執行法(平成16年4月T日施行)により、建物の競売による売却の時(代金納付の時)から6ヶ月間は、建物を明け渡さなくてもよいことになりました。その代わり、従前からあった期間3年以内の短期賃借人の保護はなくなりました。
 ただ、借家人といっても、無償で借りている、いわゆる使用貸借権者には、明渡猶予の恩恵はありません。
 家賃はどうなるかと言いますと、明渡猶予の適用を受ける借家人は、家賃の支払い義務はありませんが、家賃相当額の不当利得返還義務を負います。万一、競売での買受人が借家人に対し、相当の期間を定めて、その1ヶ月分以上の支払いを催告したにもかかわらず、その期間内に支払いをしないときは、期間経過後は明渡を拒むことができなくなります。

13 将来の家賃請求権についての債権譲渡
 私は、Aさんよりマンションを借り受けている者ですが、今般Aさんから、今後5年間の家賃請求権をBさんに譲渡したので、家賃はBさんに支払うようにと書いた内容証明郵便が送られてきました。
 マンションを譲渡しないで、将来の家賃請求権のみを譲渡することができるのですか。 また、Aさんは家賃で銀行のローンを支払っているのですが、銀行から債権譲渡は無効だと言われる恐れはありませんか。

 昭和53年12月15日最高裁判所判決は、医師の社会保険診療報酬支払基金に対する診療報酬債権について、同基金に対する診療報酬債権は、毎月一定期日に1ヶ月分ずつ支払われるものであり、その支払額は一定額以上の安定したものであるから、将来取得しうべき右債権の始期と終期を特定してその範囲を確定することによりこれを第三者に有効に譲渡することができる、と判示しておりますので、家賃債権も始期と終期を特定することによって有効に譲渡できます。
 従って、あなたは家賃をBさんに支払わなければなりません。ただ、今後あなたが借りているマンションにつき、抵当権を有する債権者(本問の場合は銀行)が抵当権の物上代位権に基づいて家賃債権を差し押さえたときは、銀行の抵当権設定登記の日が、債権譲渡の内容証明郵便の到達時よりも先になっておれば、銀行の権利が優先する(東京高等裁判所・平成9年2月20日判決)ことになり、その場合は差押えがあった日以後の家賃については銀行に支払わなければならないことになります。

14 原状回復義務の範囲
 私は、ビルの一室を賃借していましたが、今般解約してこれを返還することになりました。
 ところが、家主から、契約条項に原状回復義務を定めているので、新築引渡時の状態に回復して返還するようにと言ってきましたが、それをしなければなりませんか。

 無効や取消の理由がなければ、契約は履行しなければなりません。同種事案で、東京高判平成12年12月27日判決(判タ1095号176頁)は、新築のオフィスビルの賃貸借において「賃貸借契約が終了するときは、賃借人は、賃貸借期間終了時までに造作その他を賃貸借契約締結時の原状に回復しなければならない。」との契約条項がある以上、賃借人は賃借当時の状態にまで現状回復して建物を賃貸人に返還する義務があると判示しております。

15 敷引きとハウスクリーニング
 以前、住んでいたアパートの修繕費の事についてお聞きしたいのですが。
 家賃7万5千円で敷金として22万5千円預けていたのですが、1ヶ月分は差し引いて残りのお金は修繕費として20万円くらいかかるので返金は出来ないと言われました。
 修繕費の内容を見ると、壁紙の張替え、カーペットの張替え、ハウスクリーニング代などで20万くらいかかると書いてありました。その費用は私が払わないといけないのですか。

 あなたが結ばれた建物賃貸借契約では、家主が建物賃貸借契約終了時に敷金から1ヶ月分の家賃相当額を控除し、借主であるあなたに返還しないことができるという、いわゆる「敷引き」の約束があるようですが、この1ヶ月分の家賃相当額は、「建物賃貸借契約の解除に伴う損害賠償の予定額」とされております。損害賠償の予定額というのは、損害がそれ以上であってもその金額を支払うだけでそれ以上の損害賠償の義務はない、また損害がその金額未満、あるいは損害が無い場合であっても、約束の金額(この場合は敷引き額)を支払う義務があるというものです。したがいまして、あなたの場合は、敷引きの約束があるので、それとは別に、それ以上の損害賠償の義務はありません。
 なお、建物の使用による通常の価値の損耗分は賃料の中に含まれるものと考えられていますので、あなたの過失で壁紙を汚したため張り替えが必要になったという場合ではなく、借家人が変わるたびに壁紙の張替え、カーペットの張替え、ハウスクリーニングをしているというケースでは、そのような費用は損害賠償の対象にもなりません。
 いずれにせよ、あなたの場合はハウスクリーニング費用の負担義務はないと考えられます。

16 建物賃貸借契約の中途解約
 建物賃貸借契約で、借主からの中途解約ができますか。

1.期間の定めのない建物賃貸借契約の場合

 期間の定めのない賃貸借契約の場合(当初の契約期間が経過後、法定更新となっている場合は、通常期間の定めのない契約となります。)は、民法617条1項で、「当事者が賃貸借の期間を定めざりしときは各当事者は何時にても解約の申入を為すことを得此場合に於いては賃貸借は解約申入後左の期間を経過したるに因りて終了す。1 土地に付いては1年 2 建物に付いては3ヶ月 3 貸席及び動産に付いては1日」と定めていますので、建物賃貸借契約は3ヶ月前の解約申入によって賃貸借契約を終了させることができます。

2.期間の定めのある契約

@借主が特約で解約権を留保している場合1−予告期間の定めがない場合
民法618条が「当事者が賃貸借の期間を定めたるもその一方または各自がその期間内に解約をなす権利を留保したるときは前条の規定を準用す」と定め、建物賃貸借契約の場合は3ヶ月の予告期間をおいて解約することができることになっております。
A借主が特約で解約権を留保している場合1−予告期間の定めがある場合
イ 3ヶ月より短い予告期間の特約の場合は、@の場合より、借主の負担が軽くなるので、有効であることは言うまでもありません。
ロ 3ヶ月より長い予告期間を定めた場合、例えば6ヶ月前に予告をすることで解約できると定めた場合の効力ですが、これについては東京高裁昭和59年10月16日判決(判時1135号43頁)は、ビルの賃貸借契約の事例で、6ヶ月の予告期間をおく解約特約を有効と判示しております。
B借主の中途解約権が定められていない場合
原則として、借主からの解約は認められません。ただ、この場合は、貸主と借主の合意の内容が明確ではないため、意思解釈のもとで、解約が認められる場合もあると解説する教科書もあります。
C借主の中途解約権は認めない旨を定めている場合
原則として借主からの中途解約権は認められません。

17 賃貸住宅経営で起こりうるトラブル対策 −老朽化賃貸住宅の賢い整理方法−
クリックで解説が開きます。再クリックで閉じます。

(1) 借家の建築前の法律問題

(2) 建築請負契約の法律問題

(3) 建物完成直後の法律問題

  • @ 新築のアパートに入居した人から、めまい、吐き気、頭痛、平衡感覚の失調や呼吸器疾患などいろいろな症状が訴えられ、損害賠償の請求を受けました。支払わないといけませんか。
  • A マンションの建築で隣家の日照権を侵害したら、損害賠償義務がありますか。

(4) 建物賃貸借契約締結の際の法律問題

  • @ 一定期間経過後に必ず明け渡してもらえるような建物賃貸借契約を結ぶことはできますか。
  • A 賃借人からの中途解約をできなくしたいのですが、できますか。

(5) 賃貸中の法律問題

  • @ アパートが古くなったので、契約期間が経過したら、建物賃貸借契約を解約したいのですができますか。

(6) 明渡時の法律問題

(7) 明け渡し後の法律問題

  • @ 家賃の時効期間は何年ですか。


18 震災と瑕疵 〜珍しい判例〜
 阪神・淡路大震災により賃貸マンションの一階部分が倒壊し、一階部分の賃借人が死亡した事故で、この事故は、建物の瑕疵と阪神・淡路大震災という自然力とが競合して生じたものであり、建物の瑕疵の寄与度は5割であるとして、賃借人死亡による損害の5割に相当する1億2900万円の支払いを命じた判例があります(神戸地裁平成11/9/20判決。判例時報1716-105)。
 珍しい判例ですので紹介します。

19 事業用ビルに転借人がいる場合の立退き問題
 A社がビルの所有者、B社が賃借人、C社が転借人でビルを使用しているとします。A社はC社に退去してもらいビルを返してもらいたいと思ったとき、どうなるか?ですが、A社とC社との間には賃貸借契約はありませんので、A社がC社にビルを明け渡してもらいたいと考えた場合、B社との賃貸借契約(これを「基本賃貸借契約」といいます。)を解消する外ないことになります。

(1) 原則
 基本賃貸借契約が終了すれば、転貸借も終了します。
 B社とC社との転貸借契約は、A社・B社間の基本賃貸借契約が前提になっていますので、基本賃貸借契約が終了すれば、当然に、B社とC社との転貸借契約も終了することになります。この場合、転借人C社は、賃貸人A社から基本賃貸借契約の終了の通知を受けた後6ヶ月間しか建物を使えないことになります(借地借家法34条)。

(2) 転貸借を終了させる方法 
  • ア 賃貸人A社からの解約の申入れまたは更新拒絶の通知
    −ただし「正当理由」が必要賃貸人による解約申入れ等には正当理由が必要でありますが、その有無を判断する資料としては、賃借人の事情だけでなく、転借人の事情も考慮されます(借地借家法28条)。
    正当理由は、法28では、
    a 建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情
    b 建物の賃貸借に関する従前の経過
    c 建物の利用状況
    d 建物の現況
    e 立退き料の申出の有無、金額
    を考慮して決められることになっております。
     転借人がいる場合は、転借人の事情も考慮されることに注意が要ります。
     なお、立退き料の申出の時期ですが、借地契約の例の最判H6.10.25は、事実審の口頭弁論終結時まででよい、としています。これは、立退き料がいくらが相当かは訴訟における審理を通じて客観的に明らかになるものであるから、という理由からです。
  • イ 賃借人からの解約の申入れ・更新拒絶
     賃借人からの更新拒絶による場合は、期間の満了によって契約は終了することになりますが、転貸借契約はどうなるかについては争いがあります。判例は、特別の事情がある場合は、更新拒絶による基本賃貸借契約の終了をもって転貸借人には対抗できない、という考えです。
     最判H14.3.28は、事業用ビルの経営の素人であるA社が専門のビルの賃貸・管理業者B社に勧められて、ビルを建築した後、B社がビルの各部屋(事務所・店舗)を転借することを承諾してB社に賃貸していた場合に、B社が更新拒絶しても、賃貸人Aは、信義則上、賃貸借契約の終了をもって転借人に対抗することができない、とされております。
  • ウ 基本賃貸借契約の賃借人B社に債務不履行がある場合の解除
     この場合は、転貸借契約は終了するというのが判例(最判S36.12.21)です。
     これについては学説も賛成しています。
     ところで、B社に債務不履行が生じた後、A社が解除の意思表示をする前に、A社はあらかじめC社に対し催告をしC社に弁済(賃料の支払等)の機会を与えることを要するかについては争いがあります。
     つまり、A社がB社との基本賃貸借契約を解除すると当然にC社の転借権がなくなるわけですから、B社の債務不履行について責任のないC社に当然のように転借権を失わせる結果になることは酷なので、A社はC社に対し、「B社に債務不履行があるので、A社は賃貸借契約を解除する予定だが、C社がB社に代わって債務の履行をすれば、C社は転借権を失わないで済むので、B社の債務を履行してはどうですか?」という意味の催告を要するか、が争点になっているのです。
    この点、判例は不要であると言っています(最判S37.3.29)が、この点は学説から批判されていることと、この判例が古いこともあって、この判例は変更になる可能性があると考えておいた方がよいでしょう。
(3) 例外ー転貸借は終了しない場合
  • ア 基本賃貸借契約がA社とB社とで合意によって解除された場合この場合は、転貸借は終了しないというのが最判S37.3.29です。
  • イ B社が賃借権を放棄する場合も同じで、転貸借契約は終了しません。A社とB社の意思だけで、C社の転借権を失わせることは相当でないとの考えからです。

20 建物建替えの必要性と解約の正当理由
 建替えの必要性は「正当理由」になるか?

 具体的な事情によりますが、正当な理由の判断には、一般には、次の事情が考慮されます。
1,ビルの状況ー建替えの必要性または合理性
 構造、建築年月日、ビルの利用状況、構造部分に老朽化はあるか、管理状況はどうか、安全性に直結する点で現行の建築基準法に適合しているか、適合していないとした場合適合させる必要性はあるか、行政(特に消防署)からの改修等の要請の有無
2,建替えの実現性
 具体的な計画はあるか、近隣のビルの状況はどうか?
3,テナントへの配慮
 立退き交渉開始時期、開始の経過、他のテナントの退店状況、退店しやすくするための譲歩、立退き料の提示の有無と金額、その計算根拠
 参考になると思える判例を紹介します。

1 東京地裁H8.3.15判決
 結論:立退料800万円の支払と引換えに建物明渡しを命じた事例
 なお、この事案は、訴訟提起前に、賃貸人から賃借人に4000万円の立退き料を提示していたの   ですが、賃借人がこれを拒否したため、訴訟になった事案で、賃借人は4000万円でなくその5分の1しか立退き料がもらえない、というめずらしい判決が出た事案です。
 裁判で正当理由が認められた際考慮された双方の事情
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和43年建築 築28年(判決時)、鉄筋コンクリート8階建てのビル
  • 外壁にはひび割れ、浮き等、配管等の腐食、内部にもひび割れ等
  • H6時の建築基準法の要請みたさず修繕困難、修繕に莫大な費用がかかるとの証拠なし)
(2) 賃借人側の事情
@本件建物使用の必要性
  • 賃借人は、OA事務機器等の販売、ダイレクトメールの発送等を行う有限会社
  • 本件建物は本店所在地
  • 近くに新宿営業所が有り(本件建物は千代田区)
  • 新宿営業所の方が規模は大きい
A代替地の可能性
  • 同地域に貸しビル等多いが、賃料負担は増える
(3) 訴訟提起時では、一定の金銭的補償あれば、正当事由を補完

2 東高H11.3.23判決
結論:控訴棄却(原審は、立退料200万円の支払と引換えに本件建物明渡し)
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和43年建築の木造建物(H11には築40年を経過)
A自己使用の必要性
  • マンションの建築計画有り
  • 8戸中7戸は退去
(2) 賃借人側の事情
  • 住居として使用、82歳と高齢、身体障害者
(3) 立退料の根拠
  • 引越料、転居後の賃料と現賃料の差額の1、2年分の金額(正当事由があり賃貸借契約を終了するので、借家権価格によっては立退料を算出しない。)

3 東高H5.1.21判決
結論:控訴棄却(賃貸借契約解約申し入れの正当事由なし)
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和30年の建築の木造アパート
  • 土台や柱に腐食なし、漏水箇所もなし、天井等にも破損箇所なし、電気系統にも支障なし、全体として良好
A自己使用の必要性
  • マンション建替計画有り
  • 契約書には期間満了時に無条件で立ち退く旨の特約条項があるが、契約締結時には計画の具体化なし
  • 別訴訟で賃貸借継続の和解をしている
(2) 賃借人側の事情
  • 高齢の単身生活者、病弱で生活保護を受給
  • 転居先見つからず  4 東地H11.1.22判決
結論:立退料8000万円の支払と引換えに建物明渡し
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • それぞれ昭和31年から43年頃建築
  • 本件各建物の耐用使用年数ほぼ残っていない(理由なし)
A自己使用の必要性
  • マンションの建築計画有り
Bその他
  • 立退料8000万円提示
(2) 賃借人側の事情
  • 造花材料の製造販売を営む会社、事務所及び倉庫として使用
  • アパート部分の4分の3は賃貸人に対抗できない賃貸借契約
5 東京高裁H10.9.30判決
結論:立退料4000万円の支払と引換えに建物明渡し
(判断理由)
    (1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和21年新築、昭和34年改築 店舗兼居宅
  • 土台等主要構造部の腐朽は若干あるが、まだ余裕あり
  • 本件建物には傾きがあり、2階は居住に適した状態ではない←比較的簡易な工事で居住性能は回復、しかも建物の寿命も10年延びると予想される(費用は500万円前後)
A自己使用の必要性
  • 事務所ビル又は賃貸マンションの建築計画有り
(2) 賃借人側の事情
  • 高級婦人下着の小売業営む
  • 極めて立地条件良い(近くに外国大使館、高級住宅地、水商売の女性も多い)
  • 過去に近隣に店舗を出店したが失敗
  • 代替店舗見つからず
  • 本件店舗の営業が代表者の生活の資
(3) 賃借人の不利益の補填あれば、正当事由を補完
借地権価格2675万、営業上の損失を考慮し、立退料4000万円と算定

6 東地H8.5.20判決
結論:立退料4000万円の支払と引換えに建物明渡し
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和36年建築、築35年を経過
  • 雨漏りあり
  • 消防署から改善指導を受けている
A自己使用の必要性
  • 少子化のため、学校経営上、校舎建て替えの必要有り
Bその他
  • 契約には更新について期間満了時協議するとの合意あり(賃貸人の自己使用のため)
  • 前訴提起時は、賃借人が投下資本を回収していないことを理由とする営業継続の要望を尊重し取下
  • 保証金3000万円返還の意思表示
(2) 賃借人側の事情
  • 立食そば店を経営、本件店舗が経営の中心
  • 本件店舗は駅南口から10秒の場所、人通りの多い道路に面し、立地条件良い
  • 本件店舗の利益は、別店舗の約3倍
  • 賃貸借契約締結の際、保証金3000万円、権利金500万円を支払う
  • 工事費241万を負担
(3) 賃借人の移転先での営業が軌道に乗るまでの減収の一部を補填する立退料の負担により正当事由を具備

7 東地H8.7.29判決
結論:請求棄却(正当事由なし
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 築後30年経過
  • 現実に店舗として利用され朽廃に瀕しているとはいえない
A自己使用の必要性
  • 地下1階地上10階のテナントビルの建築計画
  • 賃借人が本件土地上に本件建物を所有し、これを賃貸していることを承知の上で本件土地の所有権を取得
  • 都内に多数の不動産を所有し、不動産を高く売ろうとして立退を迫っているに過ぎない
Bその他
立退料3億円
(2) 賃借人側の事情
  • 第3者に賃貸し、もっぱらその賃料を取得
  • 賃貸人との共同開発を希望←賃貸人は拒否

8 東地H9.2.24判決
結論:請求棄却(正当事由なし)
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和37年築の木造2階建て
  • 家屋が密集した商業地域内にあるため、不燃化建物への建替要請
A自己使用の必要性
  • 地上8階地下2階の鉄骨鉄筋コンクリート造りの商業ビル建築計画
  • 本件訴訟の他、4件の借家人との間で明渡訴訟が残っている
B計画の実現可能性
  • 賃貸人は債務超過状態、差押えや競売の申立あり
  • 別の借家人に対して立退料の支払いを履行していない
(2) 賃借人側の事情
  • トンカツ屋を経営し、これが唯一の収入源
(2) 賃借人側の事情
  • 高級婦人下着の小売業営む
  • 極めて立地条件良い(近くに外国大使館、高級住宅地、水商売の女性も多い)
  • 過去に近隣に店舗を出店したが失敗
  • 代替店舗見つからず
  • 本件店舗の営業が代表者の生活の資
(3) 賃借人の不利益の補填あれば、正当事由を補完
借地権価格2675万、営業上の損失を考慮し、立退料4000万円と算定

6 東地H8.5.20判決
結論:立退料4000万円の支払と引換えに建物明渡し
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和36年建築、築35年を経過
  • 雨漏りあり
  • 消防署から改善指導を受けている
A自己使用の必要性
  • 少子化のため、学校経営上、校舎建て替えの必要有り
Bその他
  • 契約には更新について期間満了時協議するとの合意あり(賃貸人の自己使用のため)
  • 前訴提起時は、賃借人が投下資本を回収していないことを理由とする営業継続の要望を尊重 し取下
  • 保証金3000万円返還の意思表示
(2) 賃借人側の事情
  • 立食そば店を経営、本件店舗が経営の中心
  • 本件店舗は駅南口から10秒の場所、人通りの多い道路に面し、立地条件良い
  • 本件店舗の利益は、別店舗の約3倍
  • 賃貸借契約締結の際、保証金3000万円、権利金500万円を支払う
  • 工事費241万を負担
(3) 賃借人の移転先での営業が軌道に乗るまでの減収の一部を補填する立退料の負担により正当事由を具備

7 東地H8.7.29判決
結論:請求棄却(正当事由なし)
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 築後30年経過
  • 現実に店舗として利用され朽廃に瀕しているとはいえない
A自己使用の必要性
  • 地下1階地上10階のテナントビルの建築計画
  • 賃借人が本件土地上に本件建物を所有し、これを賃貸していることを承知の上で本件土地の所有権を取得
  • 都内に多数の不動産を所有し、不動産を高く売ろうとして立退を迫っているに過ぎない
Bその他
立退料3億円
(2) 賃借人側の事情
  • 第3者に賃貸し、もっぱらその賃料を取得
  • 賃貸人との共同開発を希望←賃貸人は拒否
8 東地H9.2.24判決
結論:請求棄却(正当事由なし)
(判断理由)
(1) 賃貸人側の事情
@建物の老朽化
  • 昭和37年築の木造2階建て
  • 家屋が密集した商業地域内にあるため、不燃化建物への建替要請
A自己使用の必要性
  • 地上8階地下2階の鉄骨鉄筋コンクリート造りの商業ビル建築計画
  • 本件訴訟の他、4件の借家人との間で明渡訴訟が残っている
B計画の実現可能性
  • 賃貸人は債務超過状態、差押えや競売の申立あり
  • 別の借家人に対して立退料の支払いを履行していない
(2) 賃借人側の事情
  • トンカツ屋を経営し、これが唯一の収入源

21 小売業者が、デパート・スーパーマーケット・ショッピングセンター内で営業する場合、借家権は認められるか。
(1) デパートの場合
 ある程度のブランド力を持った小売業者が、デパートで一定の場所を確保して、小売をするケースがありますが、その場合、小売業者に、その場所で営業できる権利(借家権)が認められるでしょうか?

  一般(横浜地裁昭和50年2月4日判決等)には、
  • @賃貸場所が一定の固定的場所であり、図面等により明確に合意されていること
  • A各店舗が障壁等により区切られていること
  • B賃貸借契約書が作成されていること
  • C敷金、保証金の預託がなされていること
  • D営業用の設備等は業者の負担でなされること
  • E売上金は業者に帰属すること
  • F顧客に対する責任は業者が負担すること
  • Gデパートは業者の営業方針に原則として干渉することは許されないこと
  • H賃貸場所の変更、増減は業者の同意がない限り行うことができないこと
が認められる場合は、借地借家法上の権利(借家権)が認められますが、そうではなく、
  • @営業の主体はデパートであること
  • A使用場所の位置、面積について明確な定めがないこと
  • B売り場の変更、移動はデパートにおいて自由になしうること
  • C売り場の設備の設置、変更は原則としてデパートの費用において行うこと
  • D賃料の合意がないこと
  • E敷金、保証金の預託がないこと
  • F営業方針の最終決定権はデパートにあること
  • G売上金はデパートに帰属すること
が認められる場合は、借地借家法の適用のない、売上仕入契約にあたるとされていますので、デパートの場合は、借家権が認められるケースは少ないと思われます。
(2) スーパーマーケットではどうでしょうか?
 東京地裁平成8年7月15日判決は、スーパーにテナントとして入店しているパン屋が、障壁等はないものの独立した区画で、長年場所を移動していないこと、他の売り場と雰囲気が異なること、内装工事費や設備機材費等全てテナントが負担し営業を行っていること、保証金の預託があることを理由に借地借家法における建物賃貸借契約と認定しています。
(3) ショッピングセンターの場合は?
 名古屋高裁平成9年6月25日判決は、ショッピングセンターに入店しているテナントについて、入店契約は、借地借家法の適用される建物賃貸借契約であるが、契約書には、テナントは、賃貸人(ショッピングセンターの経営者)に、テナントの位置・面積について配置変更をする必要性が生じたときは、異議なくこれに応ずる等と約束している場合、それに従うと約束しているので、それに違反して、店舗レイアウトの変更に協力しなかったテナントに対し、契約解除を認めております。
 このケースは、デパートのケース貸と独立店舗型の賃貸借契約の中間的性格を持っているとされています。

22 ショッピングビルが利益が出ないことを理由にテナントとの契約を解除できるか。
 東京地裁昭和55年5月30日判決は、ショッピングビルの賃貸人が、ビルの営業の成績は開業当初を除き利益をあげていたものの、ビルの建設費や他の不動産取得費等の調達に伴う多額の負債の利息がかさみ、全体として毎年の決算結果は欠損状態であることから、ショッピングセンターの用途を廃止して別の用途に供することを計画して、テナントに解約申入れをした事例で、賃貸人主張の会社経営状況の理由は、自己の責に帰すべき経営上の失敗を責任のない賃借人に転嫁しようとするもので解約の正当事由とすることはできないと判示しております。

23 公営住宅でも、定期借家契約は可能か。
 法的には可能です。
 ただ、定期借家契約の締結を可能とする平成の「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が国会で審議されていたとき、議員の中から、これと同じ質問がなされた際、政府は、「・・・公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者のために賃貸する住宅であり、入居者が高額所得者となること等特段の事由がない限り居住が継続することを前提として制度が成り立っていることから、事業主体は、入居者との間で期間の定めがない賃貸借契約を締結しており、定期借家制度にはなじまないと認識している。」と答弁しています。
 現在の公営住宅法においても、第1条の公営住宅法の目的、また、明渡し事由が高額所得者・家賃滞納等に限られていることから(同法29条、32条)、新規入居者に対して全面的に定期借家制度を導入することは、法の趣旨に反すると思われます。

 東京都は、若年ファミリー世帯、マンション建て替えに伴う一時的住宅困窮者、事業再建者等に限定して、また、対象地域も限定の上、定期借家制度を都営住宅に導入していますが、公営住宅法の目的が住宅に困窮する低額所得者のためのセイフティーネットであることを考えると、入居待ちの低額所得者がいる場合で、定期借家の対象者が限定されている(上記のように、若年層等)のであれば、東京都のように、定期借家(期限付き)制度のを導入することは可能ではないかと思いますが、期限後の住宅あっせんの問題等は検討の必要があると思います。

24 借家契約における特約の効力
1,信用不安事由を解除事由とする特約は有効か? 
【無効】
 賃借人につき差押え、破産手続の開始申立等一定の信用不安事由が生じたときは、賃貸借契約を解除できる、と定める特約は、借家法第6条に違反し、無効(最高裁昭和43年1月21日判決)。
2,賃料不払いがあれば無催告解除できる、との約束は有効か?
【条件付有効】
 借家人が1ヶ月分でも家賃を支払わないときは催告なしに賃貸借契約を解除できる、と定める特約は、家賃の支払の遅滞を理由に契約を解除するにあたり、催告をしなくても不合理とは認められないような事情が存する場合には催告なしに契約を解除できる旨を定めた約束であるとして有効とされ、5ヶ月分の家賃滞納者に対する無催告解除を有効(最高裁昭和43年11月21日判決)。
 なお、賃料の支払を3ヶ月以上怠ったときは、催告無くして契約を解除できる旨の特約を有効とした判例もある(最高裁昭和37年4月5日判決)。

3,使用目的を限定し、それに違反すると解除できるとの特約は有効か?
【原則有効】
 事務所・店舗として賃貸借契約を結んだのに、無断改造をしてクラブとして使用した事案で、解除有効(東京地裁平成3年7月9日判決)。

4,賃料を値上げしないという特約は、借家人に不利な契約ではないことから、一定期間あるいは社会常識上相当と認められる期間、値上げをしないというもの(あるいはその限度で)有効(大阪高裁昭和53年10月5日判決)だが、賃貸借契約期間中値上げをしないという契約は無効。
【参照:借地借家法32条】
 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
   ただし、定期建物賃貸借契約では、同法38条7項で、「第32条の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しないので、定期建物賃貸借契約では全期間値下げしないという特約は有効。

5,賃料を減額しないという特約
【無効】
  • サブリース契約でも同じ。借家人は借地借家法32条により、賃料の減額を求めることができると判示(最高裁平成16年11月8日判決)。
  • ただし、オーダーリース契約あるいはオーダーメイド賃貸借契約では有効。汎用性が制限されていることが理由(東京高裁平成15年2月13日判決)。

 Q デパートでの建物賃貸借契約で多い、定額賃料と比例賃料の合計額を賃料とするケースで、賃料が不相当として増減請求が出来るか?
このような賃料設定についても、借地借家法の適用を受ける。借主の売上減により賃料が高止まりし、これが借主の予想外のことであれば、減額請求はできる。賃料の仕組みは尊重せられる(横浜地裁平成9年3月30日判決)。

6,店舗位置の変更に関する特約(ショッピングセンターの場合)
 ショッピングセンター内での出店契約条件として、貸主の経営判断により、借主の店舗の位置、面積、レイアウト、賃料、共益費、建設協力預託金、敷金などの変更をすることができる、とする特約は有効(名古屋高裁平成9年6月25日判決)。契約違反に対し解除は有効。ただし、借主に過酷な条件変更は無効となるケースもある。

 7,造作買取請求権の事前放棄の特約は有効(大阪高裁昭和63年9月14日判決)

 8,有益費償還請求権の事前放棄の特約は有効(東京地裁昭和61年11月18日判決)

 9,自然損耗、通常損耗について原状回復義務を負担させる特約は無効。
     消費者契約法10条に違反する。(大阪高裁平成16年12月17日判決)

 10,敷引特約も消費者契約法10条に違反し無効(神戸地裁平成17年7月14日判決)

 11,更新料支払特約は、賃借権を実質的に強化するものであるから、更新料が賃料の1ヶ月分相当
   額とされているケースでは有効。
     (東京地裁平成17年10月26日判決)

 11−2,更新料特約は無効との裁判例が出ました。
 京都地方裁判所平成21年7月23日付け判決は、契約更新時に更新料11万6000円(賃料2か月分)を支払う特約が付せられた、期間を2年間とするマンションの賃貸借契約では、
  • @賃借人として本件物件を(たとえ1か月でも)継続して借りようとする以上、その全額を支払わなければならないものであること
  • A原告としては本件更新料特約について交渉する余地がほとんどないこと
  • B賃借人としては、引き続いて当該物件を借りるのが一般的であるところ、当該物件を選ぶ際に更新料の存在及びその額を知り得ないこともあり、更新料まで考慮して契約を締結することは困難であること
  • C更新料は、契約期間2年に対し月額賃料の2か月分を支払うものであること
  • D正当事由(借地借家法28条)の有無に関係なく支払わなければならないこと
  • E法定更新なら全く金員を支払う必要がないことからすると、原告にとって大きな負担となることを理由に、被告が主張する本件更新料の性質(更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価、賃料の補充 等の主張)に合理的理由は認められず、その趣旨は不明確であるとし、本件更新料特約は、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)に該当し無効であると判示しました。
12,暴行暴言等の迷惑行為防止特約は有効。違反による契約解除を認める。
(最高裁昭和50年2月20日判決)

13,借主が家賃を滞納した場合、貸主は借主の承諾なくして、建物に立ち入り適当な処置をとることができるという自力救済特約は無効。
 自力救済行為は不法行為になる(東京地裁平成18年5月30日判決)。

25 不安の抗弁
 賃借人は、賃貸不動産が競売に付されたことにより、敷金が返還されない不安が生じたとき、賃料の支払いを拒むことが出来るか

 できます。
 これを「不安の抗弁」と言います。
 名古屋地方裁判所平成14年5月10日判決は、「借主は、貸主が競売手続の開始決定を受けた場合には,継続的な法律関係としての賃貸借契約上の信義則により,将来賃貸借契約が終了した場合の貸主の借主に対する敷金返還義務の履行についての不安を理由として,貸主に対し,その履行の担保の趣旨で,賃貸借契約が終了した場合に貸主から借主に対して返還されるべき敷金の額に相当する金額に達するまで、賃貸借契約に基づく賃料の支払義務の履行を拒絶することができるものというべきである。」と判示しています。

26 事業用ビル、大型モール、ファッションビルにおけるリース契約(賃貸借契約)の消滅は、当然に、サブリース契約(転貸借契約)の終了につながるか?
(問題)
 事業用ビル、大型モール、ファッションビルは、多数のお店が入店していますが、その店舗経営者が単一の所有者というケースは少なく、多くの場合、賃借人、転借人、再転借人など複数の経営者からなるものと思われます。
 後者の場合、その賃借権や転借権は、理論上、賃借権の上に築かれたものですので、基礎になる賃借権が消滅すると、賃借権や転借権も消滅することになります。
 では、実際の契約でも理論通りそうなるのか?

1,合意解除によって賃貸借契約が終了した場合
  賃貸人Aと賃借人Bとが賃貸借契約を合意で解除した場合、転借人Cや再転借人Dの権利は消滅するのか?
  最高裁昭和38.2.21民集17-1-219)は、転借人Cに不信な行為があるなどして賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約を合意解除することが信義、誠実の原則に反しないような特段の事由のある外は・・・転借人の権利は消滅しない、と判示しています。

2,債務不履行で契約が解除された場合
賃借人Bが債務不履行をしたために、契約を解除された場合はどうか?
 最高裁平成9.2.25判決は、Cの転借権は、Aに対抗できるものでなければならず、Bが債務不履行によりA→B間の賃貸借契約を解除されると、Cの転借権はAに対抗できないものになるので、A→B間の賃貸借契約がBの債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、AがCに対して直接目的物の返還を請求したときは、CはAに対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。
と判示しました。
 ところが、この判例は、次にのべる平成14.3.28判決で変更になったのかが議論されています。

3,更新拒絶により契約が終了した場合
 賃借人Bが契約の更新を拒絶することで、賃貸借契約が終了した場合はどうか?
 最高裁平成14.3.28判決は、次の事案で、リース契約(賃貸借契約)が更新拒絶で消滅しても、サブリース契約(転貸借契約)は消滅しない、と判示しました。

(1) Aが所有地上に建物(事業用ビル1棟)を建築
(2) A→Bに建物を一括して賃貸。Aは予めBがサブリース契約を締結することを承諾
(3) B→Cに建物の一部を転貸
(4) C→Dに?の一部を再転貸。AとBの承諾あり
(5) Bは転貸事業から撤退することにし、期間満了後契約を更新しないことをAに通知
(6) A→CおよびDに賃貸借契約が期間満了によって終了する旨を通知
(7) A→CおよびDに、転貸部分、再転貸部分の明渡と損害賠償を求めて提訴

最高裁の判断
(7)の請求は認められない。
理由
(1) AとB間の賃貸借契約は、BがCへ転貸、さらにはCからDへの再転貸を承諾したにとどまらず,転貸、再転貸借の締結に加功たものというべきであるから、Bが更新拒絶の通知をしてAB間の賃貸借が期間満了により終了しても、Aは、信義則上,本件賃貸借の終了をもってCやDに対抗することはできず、CやDは転借権、再転貸借に基づくその貸借部分の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは、Bの更新拒絶の通知にAの意思が介入する余地がないことによって直ちに左右さるものではない。
 この結果、AはBの法的地位を引き継ぐことになると解されます(ジュリスト1246の72ページ)。
 このジュリストの記事:慶応義塾大学の金山直樹教授は、この最高裁の判断は、Bが債務不履行をしたため、Aがリース契約を解除した場合も適用されるだろうと考えられ、この判例は、2の判例を変更したと考えられています。

27 通常損耗部分については、原則として、賃借人には、補修義務はない。    生活による変色、汚損、破損と書いた程度では、賃借人が負担する特約があったとは言えないとの最高裁判所判決(平成17.12.16判決)
1 補修に関する約定は有効であるか?

2 補修約定の内容1
  「賃借人が住宅を明け渡すときは,住宅内外に存する賃借人又は同居者の所有するすべての物件を撤去してこれを原状に復するものとし,本件負担区分表に基づき補修費用を賃貸人の指示により負担しなければならない。」

3 補修約款の内容の2「負担区分表」の内容
  • 補修の対象物を記載する「項目」欄
  • 対象物についての補修を要する状況等を記載する「基準になる状況」欄
  • 補修方法等を記載する「施工方法」欄
  • 補修費用の負担者を記載する「負担基準」欄から成る一覧表

4 負担区分表記載の内容
 項目欄のうちの「襖紙・障子紙」の項目についての要補修状況は「汚損(手垢の汚れ,タバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」,「各種床仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損と認められるもの」,「各種壁・天井等仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損」と記載があり、これらはいずれも退去者が補修費用を負担するものとしている。また,負担区分表には,「破損」とは「こわれていたむこと。また,こわしていためること。」,「汚損」とは「よごれていること。または,よごして傷つけること。」であるとの説明がされている。

5 争点と原判決の結論
  (1) 本件補修約定は,賃借人が本件住宅の通常損耗に係る補修費用を負担する内容のもの
    か?・・・原審は肯定した。
  (2) (1)が肯定される場合,本件補修約定のうち通常損耗に係る補修費用を賃借人が負担すること
    を定める部分は,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律3条6号,特定優良賃貸住宅の
    供給の促進に関する法律施行規則13条等の趣旨に反して賃借人に不当な負担となる賃貸条件
    を定めるものとして公序良俗に反する無効なものか?・・・原審は否定した。
  (3) 本件補修約定に基づき上告人が負担すべき本件住宅の補修箇所及びその補修費用の額・・・
    原審は、負担区分表に定める基準に合致し,その補修費用の額も相当であるとして,賃借人が負
    担すべきものとした。

6 原審の理由
 (1)については、賃借人が賃貸借契約終了により負担する賃借物件の原状回復義務には,特約のない限り,通常損耗に係るものは含まれず,その補修費用は,賃貸人が負担すべきであるが,これと異なる特約を設けることは,契約自由の原則から認められる。
 (2)については、本件負担区分表は,本件契約書の一部を成すものであり,その内容は明確であること,本件負担区分表は,補修の対象物について,通常損耗ということができる損耗に係る補修費用も退去者が負担するものとしていること,賃借人は,本件負担区分表の内容を理解した旨の書面を提出して本件契約を締結していることなどにより、本件補修約定は,本件住宅の通常損耗に係る補修費用の一部について,本件負担区分表に従って賃借人が負担することを定めたものであり,賃貸人と賃借人との間には,これを内容とする本件契約が成立している。

7  最高裁判所平成17年12月16日判決の一般論
 賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。

8 最高裁判所判決がした、この事件への具体的な適用
 5の(1)の記載内容自体において通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。
 また,同項において引用されている本件負担区分表についても、要補修状況を記載した「基準になる状況」欄の文言自体からは,通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない。
 したがって,本件契約書には,通常損耗補修特約の成立が認められるために必要なその内容を具体的に明記した条項はないといわざるを得ない。



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